歪んだ動機

 十六の秋、高校一年にしてエースで四番打者。

 県大会でベスト4。

 地元のマスコミは未来の大スター扱い。

 学校ではアイドル並みに女性ファンに囲まれた。


 すっかり舞い上がり天狗になった俺は、グランドではジェネラルの如く振る舞い、足を引っ張る先輩を罵倒した。


 その挙句の闇討ち。

 暗がりでボコボコにされて、簡単に心を折られた。

 すっかり臆病者になった俺を救ってくれたのが、大沢とヒロだった。


 学習したはずだった。

 天狗になるな、謙虚になれ、と。



 大学野球で神宮の頂点に立った俺は、監督とチームメイトに感謝の気持ちでいっぱいだった。

 ヒロ、大沢、水野、西崎、暮林、島、力丸、三枝、辻合、大石。

 周りの連中があまりにも凄すぎて、常に謙虚でいる事を思い出させてくれた。

 そして、そこで野球は終わりにすると決めた。

 これ以上続けても、とてもあいつらには敵わない、というのもあったが、自分の中で、もう野球は十分やり遂げたと心から思えたのだ。

 

 その頃、日本の警察は惨憺たる有様だった。

 まさに不祥事のデパートと言われていた時代。

 マスコミは連日、警察の嘘を追い掛け回し、記者会見では今で言うところの〝大炎上〟の連続だった。


 現職警察官の盗難、わいせつ行為、盗撮、公文書偽造、交通事故もみ消し、オークション詐欺、覚醒剤使用、挙句の果ての強盗殺人。

 さらにそれらに伴う捜査手続き、行政手続きに関する誤魔化し。


 俺が警察官を目指す事になったのは、そんな腐った警察社会を自分の手で正したい、そんな大それた改革意識があった・・・わけでは、もちろんない。


 たまたま幾つかのタイミングが重なっただけだ。

 

 連日の不祥事ニュースで警察組織に興味を持っていた事。

 野球好きだった刑事訴訟法専門の教授が、俺を目にかけてくれた事。

 またその教授の講義内容に惹かれた事。

 体力が人一倍あった事。

 同じ警察官を目指していた島和毅と意気投合した事。


 しかし実は、俺の中にどうしても拭い去ることの出来ない歪んだ動機が潜んでいたのだった。

 

 それは、あの時の俺の行為・・・・・・・・が卑劣な犯罪者をつくってしまったのではないか、いう後悔と自責の念。

 

 法のもとに犯罪者を取り締る職業につく事で、そのことに対する贖罪としようとの思いが隠れていたのだ。

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