全盛期と同じスイング

『偉大なる大沢秋時よ ~俺たちの切なる思い~』


 俺と同年代のジャーナリストが、最近こんなコラムを書いて話題になった。


『 西崎透也は、今なおメジャーで10勝以上の勝ち星を重ねている。

  水野薫は、今季三度目の首位打者や四度目のMVPだって狙える。

  三枝和彦も二桁勝利目前だ。

 

  三十半ばを過ぎ、なおも活躍を続ける選手は、同世代のサラリーマンから大いなるリスペクトを受ける。

  健康管理、体力維持、強靭な精神力、たゆまぬ努力。

  自らが年を重ね、それらがどれだけ凄い事か、嫌というほど自身で実感出来るからだ。


  逆に大沢秋時のような状態になると痛い。

  昔の活躍ばかりが思い出されて、衰えた姿は見るに堪えない。

  最近、何も分かっていない会社の部下が、大沢を見下したような物言いをする。

  そんな事は切なさすぎる。

 

   ~きっぱりと身を引いて欲しい~

 

  それが同じ青春を過ごした者の切なる願いだ 』


 といった内容だった。

 

 


 俺には、そんな一般的な思い込みの目だけで、大沢を見る事は出来ない。


 大沢に衰えはない。

 今のあいつのスイングは、二十代後半の全盛期と同じスイングだ。


 十五歳から七年間、あいつの凄さを嫌というほど見てきた。

 もともと三振の多いバッターだが、それはピッチャーの心をへし折るようなスイングをしての三振だった。

 今季は見逃しの三振が異様に多い。

 

 だから・・・何か原因があるはずだが・・・

 

 ・・・メンタルか?


 ・・・?


 優深が目を閉じて、胸の前で両手を握り合わせていた。


「どうした?」


 聞いた瞬間、ドームにため息がたち込めた。

 結局大沢は三球三振だった。


 ・・・また見逃しだ 


「大沢選手どうして打てないんだろ?」


 ずいぶんと思いつめた言い様だな?


「優深は大沢のファンだったのか?」


「ファンと言うか・・・」


 ・・・優深が言葉を濁すなんて珍しい


「ファンと言うか?」


「大沢選手が打てないと、朔くんが酷い目にあう」


「朔くんって?」


「大沢朔くん」


「大沢の息子?」


「うん、同じクラス」


「・・・」


 ・・・それはつらいな



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