第117話 大好物で?
新しい朝がやってきた、希望の朝だ。とついつい体操の歌を唄いたくなるが、個人的な思い出としては学生時代の事、学生イベントの頂点に位置する修学旅行の際に朝一番、それも日も出ているか微妙な早朝にこの曲を大声で歌いながら各部屋を襲撃する教師達のイメージしか湧かず、その時の事を思い出すだけでつい笑いが零れてしまう。
そんな輝かしい、澄んだ朝の空気に包まれた空間に俺は今正座をさせられている。正面には修羅のように目を吊り上げているラルバ、一歩引いたところでは困った様子のオラトリ、そしてその少し後ろにはオーガの侍女達に支えられたウタノハが布に覆われていない部分の顔を真っ赤にして俯いている。
原因は勿論俺、ついつい神の御心に従い彼女の服の隙間から手を入れてしまい、オーガの女性達が体に直接巻き付けているサラシのような役割をしている布を解いたところで目覚められ、俺が手にした布が自分の服の中から伸びている物だと悟ったウタノハが小さな悲鳴を上げたところを即座に動き出したオラトリによって御用となった。
仕事が出来る人ってステキ。
「全く、朝も早うから何をしているのですかホリ様! いいですかそういう事は白昼堂々とするものではなく!!」
「返す言葉もございません」
慣れという物は恐ろしい、ラルバの怒気の込められた声により野外で寝ていた者達が一度目覚め、正座をしている俺と説教をしているラルバを見て「ああ、またか」と呟くようにして寝直している。
他にも、朝の早い者達はオーガの侍女達を労うように苦笑をしながら「お疲れ様」と言って何処かへと足を運んでいった。
最後にこちらがウタノハへと謝罪をして場は収まったのだが代償も勿論あり、その代償の為に俺は今身動きが取れないでいる。
「アイツツツ……、足が……」
一通りの説教を受け、それなりの時間を地面に直という条件の中正座というスタイルで居たためか微かにでも動かすと強めの電流が走る。
「ホリ様、ドウシタノ?」
俺達の騒ぎを聞いて目覚めたベルはそのままこちらへとやってきた様子、そして何があったのかと天を仰ぐように寝転がっている俺の顔を覗き込んできた。
「あ、ベルおはよう、怒られている時に正座してたから足が痺れちゃって……。イタタタ、軽く触るだけでもやばいんだよ……」
「フーン……」
俺の足の状態を聞かされたその時、彼女が浮かべた笑みは進化する前だったらさぞ凶悪だったろう。
俺が足を投げ出すようにして足の痺れが治まるのを待っていると音もなく静かに、だが素早い動きで足の方へと回り込むとそのまま指を一本立てて……。
「エイッ」
「イヒャッ! ちょっとベル何してんの!」
しまった、見た目はそれなりの年齢を重ねたように見えるが彼女の中身はそうではないのだった。
「エイッ! エイッ!」
「ヒィッ、イヤァッ! だ、誰かベルを止めろォ!」
そう気づいた時には既に手遅れ、彼女の指が足のあちこちを突き、その度に強めの電流が体を駆け巡る事で反応を示してしまう。
傍から見ると微笑ましい映像なのだろうか? 助けを求めてもむしろ微笑ましい物を見るようにニコニコとベルの凶行を見守っている。
「コレ、楽シイ……! エイッ!」
「アヒィッ! くそう、覚えてろよベル……」
こちらが疲弊して息が切れる中で、俺の反応を楽しみ満足と言わんばかりに一汗掻く様な素振りをしたベルはご満悦といった表情で最後に一突きをして電流を流すとそのまままだ寝ているアリヤ達の元へと向かったようだ。
今の内に、と匍匐前進で少しその場から離れトレントの根元までやって来たが、泥だらけになってしまったし風呂に入りたい。昨日もその前も、何だかんだと入っていないのだから一汗流して汚れを落としたいな……。
「イタタ、やっと痺れも治まってきたな。くそ、ベルめ……。今度至近距離で最低の宴会芸やってやるからな……」
「どういう復讐なんだそれは? ホリ、食事の準備が出来たようだぞ。一緒に食べよう、立てるか?」
蹄の音と共に今度はアナスタシアが顔を覗き込んでそう言いながら手を差し伸べてきた。
彼女はいつも酔い潰れると拠点の方へ部下が連れて行って寝かしているようなので、寝顔を見た事は殆どないが昨日の酒にやられているような事もなく、朝から引き締まった身なりと表情だ。
「ありがとう、走り回ったりはまだ厳しいけど歩くくらいなら出来るよ。ご飯にしようか」
彼女の手を握り締め、立ち上がるとすぐ近くではオーガ達やオーク達、そしてその中心で飛び跳ねているスライム君の姿といい匂いがする。
「食事が済んだらあのラミア共と話をつけよう。先程確認をしたが、あのリーダー以外にも目覚めている奴等はいる。ラヴィーニアに言って磔台からも下ろさせたぞ、体は拘束させて貰っているがな」
「そうなの? お疲れ様、ありがとうね。それじゃあ急いで食事にして彼女達にも何か食べさせないといけないね」
歩いているとまだピリピリとするが、スライム君の元へとゆっくりと歩き出すと合わせるように隣を彼女も歩いてきた。
「わざわざ食事を振舞わんでもいいのではないか? 言ってしまえば敵だぞあれらは」
ちらり、と彼女の向いた先にいるのは地面に降ろされて一纏めにされて監視を受けているラミアの女性達。ここまで敵意を向けられているのは、何時ぞやのオーガの時以来だろうな。トロルの討伐の時は敵意よりも恐怖や嫌悪感の方が強かった。
「うん、まぁそうなんだけどね。取り敢えず話がしたいから、お腹減ってピリピリしているとまた喧嘩になっちゃいそうだし。別に彼女達を根絶やしにしようって訳じゃないでしょ?」
「ああ、まぁ……な。だが相手も易々と話をするような連中でもないだろう。どうするんだ? 尋問や拷問でもするか?」
特に何も考えてはいない、という事を笑って誤魔化し、何とかなるだろうと言いながらスライム君から朝御飯を頂いた。
朝から数種類のスープが用意されていたり、サラダやサンドイッチ、トーストなど、これぞ朝の食事! というメニューを好きに選び、配膳をしているオーガに伝えるとそれが出てくるという無料の学食や社食のようなシステム。
何時の間にか定着したこのシステムは宴会の後日に役立ち、隣では二日酔いで食欲のない者がスープだけを受け取ったりとしている。
俺とアナスタシアは朝御飯を受け取り、今日これからの事を話し合いながらポッドの近くで腰を下ろしそのまま食事を始めた。
「にしても、印象悪いよねぇ。流石に武力衝突してボコボコにされた相手と交渉なんてしたくないだろうし、何か上手い方法はない物かな……?」
「まぁ、ここまで来ると取れる手段と言えば……、見せしめに嬲り殺したりか? 相手がそれを見てもっと強固な姿勢になる場合もあるが」
ぐしゃりとサラダをフォークで突き刺しながら怖い事を言うが、彼女の言うように取れる選択肢は少ないだろうなぁ。
最初の印象と相手の行動でこちらが完全に戦闘態勢に入ってしまっているし、相手の方はこちらがどうであれ話をするような素振りもあまり感じられなかった。
あの少女の仲間の事もある、時間はあまりないのにどうすれば……。
「それだともう完全に抗争状態になっちゃうよね、うぅむ……」
「朝っぱらから血生臭い話してるわねェ。おはようホリィ、アナスタシアもついでにおはよォ」
唸り声をあげてパンを頬張っていると、トレイの上に丼のようなサイズの容器を載せたラヴィーニアが食事を持って隣に座ってきた。恐らく中身は妹のスープだろう、俺のトレイの上にも同じ物がある。頼んだ覚えはないが……。
「ついでにってお前な……。ホリと一緒に楽しく食事をしていたところだ、邪魔だからあっち行ってもらっても構わんぞ」
「フフ、だからあえて来たのよォ? さっ、一緒に食べましょうよォ」
朝から二人は元気だなぁ、と丼の容器の中身を味わう。今日もスープはいい出来、多少お酒にやられている胃に優しい味付け。この量さえ何とかなれば最高なのに……。
「おはようラヴィーニア、ちょっとあのラミアの事でアナスタシアに相談しててね。何か良い手はないかなってさ」
「あぁ、あれねェ。まァ、多分何とかなるわよォ。知らないけどォ」
自信あり気に彼女の口から放たれたのは何とも頼もしいお言葉で……。
ラヴィーニアが加わった事で少し賑やかになった食卓にその後ゴブリン達やゼルシュも加わり、今日の予定について話を進めて行くが相手が相手だけに、リザードマンは雌雄関係なく嫌な顔を浮かべているのが印象的だった。
途中ラミアの監視をしていたオークとミノタウロスから、彼女達は食事に手をつけていないという報告も貰ったがこれ以上は仕方がない。いつまでも待っている訳にもいかないだろう。
「よし、それじゃあ腹も満たされたし行くとしよう。君達もおつかれさま、そっちも食事にしちゃっていいよ。後は見ておくから」
「わかりましたホリ様、充分に注意をしてくださいね」
見張りをしてくれていた二人にお礼を伝え、俺やアナスタシアといった面々でラミアのリーダーの元へ行くと目が覚めていた数名のラミアが小さな悲鳴のような物を上げた。
どうやらその恐怖の対象は隣にいるアラクネやケンタウロスのようで、昨日の暴れっぷりがよくわかる。
「おはようございます、今後の事について色々と話をさせてもらいたいのですが」
リーダーのラミアの前に立ち声をかけると、肝を冷やしてしまいそうなほどの敵意が込められた視線、鋭い眼光を俺に向けてきた彼女だが昨晩のイェルムとリーンメイラが何かを言ったおかげか、そっぽを向くような事はなかった。
「ついこの前とはまるで逆の立場になった訳だな、人族。さぞや気分が良いだろう? 我らから何かを話す事はない。『森の守護者』やあの『暴れ烏』に色々と言われたが、今頃私達の仲間が着々と戦いの準備をしているだろう」
リーンメイラやイェルムの事であろう話をしながら、割と重大な事を告げてきた金髪のラミア。やはり、あちらももう徹底的にやり合う構えらしい。
「気分が良いって事はないです。ただ圧倒的に有利な立場になったからといってどこかの種族のように『死ね』というつもりもありませんが。出来れば貴方達の種族と戦う事も避けたいので」
「それは無理だろう。私の部隊の生き残りが逃げ延びて、貴様らの大凡の戦力、人数、武器、それらの情報を巣に持ち帰っている。我らはお前達に屈するつもりは毛頭ない。そちらの魔族共が何故人族に従っているかは知らんが、我らはどんな種族が相手だろうと獲物を刈り取る」
彼女と目線を合わせるように腰を下ろすと、他の目覚めているラミア達からも刺すような視線を感じる。参ったなぁ……。
彼女達、凄んではいるけど下半身が面白い状態なので、見た目としてはとてもシュールでむしろ笑いがこみ上げてきてしまう。
「これ以上は避けられる戦闘だとは思いませんか? 最初はどうあれ、誤解のような物もありましたし、無駄に怪我人を増やすのもこちらは避けたいのですが……」
「それはないな、低俗な人族とそれに付き従う低能な魔族共と我らが話すような事は何もない。こうして我らが捕らえられている事からも、既に闘いの火蓋は切られている。今更避けられるとは思えん、我らはそちらの低能共と違い誇り高い魔族。戦って怪我をするどころか、目的の為なら死ぬ事を厭わない」
俺の横にいる者達へ睨みを利かし、侮蔑の言葉を放ち嘲笑うようにするラミアの女性に隣に並んでいる数名から舌打ちのような物も聞こえてくる。
ちらりと少し後ろで座り込んでいるアナスタシアの様子を見ると、腕を組み目を瞑って何かを考え込んでいるようだ。
視線をラミアの女性に戻し、ぎろりとした目と目が合うとやはり怖い。蛇の目って独特な怖さがあるんだよなぁ……。
「誇り高い種族だというのはわかりました。それならば何故亜人を捕らえているんですか? 私が保護した亜人は薬物で大変な事になっていましたが」
「フン、他者を操るのは手駒にする為だが? 最悪の時は非常食にもなる。それに我らの巣で働いている者共は皆、文句も言わずに働いているぞ」
それは薬で操っているからなのでは、と言いたくもなるがそれは置いておこう。
どうした物か……、と拗れてしまった問題に頭を抱えているとポンと肩に手を置かれた。
「ホリ、やはりこうなったらラミア共を襲撃して無力化してしまいましょう! 相手もそのつもりみたいだしね!」
「リューシィ、少し落ち着いてね……。第一、彼女達の根城も解らないんだからまずそこを探し出さないといけないでしょ? 土地勘のない場所でそんな事してたら危ないんじゃない?」
肩に置いた手と逆の手を使い、握り拳を作るリューシィに言い聞かせたようになってしまった俺の言葉を聞いて、真正面にいるラミアが小さく鼻で笑ってきた。
「我らの巣を探すだと? それは無理だろう。我らの巣の入り口には他の種族にバレないように幾重にも迷彩を施している。それに貴様らが仮にその入り口を見つけ出せたとしても、我らの巣へと辿り着く事など不可能だ、残念だったなリザードマン」
「このニョロニョロが……ッ! あまり舐めた口聞いてるとその足切り落として布にしてやるわよ!?」
うーん? 先日と比べて割とペラペラと情報をこちらにくれるなこのラミア。
冷静なタイプだと思っていたが、リューシィと口論をするようにあれこれ言っているし……。
とりあえず襲撃するにしろ話し合いをするにしろ、彼女達の巣穴を見つける事が大事だという事と、彼女の口振りからすると巣の中にも侵入される事を前提とした罠が少なからずありそうだな。
「フン! 貴様らが無い頭を振り絞ってもどうせ我らの巣は見つける事など叶わん! 諦めるんだな!」
「うぐぬぬぬ……!」
威嚇するように牙を見せつけ、歯を食い縛って悔しさを表すリューシィを鎮めるようにレリーアがそのリューシィの隣へやってきた。
ああいった挑発に乗りそうなタイプなのに、至って冷静にレリーアはラミアの女性に強い眼差しを向けている。
「貴様らの巣ならもう見つけているぞ」
「はっ?」
声高に主張され、響いた一言にこの場にいる者ほぼ全員が首を傾げてしまっている。
そのシスコンの口から出た意外な言葉に呆気に取られてぽかんとした表情になっているラミアの女性、そのリーダーに同調していた様子だった他のラミア達も先程までの余裕が消えている。
内容には驚いているのはこちらも同じ。
隣にいるリューシィも、その近くにいた俺も、周りを見渡せばアナスタシアとラヴィーニアやトレニィア以外ほぼ全員がどういう事だと言いたげな表情である。
「レリーア、どういう事なの?」
「襲撃の際に、姉様がヤツラを糸で縛り上げたのは聞いただろう。何故そいつらがそこから逃げられたと思う、逃がすと思うか姉様が?」
あぁ、そういう事かと合点がいった。
俺が振り返ってフロウの尻尾を指先でくるくると弄んでいるラヴィーニアに視線を送ると、俺と目が合った彼女はクスリと小さな笑みを零した。
「ラヴィーニア、もしかして……」
「ええそうよォ。捕まえた連中の一部に逃げられたんじゃなくてェ、その連中は逃がしてあげたのォ。それであとはフロウ達に頼んでェ私の糸の匂いを辿ってもらったって訳ェ。ねェフロウ?」
ふるふると尻尾を振って強く頷いている隣のフロウ。
因みに彼女の姉妹の他の犬達とリーンメイラは二日酔いである。千鳥足になっているワンコなんて見たくなかったなぁ……。
「ええ、正確な場所ももうわかっているわ。血の匂いを消す事に必死だったのか、ラヴィーニアの糸の匂いには気づいてないようだったし、残念だったわね」
「クッ……!」
ならばこれ以上とやかく話していても喧嘩になる。
この話を締めてしまおう。
「大丈夫です、私達から貴方達の種族を滅ぼすような事はしませんから。ただ先日の事もあるので先手は打たせてもらう事になりますのでそこはご容赦を。それより、個人的に貴方に聞きたい事があるんですが?」
「……」
無言で睨みつけてくる目の前のラミア。
美人がするこういった威圧的な表情は怖い、まさに蛇に睨まれたカエル状態になってしまうがそうも言っていられない。
「あの亜人の子がなっていた薬物で自我を消す……、『思考削り』でしたか。それで薬物を投与されていた場合、ちゃんとした治療薬はあるのでしょうか? あるのでしたら、一応回復したあの亜人の子にも飲ませてあげたいのですが」
「……、ない」
充分に間を置いてから、小さく俯いて呟いたラミアのリーダー。
「我らが洗脳をするのは手駒にした者達全てだ、だがその中でも序列が別れる。薬物を投与されるような者は我らにとって益が少ない物として女王が決めた階位の中でも最下位に位置する。主に他種族の子供などがその位置だ」
女王がいるのね、と新たに発覚した事実を飲み込み彼女の続ける言葉を待った。
「雄の子供ならば育てられ、種にすることもあるが雌の子供を育てる事はほぼない。つまり、薬の効果を打ち消す薬を作るという手間を増やすくらいなら使い潰す」
「わかりました、質問に答えてくれてありがとうございます。それならそちらの方は諦めます。聞きたい事も終わりましたし、これ以上話していてもお互いに緊張感が高まるだけですし話し合いは終わりにしましょう……ん?」
気付けば座り込んでいた俺の隣に、頭の上に皿を乗せたスライム君がぷるぷるしていた。頭の上の皿には昨日教えたばかりの卵焼きが。
「差し入れ? ありがとう、じゃあアノ人達に食べさせてあげようか。お腹も減っているだろうし」
まるで俺がそう言い出すのを待っていたというように、まるで手品のように皿の上に目を覚ましているラミアの人数分のフォークを取り出したスライム君。
彼の料理が乗せられた皿を持ち、先程までの威勢の良さが薄れたラミアの女性の前へと行くと、彼女は視線を少し上げるようにして俺を見つめて小さく呟いた。
「何だこれは……。毒でも盛ろうというのか? 私達は、あらゆる毒にそれなりの耐性を持っている、毒殺などそうそう出来んぞ」
「そんな食材が勿体ない事しませんよ、やるなら首刎ねちゃった方が手っ取り早いでしょう? この拠点では貴方達の命より食材の方が貴重です。これはうちのコックさんからの慈悲だと思って食べて下さい。これ美味しいですよ」
フォークで一切れ、彼女の口元へと持っていくとじっと見つめられる。
毒はないと言っても信用出来ないだろうが、しばらくその視線に耐えていると彼女は諦めたように一息つくと、目の前の卵焼きのすぐ傍で伸ばした舌先をチロチロと震わせている。
その淫靡な舌の動きに、何とまぁエロい! とこちらがドキドキを抑えていると彼女はそのまま何かに納得したように頷いてから卵焼きに噛り付いた。
横でそれを見ていた彼女の仲間達は息を飲み、咀嚼しているリーダーの身を案じるような視線を送り続ける中、俺の目の前の女性がぷるぷると、それはもうスライム君といい勝負を出来そうな程に全身をぷるぷるとさせている。
彼女は無言のまま目の前の卵焼きの残りを頬張るとそのまま目を瞑り、暫くするとぷるぷるを始める。
そしてこちらが次の一切れをフォークに突き刺し、同じ様に目の前へと持っていくと今度は先程よりも大きく口を開けてそのまま丸ごとぱくりとやってしまった。
頬張る大きさによって比例するのか、彼女のぷるぷるは一層強い物へと変わり今はもうぷるぷるというような物ではない、ガクガクとしている。
「ウピャッ!」
そしてその一切れを飲み込んだ途端に彼女は先程までの対応はどこ吹く風、変な声を上げて後ろへ卒倒するように倒れてしまった。
恍惚とした表情をして先程見せた淫靡な舌をだらりと伸ばし、力のない笑顔を浮かべてどこか遠くの方を涙目で見つめているのだが……大丈夫だろうか?
「う、うましゅぎる……」
その一言に、『蛇って卵が大好物というのは本当だったんだな』という認識を強めた俺はスライム君に視線を移す。
俺が見た先にいたスライム君、そこには触手を伸ばしまるでサムズアップをしてこちらへ勝ち誇るようにしている彼の姿が。
スライム君の料理の歴史に、新たなレシピと伝説が刻まれた瞬間であった。
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