アルファ世代


「そのでんきねずみとやらは、何が狙いでこんな事 ?」


「わかんね」


俺の問いかけに島が即答した。



「嫌悪感 …かも知れん」


ジョーが自信なさげに言った。


「嫌悪感 ? ……それだけで ?」


「ああ、何となく狙いなんてないような気がしてきた。もしもでんきねずみがローティーンなら、デジタルネイティブ、スマホネイティブ、SNSネイティブ …………生まれながらにしてネットワークがライフラインのZ世代。そこで生まれた天才っていうのは、これまでの天才とは概念からして違うんだろうなって。最近、将棋の世界なんかを見てると世代という言葉を嫌と言うほど思い知らされる時がある。小学生でも演算能力が高い電脳の持ち主はプロにあっさり勝ってしまう事がある。タイトルホルダーがアルファ世代と言われる10歳の子供に苦戦するなんて事も珍しくない。これまでなら考えられない事だ。その上、彼らは皆とても礼儀正しく相手へのリスペクトも忘れない。とにかく驚くほどモラルの意識が高い。これがZ世代末期やアルファ世代の特徴なんだ。でんきねずみは何の思惑も持たずに、ただパンタグラファーの不正に嫌悪感を持っただけかも知れない」


将棋が趣味のジョーが珍しく熱く語った。


「道徳でそう習いませんでしたか ?」


島がぼそっと言った。


「何言ってるんだ ?」


「あいや、でんきねずみの口癖なんだ。道徳でそう習いませんでしたか ? って言うのが」


・・・道徳 ?


どこかで聴いたような ……



“ ヴーッヴーッヴーッヴーッ ”



・・・バイブ音



「はい」


ジョーがすぐさま応答した。



「・・・分かりました ……大丈夫です。すぐ戻ります」


ジョーが薄くため息を漏らして立ち上がる。


「本部か ?」


「甲西町の件 ……マルヒの家族からクレームが入っているらしい。榊原課長が俺に対応して欲しいって言って来た」


「災難な役回りだな。……梨木さん、また戻って貰える ?」


島が気の毒そうにジョー言い、立ち上がりながら梨木に声をかけた。


「はい。お送りします」


梨木はすでにカウンターストゥールから降り立っていた。


結局、蓮見側のミスリードに捜査本部が振り回されていた。

捜査員からしつこく付け回された、甲西町の被疑者の身内が怒りだしたのだろう。



「とにかく片っ端から、情報を掻き集める。シモにも逐一連絡するから、おフダ請求のシナリオを詰めていこう」


島が俺にそう言うと、梨木が緊張の面持ちでペコっと頭を下げ、玄関に向かった。

3人が慌ただしく出て行った。




ひとりになって、すぐにスマホを出した。


〜下村貴史さんのネットワークは必ず私が守ります 〜


すっかり信用する気になっていた。


SIMカードを入れ、起動する。


メール画面。



未読件数5。


祥華からの未読着信を開いた。


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