皇太子

 ・・・どういう事だ?


「誰なんだ?」


『それは調べんとわからんだろ。ただしわかったところで、どうにもならん気がするが・・・』


「・・・何か掴んでいるな?」


『・・・いや、だが俺の推理はもう一つある。あの動画、携帯で撮っているだろ。暗くて判りづらいが、画像はきれいだ。つまりズームショットではない。かなり近づかないとあの画像は撮れない』


「確かに十メートルも離れていない感じだったな」


『携帯の小さなレンズで十メートルも離れたら、暗闇しか撮れない。あれは五メートル以内だ』


「ちかっ、五メートル以内に人がいれば・・・」


『そう、普通の刑事でかならまず気づく。少なくとも海千山千のベテランなら気づかないほうが異常だ』


「逆に相手が刑事だと分かっていて、五メートルまで近づいて立ちションベンの隠し撮りなんて、そんなリスクを犯す一般市民もありえんな」


『そういう事だ。やっと目が覚めたようだな。ところで、ここからはジョーからのメッセージ』


「暮林が?なんで俺に直接言わないんだ」


『公判をトリプルで抱えていて、着信スルーする奴と遊んでいるヒマはないらしい』


 ・・・それはそれは


「で、なんだってんだ」


『隠し撮りの晩、磯川で、皇太子様の歓迎会があったそうだ』


 ・・・皇太子・・・南洋警察副署長


 そして次期長官とも言われている、管区警察局長の御曹司。


「・・・そうか」


 ・・・


『で、お前んとこの班長が、帰りに皇太子様をお迎えに来ていたらしい』


 ・・・野舘?


「・・・そうか・・・検察官のアンテナってすごいな」


『ジョーのメッセージは以上だ』


「・・・わかった」


 ・・・なんとなく見えた気がする


『シモ』


「ん?」


『肩の力を抜けよ』


 島らしくない柔らかい声。


「ああ、わかっている」


『せっかくの臨時夏休みだ。ゆっくりしてろよ。今日、これから透也が投げるらしいぞ』


「・・・そうか」


『じゃ』


 通話は切れていた。

 本当はあいつもめちゃくちゃ忙しいはずだ。

 本庁の鑑識課は年中無休だと言われている。


 ・・・肩の力を抜けよ、か


 ・・・


 こんな話、力の入れようがないわ。

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