やっと辿り着いた


上昇を続けるエレベーター。



「大丈夫だから」


俺は支えてくれている梨木の肩からそっと離れた。

か細い腕、か弱そうな肩。

体重を預けることに罪悪感を覚える。

平気な顔を作っているが、犯罪捜査に携わってやっと半年。

本当は相当怖いはずだ。


「梨木」


小首を傾げる目を覗いた。


「無理に付き合わせて済まない。考えてみれば、かなり危険な無茶振りをしてるよな俺」


そう言うと梨木が柔らかい眼差しで見上げて来た。


「ぜんぜんです。無理に …なんて言わないで下さい。主任の役に立てる事の方が嬉しいですし、自分でも驚くほど冷静です……私、これを持っているだけで、かなり落ち着きますから大丈夫ですよ」


そう言って、くるっと回って背中を示した。

いつの間にか木刀を背負っていた。

どうやって固定しているのか分からないが、ジャケットの襟足から柄頭が飛び出していた。

まるで忍者のようだ。


「それと、これも ……」


バツの悪そうな顔をして、ジャケットの胸ポケットから顔を出しているスマホを示した。


「スマホがどうした ?」


「これでライブ配信が出来るんです」


「ライブ配信 ?」


「そういうアプリがあるんです。起動すると一課の3人 ……松場さん、綱海さん、白石くんに継がります。実はさっき千葉監督がマンションに到着した時から起動してます」


「えっ ? ……じゃあマッサンたちは ……」


「はい、マンションに入った事は映像で伝わっています。きっともう動いてくれているはずです」


「・・・」


「無断で勝手なことをして申し訳ありません 」


「いや ……被害者が助かるなら、どんな手段も使うべきだ。俺にはそんな事思いつかない。助かる」


梨木は何も言わずに頷いた。


・・・俺より冷静



“ ポーンッ ”



とぼけた音が33階到着を知らせた。


扉が開く。


梨木が肩を貸そうとしてくれたが、小さく首を振った。

左足を引き摺る形になるが、何とか歩ける。

ここまで来て、俺が梨木に負担をかけるわけにはいかない。



エレベーターから出ると5メートルほど先に洒落た大きな扉が見えた。



ここが ……



ここに ……



・・・クソ野郎



やっと辿り着いた。


3303号室の間取りは頭に入っている。

孤立したような一画に20畳ほどの洋室がある。

おそらくそこ ……


結局、俺は何も出来なかった。

だが、島やジョー、一課の仲間たち ……いんふぉーまんと …白井さん …トシ …水野 …久住GM …深町さん ……多くの正義がポンコツな俺の背中を押してくれた。



とにかく ……



少女を無事に取り戻す。



それだけだ。



「行こう」



「はい」



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