第11話
【一月四日】
三が日が終わり、世間は今日から仕事始めなのだが、駅はおろか道路にも人がいなかった。
「父さん、大丈夫なのか?」
「ああ、問題ないさ」
父と何年ぶりかに肩を合わせて歩く道が、こんなに森閑としているなんて......僕はなぜかゾンビ映画を思い浮かべていた。
誰もいない町に驚きながらも、主人公の青年は会社に行こうとする。ついた駅にも人はいない。青年ホームで電車を待つ。
やっと来た電車に青年は乗り込もうとするが、電車の中にのっていた人は全員ゾンビで青年は襲われる。
確かそんな話だった。
「もしゾンビが出てきたらどうする?」
駅まではあと五分、何か話したかった。
寡黙な父と話すチャンスは、なかなかないのだ。父は、歩きながら答えた。
「ゾンビか......俺だったらまずビルの屋上に上がって、鍵をしめて助けを待つ」
............ベタだな。
「父さん、それは結局助けが来なくて、飢餓で死ぬパターンだよ」
待っても待っても来ない助けに耐えかね、外に出た瞬間、襲われる。そんな、ベタな展開。
「助けが来ない世界なら、どこに行っても死ぬよ。屋上だったら自殺もできるしな」
聞いてなるほど、父さんは現実的だった。
ドラマでは個性豊かな登場人物が力を合わせて、ゾンビを倒すが、現実そんなうまくいかない。元自衛隊の人もライフル部だった奴もこの日本にそうはいないのだ。
そんな話をしていると、駅に着いた。
限界集落の駅か、と思わせるほど人はおらず、ベンチに座るほかない。
「すまんな、雅人。こんなことに付き合わせてしまって。情けない」
「いいや、大丈夫。僕、今日休みだし」
父さんは今日、会社に行く。
しかし、その道中、襲われる可能性があるから、青色の僕が一緒に行けば安心だろうと、僕は父さんと共に会社に向かうことになったのだった。
──ガタンゴトン、ガタゴト、キィー。
そうこうしている内に、電車が来た。
「僕が先に乗る」
そう言って、僕は電車に乗り、車内を見渡す。
中には黄色に光る中学生ぐらいの子が二人いた。何やら楽しそうに話していた。
「大丈夫、乗っていいよ」
そうして、僕と父は座席に乗り、父さんの会社に向かった。
東大卒なだけに、父の会社は誰もが一度は耳にしたことがあるだろう、有名大企業だ。
──次は、
無機質なアナウンスを聞き、僕らは電車から降りる。大垣市が父の会社の町だった。
「雅人、ありがとな」
父は、会社の前に着いたころ、僕に言った。
「うん、父さんもがんばれ」
「ああ、父さんもがんばってくる」
そう言って父さんは笑い、僕から背を向け、会社に入っていった。
久しぶりに見た父の笑顔と、数年ぶりの父の「ありがとう」がやけに懐かしく、そして嬉しく思えた。
僕は心の中で、もう一度、父にがんばれと念を送り、家に帰ることにした。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
説明書 No.11
青に光る者は、緑の中から抽選で選ばれた者である。
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