契約金が必要
鳥越の初球。
いきなりフォーク ……
・・・失投だ
あまり落ちない。
まずい。
マルチネスが狙いすましたようにフルスイングで上から叩きつけた。
ボールが潰れたような不気味な音がテレビからも聴こえた。
打球が高く弾んだ。
三遊間。
サードの沖野が下がりながらの大ジャンプ。
・・・高っ
だが …届かない。
蒼野がホームに飛び込む。
・・・逆転
三遊間の一番深いところで、水野がボールを掴んだ。
その前を葛城が駆け抜ける。
飛び出した沖野が慌てて三塁ベースに戻る。
沖野 ……間に合わないか。
・・・えっ ?
三塁に見向きもせず、水野が一塁に大遠投。
マルチネスが頭から跳んだっ !
同時にグランドを這うような送球が、ケースケの突き出したミットに突き刺さった。
「アウトッ」
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー
ドームが爆発していた。
「マトリックス逆転成らずっ !」
アナウンサーの絶叫。
・・・す ………ごっ
とんでもない肩。
ホームインしていた蒼野が呆然と立ち尽くしていた。
駆け足でダグアウトに戻る水野に、ドーム全体から雷のような喝采が送られていた。
その横をいかにもダルそうに歩く鳥越。
水野のプレーにも何のリアクションもない。
「変なヤツ」
「そう嫌うな。パフォーマンスが下手な選手だっている」
「でも失投を、あんなプレーで救われたら普通はもっと ……」
「タツヨシの中では感謝でいっぱいだ。ただ表情に出ない。水野も他の奴らもそれはよくわかってる。あれはあれで必死なんだ。タツヨシはあまり野球が好きではないしな」
「はぁ ?」
「野球というか、走る事や投げる事が好きではない。しんどいからな」
・・・マジか
「そんなピッチャーをよく獲りましたね。確か監督の時にプロ入りしてますよね」
「俺が強引にな。スカウトからは反対されたが、俺が私情で入れた」
・・・私情って
「スカウトって …あの石神さんの反対を押し切ったんですか」
「ガミさんからは理想的なフォームは認めるが、走ろうとしないどころか、野球を楽しもうとしない選手は獲れませんって猛反対された」
「それを私情で ?」
「タツヨシにはプロの契約金が必要だったんでな」
「ヘ ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます