ジェラシー

 グウォォオオー


 電光掲示の表示が表れた一瞬後、ドーム全体が不気味な唸り声に覆われた。


 九回表ツーアウト

 カウント2-2から南村が投じた五球目が、遂に160キロを計測した。

 何とか食い下がろうと、当てに行った打者のバットがかなり遅れて、空を切った。


 ゲームセット。

 16-2、しろくまの圧勝だった。

 これでとうとう借金がなくなった。


 突然、照明が消えた。

 

 興奮するしろくまファンの大歓声を叱りつけるような、雷鳴が落ちてきた。

 優深が一瞬体を硬直させたが、ルーフを見上げて笑顔を弾けさせた。

 ルーフいっぱいに、大輪の花びら。

 勝利の打ち上げ花火だ。


 ウオォォー

 

 勝利に酔うしろくまファンを更に煽るように、ルーフが動き出した。


 しろくまドーム名物、勝利のルーフオープンショーが始まった。

 ルーフの隙間から夜空に煌く星が見えた。

 優深もうっとりと空を見上げている。

 

 ライトのポジションから引き上げるとしが、優深に手を振っている。

 優深も控えめに振っていた。


 刹那、俺の中に複雑な思いが襲ってきた。


 ・・・俺、としに妬いているのか?


 ダグアウト前では千葉監督が、オーバーアクションで選手を迎えていた。

 最後はとしと南村、ふたりに抱きつくように迎えていた。


 ・・・今日も千葉マジックか


「行こうか」


 俺は優深の肩を叩いてゆっくりと腰を上げた。


「はい」


 優深はジャケットのポケットからイヤホンを取り出してから、立ち上がった。


 

 『今日、4安打6打点と大暴れの水野選手です』


 ヒーローインタビューが始まっていた。

 スタンドでは〝 水野コール 〟が鳴り止まない。


 ・・・そうか、嫉妬か


 俺のモチベーションはジェラシーだったのか?

 

 大沢とヒロ。

 ふたりの人間味に嫉妬し、まだまだ一緒に野球をやりたくて、二人を乗り越えたくて入った南洋大学。


 そこには水野薫、そして西崎透也がいた。 

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