第33話

 高木が死んだ。

 あの優しい高木が死んだ。

 殺されて、死んだ。自己保身のために、高木は何の面識もない奴に殺された。


 『...............』

 僕は何も言えなかった。

 弔いの言葉も、高木の母を慰める言葉も。

 これはいけないと必死に声を出そうとしても、全て掠れてしまう。笑っている高木を思い出してしまって泣きそうになってしまう。


 『ごめんなさい。急に言ってしまって』

 『あ........いえ.........こちらこそ......』

 言葉が出ない。息がうまく吸えない。


 『実はこうやって佐原さんに電話したのは理由があるんです.......』

 一呼吸置いて、高木の母は続ける。

 『佐原さんのことは前から浩也に聞いていたんですが.........今まで本当にありがとうございました』

 正直、何を感謝されているのか分からなかった。僕は高木に何もしてやれなかったのだから

 

 『浩也は本当に佐原さんに救われました』

 何を言っているのか分からない。本当に僕のことだろうか。人違いじゃないだろうか。

 僕は高木を救えなかった。


 『実は遺言というか、伝言を浩也に頼まれていて、それを伝えに電話をしました』 

 遺言? ていうことは高木は死ぬことを覚悟していたのだろうか。


 『どういうこと、ですか?』

 高木の母は一つ返答に遅れていた。

 鼻を啜る音が電話越しに聞こえた。

 『浩也は人を殺さないって決めていたみたいで、いつか死ぬからって』


 高木は死を選んだのだ。

 僕と同じように、死を選んでいた。


 僕はその後、高木の母から高木の遺言を受け取り、しばらく動けなくなっていた。


 そんな僕に、声をかけてくれる奴はもう職場には、この世界には、いなかったのだ。


        * * *        


 高木の遺言はこうだった。

 

 “拝啓いつかの雅さんへ

 先に言っておきますが僕はもっと、

 もっと生きたかったです。

 死にたくて遺言を遺している訳では

 ありません。

 

 さて、きっと今、雅さんはなぜ自分に

 遺言を残されているのか不思議に

 思っていることでしょう。

 でも、理由は言いません。

 まあ、とにかく僕は雅さんに

 すごくお世話になりました。

 ありがとう雅さん。


 えー、長くなりましたが

 結局、僕が伝えたいことは一つです。

 

 

 『、また天国で会いましょう』


  


ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

説明書 No.33


生きるのに飽きたなら死に行こう。

死ぬのに飽きたのなら生に行こう。

たとえ、帰り道がなかったとしても、飽きたのならそこにいる価値はない。 

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