仲間

 いつの日か、練習後に二人に聞いたことがあった。


「お前ら部活が終わってから、いつも河川敷で自主トレやってるだろう」


「やってるよ。ナックル投げてるんだ」


 杉村は嬉しそうにドヤ顔を作った。


「あんなもん無理だろ」


 俺は杉村の言葉を半分以上、冗談として聞いた。


「ほぼ、完成してるよ。まだコントロールが全然だけど」


「マジか?」


「マジ。モノに出来るかどうか。今、一番大事なところ」

 

「そんな大事な時に自主トレサボって、俺と遊んでていいのかよ」


「そんなの関係ないよ」


 杉村はさも不思議そうだった。


「関係ない?」


「野球なんかいつでも出来るし」


「・・・なんか?お前らにとって野球はその程度か」


「苦しそうに野球をやってる仲間を、ほっといてまでやるほどのものではないよ」


 ・・・仲間


「そうだよね。秋時?」


「ん?」


「・・・ごめん。秋時はそういう事、考えた事ないね」


「おれはゾウアザラシか?」


「なんでそこでゾウアザラシが出て来るのさ」


「・・・いや、無神経な動物って思ったら、浮かんできた」


「ゾウアザラシって繊細らしいよ」


「おれはゾウアザラシも名乗れねーのか」



 五年後、杉村裕海はそのナックル一本で日本中を沸かし、そして世界までも驚かす事になる。





 ストレートの球速が145キロに達した。

 夏前には以前のような力強いピッチングが戻っていた。


 しかしスライダーのキレが悪かった。以前のように曲がらない。


 


 夏の甲子園予選。


 南洋北は順調に勝ち上がっていたが、俺の調子はイマイチだった。

 コントロールが定まらない。


 一方で杉村が着実に成長していた。

 小さな体から繰り出されるフォーシームは、打者の手元で浮き上がっていた。

 130キロにも満たないボールに、バッターは振り遅れていた。


 先発の俺が六回や七回にフォアボールを連発し始めて、杉村に交代。

 杉村が無得点で抑える。

 そんなパターンが続いた。

 

 ベスト4まで勝ち上がり、決勝をかけた試合では俺は初回から乱れた。

 4四死球、3失点。

 3回までに6点を失った。


 3回からマウンドにあがった杉村は、最後まで得点を許さなかったが、結局序盤の失点が響いて3-6で敗退してしまう。


 二年の夏。

 北校はまたしてもベスト4止まりだった。

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