第三章 捜査本部

     

      【 少女拉致監禁 】 



日の出まではまだ時間がある。

だが、ここから少し見ているだけで空が紺色から紺碧に変わる様子がはっきりと見てとれた。

雲も風もない穏やかな秋晴れになりそうだ。


少しだけ窓を開け、室内より澄んだ空気を吸い込んだ。

もう10月、肺に取り込んだ冷気が脳を覚醒させてくれる気がした。


俺はわずかに開けた窓とカーテンを閉じた。

カーテンはそのまま全開にしたいところだが、島が完全に寝入っていた。

コーヒー好きの男が、俺が淹れたマンデリンブレンドを飲み切る前に落ちた。

今は身動きひとつしていない。

やはり相当疲れているのであろう。



「 気の毒だが、そろそろ起こした方がいいんじゃないか ?」


二人共ここからだと、出勤に2時間近くかかるはずだ。


俺の言葉にジョーは苦笑いを浮かべ「実は …」と言って、一度気不味そうに言葉を切った。


「実は島も俺も、今日はシモと同伴なんだ」


「同伴 ? ……って南洋署に ?」


「ああスマン、こんな事は最初に言うべきだよな」


「また、何故に ?」


何となくピンと来たが、一応訊いてみる。



「10月2日にシモの管轄で、女子中学生の捜索願いが出てただろ」



・・・やはりか



「ああ、三班がコソコソやってたはずだが ……もしかして帳場か ?」



「ああ ……今日、朝一で集合がかかる」



「営利目的のセンは無し ……というわけだな」


・・・忌々しい


捜査本部の設置。

身代金目的の誘拐ではなく ……少女拉致監禁が濃厚って事だ。


女子中学生の捜索願い。

これは受理する側の警察が最も困惑する案件だ。

実際、大半が夜遊びなどの事件性のない案件となる事がほとんどなので、警察の動きも鈍くなりがちなのが実情だ。


その捜索の中で事件性が濃厚になると、次に失踪(自殺)と誘拐のセンを追う。

聞き込みや親近者への事情聴取により、失踪の可能性が低いと判断されて初めて、事が大きくなるのだ。


行方不明者が14歳少女となると、どうしても最も描きたくない筋が最初に浮かび上がる。



「行方がわからなくなってから一週間が経過 ……犯人からの連絡なし。このあたりが非公開の限界だな」



「で、ジョーにも島にも声がかかったわけだ。地検も本庁もこんな田舎にエースを送り込んで来て、相当気合いが入ってるんだな」



「島がエースってのには頷くが ……残念ながら俺は、県内で帳場が立てば必ず受持ちになるよ。捜査本部係なんだから ……ただ蓮見本部長の気合いの入れようが尋常で無いってのは確かだ。何しろ南洋ここで帳場なんて相当久しぶりの事だし、今話題の “ しろくまの街 ” でもあるしな」



「暮林検事の名も、これで一気に全国区だな」



「実際、名が売れていい事なんて、何一つないさ」


珍しくジョーが鼻で笑うような仕草を見せた。

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