冴えない僕と、能天気な少女が勇者になった日

真城夢歌

第1話 変わらない日々

 夕暮れの薄暗い図書館に、閉館時刻を知らせるアナウンスと音楽が鳴り響く。

 僕はまだ読み途中の小説を片手に毎日通っている図書館をあとにした。ある日少女が異世界に飛ばされて勇者になる…といったような内容の本だ。このような内容の本を読むことや、勇者が仲間を連れて魔王を倒しに行くといった長編ゲームをすることが最近の僕の生きがいであり日々の楽しみである。

 いつも通りの時間に図書館を出ていつも通りの時間にいつもちょうど来る図書館前のバス停から家に帰る。…毎日それの繰り返しだった。

 僕はバスの中でも小説の続きを読んでいた。

 この小説は、今まで読んできた中での一番のお気に入りだった。ストーリーもあとからあとへと急展開が多く何回読んでいても飽きない。そして何より主人公の少女が、言動容姿すべてにおけて百点満点な可愛さだ。これを見てしまったら二次元に走ってしまうのも無理はないだろう。そこらへんの今時風パリピな方々から見たら『きもいやつ』って思われるだろうけど知ったことはなかった。

 とかなんとか考えてるうちにもう家についていた。

 薄暗いリビングに入ると、いつも通り

『結人へ 

今日も帰りが遅くなります。

いつもごめんね。

今日もご飯買って食べててね。

お母さんより』

と、書かれた置手紙と、五千円札が置かれていた。

 十年前に両親が離婚してから、母は女手一つで僕を育ててくれている。夜遅くまで夜勤やら残業やらをして、僕が眠ったころに帰ってきては、僕が起きるより早く出勤してしまう。大変なのはわかっている。だから僕もいつか恩返しができるようになって恩返しして、母に苦労のない老後を暮らしてもらうため努力して、今までテストは誰にも学年一位を譲ったことがない。ここまで育ててもらって幸せだった。…なのになんだろう…心にぽっかり穴が開いたような感覚だった。贅沢だけど何かが足りなかった。

 その"なにか”がわからないまままた今日も終わるのかな。

 僕は自室のベッドの上に寝っ転がって目の前にあるライトノベルの本たちを見て思った。

(僕も平凡な日々に、例えば異世界に行くとか…そんな刺激が欲しい。)

 そんなことを考えつつため息を一つ漏らした。

 次の瞬間だった部屋のどこかから声が聞こえた。

 『そんなに刺激が欲しいならあげようじゃないか…』

 僕が後ろを振り向く間もなく目の前が真っ暗になり、意識はそこで途絶えてしまった…。

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