それなりの人生観
昨今では、誰かと誰かが再婚して家族が増えるという事は少なくなくも当たり前にもなる時代なのではないかと思う。
ただ理解できないのは、離婚する時、どうして片方の親は平気で生まれた子供を捨てることができるのだろうか? というやるせない気持ちがあった。
それがケースバイケースだという事も分かる。幼いうちに片親が死別してしまった俺たちの場合もある。
たとえば、生まれてすぐに母親を失った子供はどう思って成長するのだろうか?
俺の場合は、子供の頃まったく自覚がなかった。初めからいなかったのだから、もしいたらなどという想像はみじんにも思わなかった。気がつかなかった。ただ他人父親を眺めて、ぼーっとするぐらいだった。
突然、引っかかりを覚えたのが、中学の頃だった。
きっかけは、好きな人が出来たからだ。
結局フラれてしまったが、当時はそれなりの子供らしい妄想を勝手に思っていた。
もしも付き合って、大人になって結婚して、子供が出来て、俺は父親に……。
…………。
父親って、なんだ?
想像がつかなかった。子供にとって父親ってなんだ? どういう存在なんだ?
友人の父親は何人も見てきたが、それは絶対者であり、どんなやつも誰もが、父親という存在に逆らえなかった。
そんなカケラほどのイメージしかなかった。
それしかイメージできなかった。
俺の父親。もし、俺に父親がいたのだとしたら、どんな人間だったのだろう?
その答えは母が持っていたのかもしれない。だが母は刑事で忙しく、問うことさえためらったり機械がなかったりで……結局一度も、俺の父、父さんはどんな人だった? と言う疑問さえ訪ねることさえ出来なかった。
始めから無かったものを、どうやって想像したらいいのだろうか?
空白。
俺の十とちょっとの人生にまるまる空いていた空白のページ。
父親という存在。
俺には未知の存在だった。
そして、その好きな人に告白して、きっぱりと断られて、残ったのは『父親』というキーワードだけが残った。
俺もいつかは誰かと好き同士になって大人になって結婚して子供が出来て……父親になる。……でも、父親って、なんだ?
分からない、ワカラナイ、わからない。
そんな悩みを暗に隠していた時、突然に実咲と雄介さんと出会うことになった。
向こうは母親を失ってしまい、多少の母親という存在を、実咲は多分知っていただろう。そして、この雄介さんという人が俺の父親になる人なのか……。
雄介さんは、そこまで大きい体格でもないのに、何故かとても大きいと感じた。そして優しく、言葉遣いも丁寧で、ちょっと子供っぽいところがありつつも、とても強く、頑丈で……そう、俺が始めに抱いた父親という存在に当てはまった言葉が、
『雄大』だった。
単なる腕力ではなく、別のなんだかよく分からない強さを持ち、心が大きく、包み込むような、全身を受け入れてくれる存在。
俺はいつの間にか、雄介さんという義父を、尊敬してしまっていた。
まだ俺が、子供で、父親という大人の存在が雲の上の人間であり、抱いた感情、生まれた感情が、まさにそれだった。
俺もいつかは、こんなふうになれるのだろうか?
今度は新しい人生の問いかけが与えられた。
俺はこの雄介さんみたいな人間になれるのだろうか?
これはきっと、これから得ていくのだろう。
この人の背中を見て、言葉を交わし、剣を交え、知っていく。
『父親』という存在を。
その雄大さを。
これから俺が大人になるまで、雄介さんという初めての父親を見て、俺もそうなっていくんだろう……。
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