俺はバカなのか ……

「お前はバカか!」



 ・・・・・・ 


 

 ・・・俺は馬鹿なのか


 

 いきなり強烈なビンタを食らった。



 キーーーン


 

 八重歯の辺りが甘塩っぱかった。


 

 


 張り込み先から戻った俺は、すぐに本部長室に呼ばれた。


 まさかの本部長室。


 まさかの刑事部長からのバカ呼ばわり。


 まさかのビンタ。


 

 ディスクに座る本部長の冷たい目。


 真っ赤な顔で怒鳴る刑事部長。


 遥か雲の上の大幹部が、俺にキレている。


「取り敢えず、いますぐ先方のところへ行って謝って来い」


 

 

 もし、この時


 

 12年後の俺の姿が予測出来ていたら


 

 本庁の本部長と刑事部長に、こんな言葉が吐けただろうか。


 

 

 「で・き・ま・せ・ん」



 刑事部長の目がカッと見開かれたまま固まった。

 本部長が嘘っぽい目で溜め息を突いた。


「お前、気は確かか」


 となりに立つ捜査一課長は、ずいぶんと小声だった。


 

 変に冷めていた。


 なんで、こんな偉い人たちがこんな青二才に熱くなってんだ。


 なんで、あんなクソ野郎に気を使ってんだ。



 そして、変に熱くなっていた。


 ・・・あんな奴に謝るくらいなら


 

 凍りついた瞳がずっと俺を見ていた。


 俺はその瞳に視線を合わせて頷いた。




「利根は人間として、やってはいけない事をしました。あの時カメラを壊したり、利根の首を締めつけたりした事を、行き過ぎた間違った行為だとは、思っておりません。今ここで、利根に謝罪し・・・」


 課長に襟首を掴まれていた。


 俺はそのまま、本部長室から叩き出された。






 刑事でか部屋に入った途端、部屋がざわついた。


 みんな俺を見ていた。

 俺が何をしたか。今、誰に呼ばれていたか。

 警察というところは、そう言った情報を恐ろしく速く、正確に掴む。



 ディスクに戻った俺の耳元で、先輩が囁いた。

 

「神妙にちょこっと頭を下げとけばいいんだ。そうすれば冷や飯を食わされることもないぞ」


 いろんなものが抑えきれなくなっていた。


「上等だ!冷や飯なんざ、何杯でもおかわりしてやらあ!」



 俺の声は部屋中に鳴り響いていた。


 部屋は静まり返っていた。



 ・・・俺は馬鹿なのか

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