第10話

 声が聞こえた方には、男女二人がいた。

 

 一方の女性は、苦痛の表情を浮かべて地べたに倒れ、もう一方の男性はうす気味悪い笑顔をたたえながら、刃物を女性に刺し続けていた。


 グサッ、......グサッ、......グサッ。


 何を......しているんだ。


 「おい! お前、何をしてるんだ!」


 はあ?と顔をあげた男性──いや、少年だった。まだ、十代だろうか。

 その顔や体格にはまだ成長しきれてない幼さが感じられた。

 その少年は右腕をこちらに見せ、ニヤリと不敵ふてきに笑った。

 

 ──少年の手は、青く、光っていた。 


 世間は狭い。

 It’s a small worldだ。

 この日本に百人しかいないはずなのに、この数平方メートルの中にその二人がいる。


 「アレ? なんで怖がらないんだ?」


 不思議そうに少年は僕を見つめたが、すぐに納得顔になりポンと手を打った。


 「ハハッ、キミもボクと同じかい?」


 お前と、同じ?

 僕はそれを無視して訊いた。


 「お前は、何をしているんだ?」


 少年は、バカにしたようにまたハハッと笑い、刃物をこちらに向けた。


 「何って、人殺しだよ。分かんないの?」


 少年は刃先を僕から女性に再び向け、

 グサッ、と胸あたりを刺した。


 「そこまでやる必要はないだろ!」

 すでに女性の身体にはいくつもの穴があき

一つ一つの穴から大量の血が流れていた。


 「ハハッ、おじさん頭、大丈夫?

  人を殺す権利はボクにあるんだよ。

  おじさんにボクを止める権利はない」


 グサッ、......グサッ、......グサッ。

 少年はそう言って、女性を刺し続けた。

 楽しそうに、目を輝かせて、返り血を浴びながら、笑い声をあげながら、刺し続けた。


 「ハハッ、ハハッ、あー楽しい!

  気持ちいい! あーーハハッ!」


 狂ったように刺し続ける少年は、もう何人殺しただろうか? 僕は背筋に悪寒をかんじた。


 「狂ってるよ。お前、」

 僕が言うと、少年は今までの笑みを消し、恐ろしいくらい真っ直ぐに、僕を睨んだ。


 「なあ、おっさん」

 僕はまだ、二十三なのに.........くそ。


 「狂ってる、てのはおっさんが決めたいち個人こじんの考えだよな。でもな、もう違うんだよ。殺すってのは国が望んでる行為なんだ。おっさんはボクからしてみたら十分じゅうぶん狂ってるよ」  


 少年はそう言うと、おもむろに立ち上がり刃物を僕に向けた。

 そして、またニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「おっさんも死にたくなかったら、殺すしかないよ。なんならこれ貸してあげようか?」


 僕は、かぶりを振る。


 「ハハッ、面白いなーおっさん。

  そういえば、ボク、年上の男の人

  全員おっさんって呼んでるから、

  そんなに気にしなくてもいいよ」

 

 僕の心を見透かすように言う少年は、どこかに去っていった。

 


 ──その夜、僕は人を殺してみようか、なんてことを一瞬だけ思ってしまった。

  

  

  

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー 

説明書 No.10


黄に光る者は十五歳未満の国民である。

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