違法捜査

 

マンションの住人か。

50歳くらいの婦人がこっちを気にしながら、バッグからカードキーを取り出していた。

不安そうな一瞥を俺に向け、タワーの中に入って行く。


俺はスマホを耳に当てるフリをしながら、入口脇の植え込みの陰に移動した。

確かに俺は普通の人より目立つだろう。

185センチ80キロ。

梨木に言わせると眼つきも悪いらしい。

そんな怪しげな大男が、こんなところでいつまでもウロウロしていると、中から警備員が出て来かねない。


それならそれでちょうどいいか ……


違法捜査。


管理人をわざわざ脅す必要なんてない。


デッチ上げればいい。


フリーのカードキーさえ持っていれば、管理人でなくても、警備員でもコンシェルジュでもいい。


俺は丁寧に警察手帳を提示する。

しっかりと本物の警察官である事を相手に確認させる。


そして ……こう言う。


「捜査の協力をお願いします。先ほど千葉正利氏の家族の方から110番通報がありました。不審者が部屋に侵入しているという通報です。緊急事態ですので大至急33階の千葉さん宅まで案内して下さい」



これでどうだ ?


3303にたどり着けるか ?


躊躇している場合じゃない。


とにかく ……動くしかない。


一秒でも早く。


植え込みの陰から出た。



「下村」


えっ ?


男がマンションの入口を塞ぐように立っていた。



・・・迫田 ?


・・・が何故 ?


俺を連れ戻しに来たか。


マズいな。


戻されたら ……


またヤツが闇に逃げ込む。



迫田は何の感情も表わさず、ただ俺を見ていた。


「どうしてここにサコさんが ?」


迫田に向かって一歩踏み出した瞬間 ……


背中が粟立った。


言いようのない恐怖を感じた。


咄嗟に横に跳んでいた。


石畳にしたたか肩を打ちつけた。


コンクリートの継ぎ目にジャケットが引っかかって袖が裂けた。


・・・ちっ


路面に這いつくばって、目を向けると巨大な影が覆い被さってきた。



・・・袖原



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