霞がかかったような顛末

 衝撃のスクープ。

 またしても、週刊『真相』の大金星。


 まさに全国に激震が疾走った。

 

 北原梢子しょうこ

 覚せい剤取締法違反と麻薬取締法違反(いずれも使用)の疑いで逮捕。

 

 当時、最も国民に愛されていた清純派女優の逮捕劇は、三大紙どころか日経や産経までもが大々的に一面で報じた。


 俺が本部長室でビンタを食らった3日後の事だった。

 

 あの日、取材記者のカメラを破壊し、利根の胸ぐらを掴んで、首を締め上げた。

 すぐに週刊『真相』から、本部長宛に抗議と謝罪要求があった。

 県警が正式に謝罪をしたのかどうなのか、俺には分からなかった。

 利根が直接、俺の謝罪を要求して来たと言う噂もあった。

 

 俺は本部長室に呼ばれ、刑事部長直々の謝罪命令を拒否した。

 あのあとすぐに、一課長に部屋を出された。

 命令拒否は規律違反だ。十分、懲戒対象になる。

 クビかも知れない、そう思っていた。


 しかし、俺の受けた罰はあの時のビンタだけだった。

 俺が最も心配していた、村路警部補の監督責任さえ不問だった。

 星見が丘園で起こった事に関して、二人には何のお咎めもなかった。

 この騒ぎは表面化せず、俺は警察内部だけで伝説化された。


〝 月見酒事件で、キャリアの命令を拒否した狂犬 〟


 そんな大層な話ではない。

 ペーペーが薄っぺらい憤怒に駆られて、ちょっと騒ぎを起こしただけのセコい話。


 警察官は上官に絶対服従が当たり前の世界。

 俺は最悪のケーススタディネタ・・として、警察学校で最高の教材となっていたわけだ。


 月見酒事件の下村を知らん察官はいない。

 

 稲さんの言葉は結局そういう事なのだろう。

 階級社会を甘く見ていた俺は、決して実現しない昇任を目指して試験を受け続けていたというわけだ。

 

 周囲からは腫れもの扱い・・・いや、まるでUMAバケモノのように扱われた半年を過ごした後、俺は南洋署ふくまでんに飛ばされる事となった。


 靄がかかったような顛末だった。


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