ションベン動画の真相

 警電が唸っているわけではない。

 緊急連絡ではない。

 そう思った瞬間、意識は深みに向かう。


 ・・・しつこい

 

 海底に貼り付いて抵抗する意識を、携帯のバイブ音が断続的に引っ張り上げる。

 しつこく根気よくジワジワと・・・。


 ・・・


 何とか手を伸ばして携帯を掴んだ。


「・・・はい」


『もう起きてもいいだろ?』


 呆れ返った声が飛び込んできた。


「島か?」


『男の携帯に掛けて、呼び出し音をこれだけ聞かされるとさすがに引くな』


「・・・ああ、わりい・・・八時か」


 ・・・十二時間以上・・・眠っていたのか?


『これを繰り返すストーカーのエネルギーってすごいわ』


 つまらん事を言って、俺の意識回復を待っているようだ。


「珍しいな。何かあったか」


 俺はずるずると上体を起こした。


『何かあったのはそっちだろ』


 島の呆れ声は続いていた。


「・・・ああ、投稿動画か」


『なんで、お前が謹慎なんだ?』


「相変わらず早いな。・・・なんでだろうな?」


 本庁鑑識課の係長は昔から情報通だった。


『お前、ジョーからの着信もスルーしたらしいな。心配してたぞ』


 ・・・ジョーから?・・・なんで?


 地検の暮林丈一郎。

 暮林、島とは二十年来の腐れ縁。


「どうせ、ションベン動画の冷やかしだろ」


『あいつがそんな柄かよ。ところで不貞寝で忙しいお前の変わりに、推理してやった。教えてやる』


「・・・推理?何を?」


『ションベン動画の真相さ』


「・・・真相?」


『お前、動画見たか?』


「ああ、一応」


『変だろ?』


「・・・」


『あのションベン男。背広着てるだろ』


「・・・そうだったか?」


『あのシルエットは背広だ。YシャツやらTシャツじゃない』


 ・・・なるほど、さすが鑑識


『稲石さんとかいう人は、クソ暑い中、エンジンを切った車の張り込みでも背広着てるのか?』


 ・・・違和感はそれか?


「確かにそんな刑事でかいないな」


『あれ、稲石さんじゃないだろ?』 

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