任務 襲撃 #2

「はああああああああああ!」


 誠一郎より上の階で戦っているアックス2、シュウジ。

 身の丈は小柄で、年齢相応の女性よりも低い金髪のぼさぼさ頭の少年だった。

 そのシュウジが、中性的な声で吠えながら手甲から生えた爪で兵隊たちを切り裂いて疾走していた。


「はっ! せい! はぁああああああ!」


 小柄な体格を駆使し、素早く、的確に、そして洗練された動きでひとり、またひとりと倒していく。


 兵隊達のアサルトライフルは、装備していた防弾マントで完全に防ぎ、その姿は獰猛な獣のような俊敏さだった。


 そして最後に残った兵隊のひとりの喉元に、篭手から生えた爪を突き刺して、掃討が終わった。


 と、思えば、さらに上の階から降りてきた増援がやってきた。

 それを見たシュウジは、両手を合わせ、能力を発動させる。


 バチバチと空気を細かく破裂させ、紫電がほとばしる。

 その溜めた雷の能力を、両の手のひらを突き出して開放した。


「雷撃波!(サンダーボルト)」


 雷撃の波が、1チーム分の兵隊たちに直撃する。


「……ふぅ」


 増援にやってきた兵隊たちが体中から湯気を出して、感電死で全滅した。


 さらに、下の階から複数の足音。

 シュウジが素早く構えを取る。


 が、その様子が違った。まるで兵隊たちは逃げ込むようにこちらの階へ走ってやってきたのだった。


 そこへ――


 ガガガガガガガガガ――


 マシンガンの銃音とその雨のような弾丸の掃射によって、逃げ延びてきた兵隊たちが背後から撃たれ、ばたりばたりと倒れていった。


 そして現れたのは、銀色の顔前面を覆う仮面を付けたアックス1、誠一郎が現れた。


「なんだ、セーイチか……」

 兵隊達のあまりの弱さに肩透かしを食らっていた所に、さらに誠一郎と合流してしまった。

「そっちはどうだった?」


 誠一郎の問いかけに、シュウジは肩をすくめた。


「全然、まったく歯ごたえがねえな。一般人にちょっとだけ銃器の扱いをおぼえさせて訓練させた……毛の生えた程度の奴等ばっか、アホくせえ。ブラッドアイズの服用者でも現れてくれれば、少しは面白かったかもな」


「それなら俺が倒してしまった」

「……んだよ、ちぇ」


 シュウジがやる気のない声音で呟いた。


「んで、セーイチは戦ってみてどうだった?」

「ふむ、服用者はあまりにも体格が変わってしまうため、動きが緩慢で、手に入れた新しい体がまったく扱えていなかったな。大した脅威でもなかった」


「そんなもんか……」

「ああ、そんなところだった」

「つまんねーの。早く終わらないかな」

「本命のセイバー1が目標たちを抹殺するまでだ、このまま囮としてビルの上階で暴れるぞ」


「あー、はいはい」

 腰に手を当てて、シュウジははぁーとため息をついた。


  ――――――――――


 ザンッ! ザンッ! ザンッ!


 流れるような動きで、兵隊たちの急所を切り裂くセイバー1、麻人。

 黒曜石と自分の地の能力で作った黒刀。無機物を容赦なく切り捨てる力も相まって、その一撃一撃は必殺の剣だった。


 そして――


 兵隊達が持っているアサルトライフルを麻人に総射する。だが、麻人はすぐさま弾丸を支配し、その動きを止めた。


 弾丸はダムダム弾という特殊な弾丸。カルカッタのダムダム地区でイギリスが使用した弾丸でもあり、着弾時、体内で弾丸が変形、破裂するという特性を持ったことから殺傷能力が高く、バーグ平和会議や戦時国際法などで使用を禁止されている弾丸だった。


 当然、一発でも体のどこにでも当たれば致命傷で治療が困難になる。

 だが無機物を支配し操る麻人の能力の前ではそれも無意味だった。

 その弾丸の全ては、発射時に麻人に支配され、動きが止まり、無力化されて床に落ちた。


「……めんどくさいな」


 麻人が呟き、黒刀を構えた。


「一気に殲滅する」

 そして麻人が唱えた。


「流れる星は――」

 黒刀がぐにゃりと変形し、

「炎の如く――」

 黒刀が無数の微細な糸――短分子カッターとなった。

「流星斬!(シューティングセイバー)」


 視認するのも困難なほどの糸の刃が、無数に兵隊たちに襲い掛かった。


 そして兵隊達の動きが止まり。


 麻人が糸の刃を引き戻すと、兵隊たちの体は全員バラバラになり散っていった。


 あっというまに床が血の海になる。


 ずしん……ずしん……ずしん……

 鈍重な足音。


 血の海の先の角の通路から現れたのは、異常なまでに筋肉が盛り上がった大男だった。


 銃器の類は持ち合わせてはいない様子だが、肩に担いでいる武器は、鉄の塊……巨大なメイスのようなものだった。


 麻人が瞬時に巨大メイスを見る。


 素材は炭素鋼……鋼鉄で出来た単純な武器だった。

 服用者のその強化された肉体を存分に扱うならば、単純な武器ほど似合いだなと把握する。


 ずしゃ……ずしゃ……


 肉片と血の海の真ん中を堂々と足手踏み荒らし、麻人に接近してくる。


 そこで麻人は、あえて構え解いた。


 そして空いた手で「やってみろ」といわんばかりに、手の平を振った。


 その挑発に怒りを覚えたのか、服用者は「ふううううう」と大きく意気を荒立てる。


 そして肩に担いでいたメイスを両手で握り、大きく振りかぶって麻人に力いっぱい振り下ろした。


 ゴウッ! と一振りで旋風が起こるほどの一撃。


 だがその巨大メイスは、麻人の頭の上に命中する直前に止まった。


 服用者はメイスを持ち上げ、今度は横に振るう。

 だが、麻人の前では、既に支配された鋼鉄の塊は無力となっていた。

 何度も何度も振り上げ振り下ろし、旋風を荒々しく巻き上げるも、麻人の前では触れることさえ出来なかった。


「……ふん」


 麻人が黒刀を無造作に薙いだ。


 キン! ドスン!


 メイスが斜めに切り落とされる。


 さらに麻人が黒刀を振った。

 そのたびに、鉄の塊が紙のように切り落とされ、やがてメイスの先が無くなった。


「……う、ぐぐぐぐぐ。ギザマ……」


 服用者が後退りする。


「どうやら薬で頭がハイになっても、危機的恐怖は感じるようだな」


 麻人が黒刀を服用者に向かって切っ先を突きつける。


「所詮はこの程度か。もういい、死ね」


 シュン! ドス!


 突き出した黒刀が瞬時に伸びて、服用者の喉を貫いた。


 バシュウウウウウ――


 激しい勢いで服用者の首から血が吹き出る。

 そして何も出来ないまま、麻人の前で服用者が倒れ、絶命した。


 普通の人間だったならば脅威の逸材だっただろう服用者。

 だが、異能の力。地を司る麻人の前では、黒刀も、メイスも、弾丸も、壁も床も天井もその全てが支配し操れる対象であり、その全ては盾にもなり刃にする事もできた。


 そして麻人が血の海も服用者の死体も踏み越えて移動する。

 そしてある地点の通路で足を止めた。


「この下か……」


 地形の無機物を支配した所、この場所が最下層の部屋……研究所の中心だと把握する。


 そして麻人は、黒刀を床に突き刺し、そのまま黒刀を引いてぐるりと一周回った。


 ズ……ズドン!


 黒刀の切っ先は床を完全に切り落とし、麻人はそのまま最下層に落下した。

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