スターティングラインナップ 


「あれってもしかして ?」


「えっ ? 本物 ?」


「キャー ! マジでー 」



さざ波のようにヒソヒソ声の囁きが広がった。



ここより10メートルほどバックネット寄りの二列後ろの席に、でっかい男とスマートな少年が座っていた。


・・・西崎


メジャーリーガーを見つけて騒つく周囲の喧騒に、本人はまったくの無関心。

ビールを飲みながら隣に座る中学生 ? ……くらいの少年と喋っている。



「朔くん」


優深が驚いたように声を漏らした。


「ん ? …… あれが大沢の ?」


そう言えば、西崎が “ 一番の親友 ” って言ってたな。

じゃあ、あの子は優深と同じ5年生か。

さすが大沢の息子、やはり大きいな。


優深が片思いって言ってた同級生。

ちょっと優深をからかってやりたい場面だが …今、そんな空気じゃないし ……


しかし ……


西崎ならいくらでも特別席が用意されただろうに、一般の内野席で観戦なんて如何にもだな。


優深の表情が僅かに緩んだ気がする。

大沢朔に会えて気分が少し上向いたか ?


「隣の大男、誰だが知ってるか ?」


「はい」


「・・・そうか」


優深なら当然か。

元々あいつは子供に異常な人気がある。

年寄りにも人気だが ……


「もしかしてファンだとか ?」


「はい」


「・・・」


気は進まないが ……この際、優深が喜ぶのなら ……



「・・・挨拶に行こうか ? 握手とかしてみるか ?」


「いいえ」



・・・



「・・・そうか」



・・・



しかし ……気まずいな。



怒ってる ……よな ?


やっぱり祥華の再婚の事で ?


俺に対して怒ってるって事なのかな ?


怒るなら、まず祥華に対してじゃないのかな ?


祥華とは普通に喋っていたけど ……



とうに諦めていた最後の一日。


奇跡のような一日なんだけどな ……


最後に優深の弾けるような笑顔を ……

なんて、俺の勝手な感傷だよな



気まずいな。




場内ではマトリックスのスターティングラインナップがアナウンスされていた。




『1番サード、国分隆太 背番号7』


『2番セカンド、神田優生 背番号13』


『3番センター、蒼野陸駆 背番号1』


『4番ライト、葛城雄一郎 背番号8』


『5番ファースト、ロベルト・オルランド 背番号25』


『6番レフト、エルナンド・マルチネス 背番号41』


『7番キャッチャー、加治川翔 背番号6』


『8番ショート、繁宮千颯 背番号9』



相変わらずの最強メンバー。


そして ……


『9番ピッチャー、北見将剛 背番号11』



ドームが騒然となった。


満を持しての大エース登場。


4万人を超えるスタンド ……その8割以上を占めるしろくまファンから溜息のようなどよめきが広がった。



『続きまして後攻め、南洋ホワイトベアーズのスターティングラインナップをお知らせいたします』



アナウンスと同時に歓声のボルテージが一気に高まる。

 



『1番センター、鴻野涼介 背番号27』


突然、周囲の声援が爆発した。


やはり凄い人気。


 

グランドに出てきた鴻野は、やはりニコリともしない。


・・・媚びないヤツ

 


『2番ライト、京川聖 背番号51』


ドームが揺れた。


そして異常な声援 …


と、少し遅れて戸惑いのさざ波。



「ライト ?」


優深が呟いた。


確かにライトと聞こえた。



・・・来たか



おもむろに俺の心臓が高なった。


ドーム全体も、ザワザワとした感じになっている。



『3番ショート、水野薫 背番号4』


当然のように歓声が爆発した。


・・・いつまでも大したヤツだ

 



『4番 ……』



『キャッチャー、大沢秋時 背番号41』



・・・来た




 

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