第106話 フレンド的パークなアレ

「ねェ、今どんな気持ちィ? 足元掬われちゃってェ、どんな気持ちィ?」

「うぐぐっ……!」


 ペイトンのチームが栄冠を勝ち取り、薬草汁の影響から復活したラヴィーニアが笑顔を輝かせながら、対照的に苦悶の表情を浮かべているアナスタシアの顔を覗き込んで楽し気にしていたり、ペイトン達に称賛と非難の声があちこちで飛び交う中でゆらりと立ち上がった魔王が彼らへと歩み寄っていく。


 声を出していた者達が一斉に静まり返り、彼の動向を固唾を飲んで見守っていると魔王はぽんと一つ、ペイトンの肩に手を置いた。


「以前よりも戦いにおいて余裕を持って冷静に周りが見えている様子、いい試合でしたぞ。ケンタウロス君は残念でしたな! だが勝負とは時の運、この経験も活きる時が来るでしょう!」

「あ、有難きお言葉、恐悦至極にございます!」

「は、はい! 精進します!」


 何はともあれ勝ちは勝ち。労いの言葉をかけて、くるりと踵を返してツマとムスメの元へといってワインを楽しんでいる魔王がそう告げた事で非難の声も鳴りを潜めていき、周りの非難の言葉を上げていた者達も優勝者を素直に称えるようになった。


「ペイトン、優勝おめでとう。怪我は大丈夫?」

「ホリ様、ありがとうございます。ええ、少し体のあちこちが痛みますが……」

「えっ!? お父さんさっきは平気って言ってたじゃない!!」


 しまった! という表情を浮かべて視線をギラつかせたペトラを見るペイトン。どうやら嘘を吐き薬草汁から逃れていたようだが、ペトラを支援するようにアナスタシアのチームの三名ががしりと彼の体を押さえ付けた。


 片方の足をアリヤが、もう一方の足をフロウが甘噛みして押さえ、そして彼の両肩を力強くアナスタシアが押さえつけると、ペトラがカップにたっぷりと薬草汁を注いだ。

「もう、怪我をしたら無理せず言わなきゃダメじゃない! ほら口開けてホラ!!」

「ぺ、ペトラ……! 私は大丈夫、大丈夫だかうごごごっ!」


 以前よりも効力が上がった薬草汁、娘の成長を体験できて幸せ者だなぁペイトン。ゼルシュもオレグも殆ど無傷に等しいのに何故か薬草汁によって健康的な睡眠が与えられているし、怪我の心配も無いだろう。


「よし、それじゃあ時間が時間だし食事にしようか。多分スライム君がある程度用意してくれているだろうけど、この人数だから急いで手伝いに行かないとな」

「おぉ? ホリ殿、今日はどんな物があるのでしょう? 酒に合う物だと私は嬉しいですなぁ」

「オナカヘッタな! ホリ、飯だメシー!」


 全員でスライム君の元へと行くと、既にソースの香ばしい匂いが漂っている。

 匂いの原因を見ればまたねじりはちまきを装備した親方スタイルのスライム君がヘラを使い大量の麺を鉄板の上で泳がせている。


 黒い鉄板の上をあちこちせわしなく動き回る麺、その動きを見せる度に周囲にいる俺達に音と匂いが襲い掛かり、途端に腹が減ってくる。

 俺ですらこうなのだから、今しがたまで運動をしていた者達はもっと魅了されている事だろう。


「スライム君、おつかれ。ごめんね一人でやらせちゃって。出来の方はどうだろう?」


 俺の言葉にスライム君が完成した料理を一皿出してきてくれた。


 今回準備したモノは焼きそば。やはりソースはないし、紅ショウガも青のりもないので色々寂しい感じだけども……。

 一応トッピングのような物にはマヨネーズ、天かす、こしょうとソース、削り節のような物、そしてスライム君と二人であれこれと試行錯誤した主に魚の燻製を粉状にした旨味成分たっぷりの調味料や、七味のようなピリッとする調味料がある。好みが別れるところだろう。


「じゃあ皆には悪いけど、先に試食させてもらうとしようかな」


 渡された皿を眺めて、俺が呟いた言葉に驚愕といった視線と表情を全員に向けられる。作る側の特権だからこれは! とその視線を無視して、備えてあったフォークで麺を纏めてかきこんでみた。


「むはぁー!! うまいっ!!」

 飲み込んでつい叫んでしまう程、スライム君特製の甘辛いソースの上にあれこれトッピングされた結果生まれる暴力的な美味さにやられているとつん、と腕を突かれる。

 アリヤは既に限界を超すように口元のダムが決壊してしまっているので、フォークでくるくるとパスタの要領で麺を巻いて口の中に入れてみた。


「ムハーッ!!」


 限界が近い空腹状態でこの焼きそばは堪らないのだろう、頬を押さえて仰け反るような反応を見せて味を堪能している。

「口には合ったかな?」

「サイコーデス!!」

「ホリ様! 僕モ、僕モッ!!」


 アリヤの様子からベルが、そしてベルの口に焼きそばを入れると今度はシーが我慢の限界を迎えその口に焼きそばを放り込む、とやっているとシーの隣にはまた別の人物が並んでいる。

「ムスメさん、流石にムスメさんに食べさせたら俺が魔王様達に怒られちゃいますから……」

「エーッ!? 別にいいってホラ!」


 シーの隣で大きく口を開けて焼きそばを待つムスメ。

 その後ろではムスメの行動を和やかに見ているツマがいるが問題はその隣、歯を食い縛り力の籠った怖い顔がこちらを見ていて、直接目を合わせたら魂を持って行かれそうなその顔が俺の行動を抑制している。


「はい、あーん……」

「アーンッ」

 俺は震える手を必死に抑えてムスメの口の中に焼きそばを放り込んだのだが、ツマの隣から空気が震えるような気配がする。

 俺、殺されないよね……?


 流石に死因が愛娘にあーんをしてブチギレた魔王に殺されましたとか、神様に即座に地獄に叩き落とされそう。

 口の中に入れた焼きそばを味わい、花が咲くように笑うムスメ。


「これンマイナァ!!」

「お口に合ったようなら良かったです。魔王様達の分もすぐに用意しますからね、なのであのコワイ顔何とかしておいて下さい」


 最後に小声で俺がある方向に視線を向けて懇願をすると訝し気に表情を変えたムスメが振り返って大きく叫んだ。

「うわっ!? バケモノッ!!」


 その叫びにより、魔王も追い詰めるような怖い顔から悲壮感のある怖い顔になったので俺の身も安全だろう。

 急いで皿の残りを頬張り、もごもごと口内の焼きそばと格闘をしながら鉄板の前へと行きアリヤ達と同じ様に限界を迎えている腹ペコ達の分を準備する。

 どうやらスライム君が魔王達の分は先に準備しておいてくれたようなので、そちらの方は安心できるな。


 そこから鉄板の熱さとそれを眺めている者達の熱気に耐えながら次々と大量の焼きそばを用意していく。

「そういえば、お好み焼きもつけようと思ったんだけど……」

「おかわり! オコノミヤキも追加で!!」

「こっちもだ!」

「アリヤモ!!」

「私もお願いします!!」


 作ってあげたいのは山々なんだけど手が足りないんだよなぁ……、キラキラとした目を向けられると期待に応えてあげたいんだけど。

 どうした物かと唸っているところにヒツジィが俺の傍へとやってきた。


「ホリ様、私がこちらの料理をやりましょう。今までの流れを見させて頂きましたので、問題なく出来るかと思います」

 燕尾服を脱ぎ去り、ワイシャツの袖口を捲り上げて準備を済ませた漢気溢れるヒツジィ。そのダンディな姿に見惚れてしまいそうになるが、ここは彼に任せて俺はお好み焼きを作る為に新たに鉄板のセッティングを始めた。


 俺とヒツジィ、スライム君の三名で料理が回るようになるとここからが本番だと言わんばかりにおかわりの声も速くなった。

 無心でお好み焼きをひっくり返し続けて、気付けばかなりの時間を鉄板の前で過ごし、もう食べられなくなった彼らが寝そべる傍でやっと俺も食事を頂ける。


「ふう……、流石にもうゆっくりと食べてもいいよね」

「ホリ様、お疲れ様でございます。焼きそば、お持ちしましたよ」


 ヒツジィも同じ時間を鉄板の近くであれこれとやっていた筈なのに、どうしてか白いワイシャツが汚れるような事にもなっておらず、こちらは汗だくの情けない状態だと言うのに、彼はその影響も見せずに普段通りの格好良いままという。

「ありがとうございます、すみませんヒツジィさんに甘えてばかりで」

「いえいえ、普段と違いこれ程楽しく料理をすることは出来ませんから。貴重な体験をさせて頂きました」


 彼は少しはにかむようにして俺と同じ物を口に入れていく。その様子からも、受け入れられているようだしほっと一息。ついでだし、審判をやってくれたお礼も伝えておこう。

「ヒツジィさん、あれこれとやって頂いて申し訳ありません。凄く助かりましたよ、ありがとうございます」

「いえいえ、楽しんでやらせて頂きましたよ。それにしても驚かされました、ここにいる魔族達の練度や士気の高さには目を見張る物があります。素晴らしい物を見せてもらい、城の者にいい土産話が出来ましたよ」


 朗らかにそう話してくれる彼、お髭にソースがついているのだがそれも人によって見え方が違うんだなぁ。第一印象とは違って、可愛げのある人なんだろうか? 指摘するとハンカチのような物で少し照れ臭そうに拭っているが……。イケメンは何しても絵になるという事か……うぐぐっ!!


「そう言ってもらえると助かります。ここの皆は普段、こういった娯楽を出来ませんからね。それでやる気に溢れているんじゃないですかね? 今回も大発生であれこれとやってくれた皆の気分転換にこのような事をしましたけど、そうじゃなければ日々の糧を取るのに時間を費やしてますから」

「そうなのですか。それにしても、どの種族もああして親密に接している事など魔界ではありえません、ある種の感動にも似た感情を持ってしまいますよ。それに、どの種族の者達も相当な力量。中には進化が目前という者もチラホラと見えますしね」


 んんっ? 少し聞き逃してはいけない単語が……?


「ひ、ヒツジィさん? 進化って一体どういう事でしょう? そういう時期がわかるんですか?」

「ええ。ここにいる者達の多くは進化をする種ですが、数多くの者にその兆候が見えましたよ。見た目ががらりと変わる種もあれば、それ程変わらない種もありますから楽しみですね」


 ちらりと満腹で起きていられずに寝そべっている三人のゴブリン達を見ると、何かを察したヒツジィが俺に告げてきた。


「彼の者達が何故、あれだけの力量なのに進化をしていないかと思われているのでしたら、もしかしたら何かのキッカケが必要なタイプかもしれません。もしそうだとしたら正確にいつ進化するとは言えませんが、些細な出来事で大きく変わるかもしれませんよ」

「些細な出来事……ですか?」


 視線を彼に戻して問い直すと、彼は空になった皿を横に置いて一つ頷いた。


「ええ、それが何かはわかりませんが。ですが、そう遠くない未来に彼らはまた一つ違った姿を貴方にお見せするでしょう。乞うご期待! という奴です」


 最後にそう言って彼はお皿を洗いに戻っていった。

 いや、ご期待! と言われましても……。


 前にゴブリンの襲撃に遭った時に相手にいたなぁ、巨漢のゴブリン……。あれと共生か、と真っ白になった頭の中で想像をしてみたが厳しいな。

 よし、考えない事にしよう。


「ホリ様、ホリ様……」

「ん? どうしたの?」

 オーガの子達が数名やってきた。

 彼女達の手には既にかき氷が握られているが、スライム君からかき氷機の使い方を学んで自分達で作ったのだと即座に分かる。

 その理由がかき氷機の方にはムスメやラヴィーニアがあれこれと騒ぎながら作り出したかき氷が大量にあり、シロップをどばどばと多種多彩にかけてある為、どれもこれもが変な色合いになってしまっているからだ。


 そうして出来上がったのであろう不思議な色合いのかき氷を手にしている彼女達は一つの方向を指差して訊ねてきた。


「あれ、何ですか? 先程準備してらっしゃいましたが、闘技大会とは関係のない物のようですし……。何に使われるのでしょう?」

「ああ、あれかぁ」


 関口を宏するフレンド的パークなダーツゲーム、そろそろパジェ〇するかな?


「よし、それじゃあ君達にまずやってもらうとしようかな? ルールを説明するね」


 説明とは言っても簡単な物、ただ犬や猫、馬や鳥、リザードマンやオークの絵の描かれた回転する的に俺が作ったダーツのような物を刺すだけなので、必要なのは少しの技術と運次第でしかない。


 ダーツが当たった絵のカテゴリー内の中から欲しい物を選んでもらうという刑式にしたのは賞品が多すぎる為だ。


「それで、景品がこちら……。俺が欲望に負けて購入したあれこれがあるので、欲しい物があったらその絵を狙ってね。刺さらなかった人は、ちゃんと残念賞もあるから」


 鞄を取り出し、グスタールで購入した様々な品を前に並べていくと流石に人も集まってくる。露店で手に入れた怪しい商品から、少しお高い店先に並んでいた商品まで取り揃えている。


「ん? ホリ、これはなんだ?」


 レリーアが手にした物は中に入っている錠剤を浴槽に入れると泡が出るシロモノ。奇麗な小箱に入っているので、使用後は小物入れにも! と屋台のおばちゃんに言われた事をそのまま告げてみる。


「ほう、確かにこれはいいかもしれない……。姉様のアレを入れるのに丁度いい……」

「ホリ様、これは?」

「それはちょっと上質な垢すり用の布らしいよ、お風呂の時に使うと物凄い量が取れるとか何とか。過度に使うと肌に悪いかもしれないから、たまーに使う分にはいいんじゃないかな?」


 並んでいる物は高級な酒、風呂用品や清掃用品、食器に家具、魔道具等々、日用雑貨から嗜好品まで様々。こうして並べると俺の無駄遣いが如実になっているのだが、真剣な眼差しで品を手に取りあれこれと悩んでいる彼らはその事実には気づいていない。


 このデカいサイズの一つ目熊の置物とか何で買ったんだろう……? 冷静になってみると、全く可愛くはないのにあの時はついつい乗せられた結果買ってしまったんだっけな、やっぱりあの街怖いわ。


「それじゃあ誰からやる? 狙った物が無くなるかもしれないけど、殆どの品が現品限りだからよーく考えてね?」


 俺の言葉に全員が周囲の様子を伺い、横へ後ろへと視線を泳がせている中で力強く大地を踏みしめて前へ出てきた者がいる。


「フッフッフ、ホリ殿。こういった催しならまずは私が先陣を切りましょう! 何、私は特に欲しい物はありませんが、この手のゲームは大好きですぞ!」

「魔王様、それじゃあ記念すべき第一投をお願いしますね?」


 少し浮かれるようにして楽し気にしている怖い顔、彼が手本となれば他の者達もやりやすいだろうと彼にダーツを手渡す。


「お任せあれ!」

「アナタ、私あのお風呂用品が……」

「パパ、ワタシあの熊のオキモノが……」


 ツマとムスメにあれこれと言われている魔王が所定の場所へとついた。軽く投げてね? と何回もお願いしたから、ダーツが板をぶち破ってどこかへいってしまうような事も板が粉々になるような事もないだろう。


 静寂に包まれる空間、つい「パ・ジェ・〇!」と言いたくなってしまうが恐らく危ない人を見るような目で見られるので自粛しておこう。


 スッ、と目線の高さにまでダーツを持って狙いを付ける魔王。ギラリとした眼光に圧倒されてしまい、多少恐怖も感じるが今は集中させてあげたいので必死に出てきそうになった悲鳴を堪えた。


 弓を引くように手を少し後ろへ下げたと思ったら、俺の横にある板からトンッという音がしてダーツが刺さっている。

「き、軌道が見えない……!?」

「ホリ殿、どうですかな! ど真ん中ですぞ!」


 的を見れば確かに、ど真ん中の中央にある外れマークのグ〇コをしているトロルの絵のお腹に刺さっている。商品のカテゴリーの絵は事前に描いてわかりやすくしてあるのにどうして明らかな罠に突っ込むんだ……? まぁそれでもルールはルール。タワシ的なポジションに刺してしまった以上仕方がない。


「はい、魔王様、残念賞ー!」

「えっ!?」


 俺は再度鞄に手を突っ込み、用意しておいた別の物を並べていく。

「これ、俺が鉱石であれこれやってる練習で作った物の数々でーす。はい、魔王様にはスライム君の鉱石像を進呈します!」

「こ、これは……、ただの丸い鉱石じゃないですかな……!?」

「パパ、いいなぁ……」


 しかしこの鉱石で象った色々な種族の像、これを出した事によりまた少し空気が変わってしまった。

「ん? ホリ殿、この像達はもしかして……?」

「おお、気付かれました? そう、これは俺が様々な種族達をモチーフにして作った像なので、一つ一つ違います! そして何より、魔王様や王妃様、ムスメさんの物もありますよ?」


 色々な人を眺めながらツルハシの角を握ってちみちみとやっていたので、よく見るとディテールも意外と出来ていると思う。それに何より我ながら良い出来の彫刻品になっているように見えるのは、やはり鉱石の輝きがあるからだろう。


 並べた数多くの彫刻を手に取り、またアレコレと話を始める彼らとスライム君の像を手の上に乗っけて眺めている魔王とムスメ。


「スライム君のは、他の種族の子の物とは違いそれ一つしかないある意味一番の貴重品! 魔王様、やりましたね!」

「それは、彼のボディが作りやすく練習にならなかったからでは……?」

「いいなぁ……、パパ……」


 核心を突かれたような気もするが、きっと気のせいだろう。

 笑って誤魔化しながらゲームを進行し直すと悩んでいる魔族の中から飛び出してきた者がいる。


「やらせてもらうぞ!」

「お、ゼルシュ。優勝した勢いでこのまま景品ゲット頑張れ? それで、どれ狙ってるの商品は」

「ああ任せろ、俺が欲しいのはこれだッ!!」


 彼の手には垢すり用の布、グリーンの独特な質感のある布を彼は力強く指差した。

「意外なの行くんだね? もっと別の物を欲しがると思ったよ」

「ああ、魔法で水を出してこれを試しに使ってみたら鱗がとんでもない艶を放ち始めたんだ! 見てくれ!」


 パシンと尻尾を地面に叩きつけた後にその尻尾の先をこちらに向けてきた彼。確かに言われてみれば一部だけ艶々としているし、触ってみると一層スベスベしている。

「これで全身を磨いてみたい! 是非欲しい!」

「お、おう……。それじゃあ、はいダーツね」


 彼は力を絞り出すようにダーツに込めて投げ込むと、魔王の刺した穴のすぐ横に突き刺した。その刺さった場所を見て、力無く地面に膝をついた彼に老齢のリザードマンが近づいて大笑いしている。


「はい、ゼルシュ残念賞。ト・ルースの彫像ね?」

「ぐわぁぁぁっ! どうして、どうしてよりにもよってオババのなんだ! せめて他のをくれ!」

「失礼な子だねぇ、ありがたく毎日ピカピカになるまで磨くことだ。サボったら承知しないよ? ヒッヒッヒ」


「呪いの像ではないか!」と叫びを上げた彼には後で使用して味を知ってしまった垢すりの布も渡しておこう。在庫がある品でよかった。

 彼が持っているト・ルースの像も頑張って作ったのになぁ、杖を持っている部分なんてかなりの時間を費やして……。


 その後、白熱するダーツゲームは魔王のツマの一撃によりグリ〇のポーズをしたトロルの顔面に風穴が開き、彼女は魔王の像を大事そうに持って行った。

「ママの愛、スゲー!」


 そして賞品引き換えの際に彼女がぽつりと俺に耳打ちしてきた内容は、闘技場の魔王像も欲しい、代わりに大量の食料を持ってくるという事だったので即座に了承しておいた。

「ママの愛、デケー!」


 楽しんで頂けて何より。

 流石フレンドのパーク。

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