あの京川が …
トシのホームランでドームの雰囲気がはっきりと変った。
スタンド全体が一体化したようなシュプレヒコールが巻き起こっていた。
“ ゆけゆけ南洋 撃ち抜け南洋 ”
“ 我等がしろくま 王者を倒せ ”
“ ホワイトベアーズ イケイケドンドン ”
4万を超えるスタンドの想念がしろくまナインにパワーを送る。
6回表
好投のエースがルーキーのホームランでさらにギアを上げた。
草薙は1番国分、2番神田を力で捻じ伏せた。
神田に投げたウイニングショットが155キロ。
これは草薙自身の記録更新の球速だった。
そして3番の蒼野にも決め球はストレート。
蒼野が差し込まれ気味のスイングになった。
フラフラっと上がった弱々しい当たり。
蒼野の打球は完全に打ち取ったものだったが ……
サード後方。
しかしこれが左に切れながらフェアグラウンドに落ちそうな打球になった。
水野が必死のスプリント。
・・・さすがに間に合わないか
そこに弾丸にように頭から飛び込んで来た …
レフト中江。
落下寸前のボールをグラブの先っぽで掬い取った。
うおおおおおおおー
キャプテンのスーパープレー。
マウンドの草薙がキャプテンに拳を突き出した。
燃え上がるしろくまドーム。
同点だが、流れは完全にしろくまだ。
6回裏
この回先頭のコータは、鳴沢の変化球にぜんぜんタイミングが合っていなかった。
だが空振りしない。
フォーシーム、高速スライダー、緩いシンカー、スローカーブ、ツーシーム、落ちるカーブ、チェンジアップ、高速シンカー、緩いスライダー、フォーシーム。
内角のフロントドア、外角のバックドアにとにかく食い下がっていた。
飄々とした表情で粘りに粘り、失投を待つ偉大な曲者。
鳴沢の11球目 ……
内角高めのチェンジアップ。
完全にタイミングを外された。
それでも腰の捻りだけで、ボールを捌く。
当てた。
えっ ?
サードの国分が猛然と突っ込んで来て、ダイビングキャッチ。
強引にアウトをもぎ取った。
1番に還って鴻野。
初球のツーシームをセーフティバント。
これを鳴沢が一塁に悪送球。
鴻野は躊躇なく二塁へ。
ここで一塁カバーに入ったライト葛城のビッグプレー。
まるでバントも悪送球も予測していたかのような動きで駿足鴻野を二塁で刺す。
とんでもないプレー、とんでもない強肩。
まさに主導権の奪い合いだ。
ツーアウト。
2番京川。
鳴沢には明らかに疲労の色が見えた。
コータの粘りが効いていた。
京川が落ちるカーブを完璧に捉えた。
打球は右中間にグングン伸びて、ワンバウントでスタンドイン。
エンタイトルツーベース。
ツーアウト二塁。
3番水野。
ここで決めないと流れが変わる。
たぶんそれは水野が一番分かっているだろう。
息を呑むしろくまドーム。
初球のスローカーブをセンターに弾き返した。
まさに一刀両断。
「よしっ!」
珍しく深町さんが声を出した。
打球があっという間に、二塁ベース後方で弾んでいた。
京川が三塁を回る。
ダッシュしてワンバウンドで捕球したセンター蒼野が、本塁にレーザービーム。
とんでもないストライクボールが返って来た。加治川のミットを打ち鳴らす音さえ聞こえた。
本塁に突っ込んだ京川は、滑り込む事さえ出来ない。
ツーアウト二塁からのヒットで、あの京川がホームで刺された。
・・・これが本気のマトリックスか
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