アクシデント


4番中江のホームラン。


遂に逆転。


狂喜乱舞のしろくまドーム。



しかし一気呵成に …とは行かなかった。



5番ケースケ、6番トーレスの連続三振。


そしてトシ ……


は、まさかの申告敬遠。


次がピッチャーの打順とはいえ、マトリックスはずいぶんと堅い選択。

ここで歩かされるって事は、それだけ王者に認められた証拠か。



あのトシが ……


この込みあげるような感慨はなんだろう ?


ははっ ……


まあ、俺も歳くったって事かな。




千堂はピッチャー月島に対しても、カミソリのようなスライダーを連発し三振を奪った。


確かにとんでもないキレだった。

だがこんな凄いスライダーから1点を奪った。


勝てるかも知れん ……


7回が終わった。


終盤戦 ……


月島瞬は意気に感じれば感じるほど、より力を発揮するタイプなのかも知れない。

連敗で迎えた第3戦のマウンドも凄かったらしいが、この日の投球はそれ以上だった。

とにかく、テンポよくグイグイと攻めるところがいい。


8回、まず先頭の千堂を高速スライダー3連発で三振に打ち取ると、1番国分に対しては、力のこもったストレート3連発。

国分は強振したが、球威に押されて打ち上げた。


サードフライ。

この回からトーレスに代わって守備固めに入った、ルーキー沖野がしっかりと捕球した。



ツーアウト。


あとアウト4つ。

 

この回を凌げば、最終回は大石龍太郎か。


大石ならマトリックスのクリーンナップでも、何とかなる。


“ 勝てる ”



2番神田には140キロ台後半のスライダーを連発。

力のない打球が一二塁間に転がった。

 

「よしっ !」


思わず声が出た。



ファーストのケースケが飛び出す。


長い右手が危な気なく捕球した。


月島が一塁のベースカバーに入る。


「あっ !」


走りながらボールを受けた月島が、一塁に駆け込んだ神田と交錯。


ボールがこぼれた。


月島が悔しそうに顔を顰めた。

 


・・・!



月島が右足を引きずっていた。


足を痛めた ?


軸足を捻った ?




トレーナーに支えられた月島がダグアウトに入った。

カメラがドームを一周していた。

映し出されたスタンドのしろくまファンの表情は皆、真剣そのものだ。


今度はブルペンを映し出した。

オルトンと鈴木奏太が並んで投げていた。

奏太が急ピッチで仕上げているように見えた。

ブルペンには他に大石や柿田、鳥越、ジーグフリード ……三枝までいた。


・・・総動員


おそらく大沢がリリーバーを見極めているのだろう。



鈴木奏太がブルペンから駆け出して来た。


やはり、月島は交代のようだ。 




「ここでルーキー ?」


「柿田は第5戦で5イニング投げた。ここはもう奏太か龍義で凌ぐしかないだろう」


俺の呟きに深町さんが反応した。


「タツヨシ ?」


「ああ、鳥越龍義」



・・・ああ、あの変人か

 

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