俺のせいだ


 有無を云わせぬ絶望があった。



 それまでに経験した絶望が、如何にほのぼのとした痛みだったのか。



 ぼんやりとした絶望が形を整え全身に喰い付いて来た。



 便器を抱え込んでも、何も吐き出されなかった。



 “ そんな事で誤摩化されない ”


 誰がが耳許でそっと囁いた。



 “ そうだよな ”


 呟いて便器に腰をおろした。



〜 その男は性的不能者の可能性がある。学生時代に暴漢に襲われたショックでそうなったらしく、少女拉致監禁衝動と何らかの関連があるのでは、と犯罪心理学に詳しい… 〜




 ・・・性的不能者


 ・・・襲われたショック


 ・・・少女拉致監禁衝動



 ・・・ちば…



  千葉洋平。




 俺のせいなのか。



 俺のせいだ。



 俺が…


 俺の衝動的な…自己満足を満たす為だけの行動が、狂気の猟奇異常者を創り出したのか。


 少女たちを絶望の淵に追い詰めたのか。


 死を選ばざるを得ないところまで追い込んだのか。



〜 なんか明るい舞ちゃんを汚されたような気分だったの。舞ちゃんが鬱なんて絶対ない 〜


〜 運動神経ゼロの僕からすると、彼女のクロールはそれはもう美しくて眩しかった 〜

 



 あいつは…



 俺は…



 いったいどれだけの人生を


 煌めく青春を


 踏み躙って来たのだ。



 胃からは何も出て来なかった。


 涙さえも滲まない。


 目も喉も麻痺したように感覚を失っていた。


 ただ無様に鼻水だけを垂れ流したまま、便器に蹲っていた。



 聴覚だけが能動的に機能していた。



 ピシャッ…



 パシャッ…



 ピシャッ…



 パシャッ…



 ・・・なんだ ?



 ・・・誰だ ?



 掌で耳を塞ぐ。



 キーン



 キーン



 キーン




 膝に肘をついて両耳を塞いだまま息を殺して蹲っていた。





第一部 「煌めきと焦心の日々」


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