第54話 シャドーでムーン

 俺は今赤い肌をしたオーガの女性陣に頭を下げられ困っていた。

 酒宴を開き盛り上がった結果、確かに色々あったのは事実。多少血を見るような怪我をさせられたのだが、相手も悪気があった訳じゃないのはわかっているし、何なら乳首を角で突かれて出血したなど、こちらとしては早く忘れてしまいたいほどなのだが、こうなってしまうのは彼女達の責任感の強さの顕れか。

「誠に、誠に申し訳ありませんでした! どうか、どうかお許し下さい!」

「ホリ様、罪を問われるのでしたら私に! どうか!」

 ウタノハとオラトリの二名がそう言い始めると、侍女達が次々と「どうかどうか」と声を上げ罪を問うなら自分にと平身低頭して懇願してくるのだ。こうなると無罪放免にすると却ってよくないだろうか。何かしらの罰を与えちゃった方が後腐れもないだろう。

「うーん……。そうだなぁ。酒の席の事だから別にいいんだけど、そこまで言うならいっそ何かしてもらおうか」

 俺が会心の笑顔で彼女達にそう言うと、赤い肌を白くさせるようにして小さく震えている。え、どうしたの。

「ホリ様、顔コワイデスヨ」

「アリヤ、ホリ様マタ傷ツイチャウヨ」


 泣いていない、これは心の果汁なのだ。慰めてくれるのはシーだけだ。心細さから彼に抱き着いてしまった。

「と言ってもな、やってもらいたい事っていうのもないんだよな。侍女の子達は風呂係と料理係と狩猟をやってるんでしょ? 今更何かあるかなぁ」


 考えてみたがあまりいい案は思いつかないな。少し下らない案なら思いつくんだけど、こういう時にユーモアのある罰を思いつける人は凄いんだなぁ。

「ふーむ、それじゃあウタノハには罰を受けてもらおうかな。覚悟はいいかな?」

「はい、何なりとお申し付けくださいませ。全身全霊で受けさせて頂きます」

「ホリ様! 私も! 私も姫様と一緒に!」

「オラトリも? そうかぁ。わかった、いいよ。別に命を取るような事じゃないし、簡単に出来る事だからね」

 俺がそう言うと侍女達全員が安堵して息を大きく吐いている。

「じゃあ、二人には今日一日、罰ゲームをしてもらう。もし出来なかったら明日も継続ね。一日失敗する毎に、一本『コレ』飲んでもらうから」

 俺が薬草汁の入った水筒を出すと、オラトリが歯をカタカタと言わせる程震え始めた。どれだけトラウマ植え付けてるの……? 俺割と毎日飲んでいるんだけど。


「ぜ、全力でやらせて頂きます!」

「この身砕けようとも必ず成し遂げてみせます!」

 二人は決意を込めてそう大きく宣言した。

「わかった。じゃあ罰の内容を説明しよう――」



 ウタノハがトレントの並木道で箒のような掃除用具を使い、落ちた木の葉を集めている。彼女はトレントの声を聞けるタイプらしく、こうして欲しいという要望に応えつつ掃除をこなしているのだ。しかも懇切丁寧にやる為、トレントには人気が高いようで、このトレントの並木道の掃除は彼女の仕事の一つに決定された。

 更に彼女はどうやら地形を覚えられれば割とアクティブに動けるようで、この拠点なら誰かしらの目もあるし大丈夫だと思う。それに、長年視野を自由に使えない事で培われた経験なのだろうが、棒のような物があれば躓いたりもしない。


 俺やアリヤ達は彼女の罰がちゃんと出来ているかを確認するという目的を果たす為に、現在進行形でポッドの体に身を隠している。


「ホリ、一体何をしとるんじゃ……?」

「シッ! ポッド声が大きい! これは大事な事なんだ!」

 困惑するように呻くポッド。俺達がそんなやり取りをしている時に、アナスタシアが走ってやってきた。

「おお、ウタノハ。ホリを知らないか? 物資の在庫で相談したい事があったのだが?」

「ホリ様で……ごわすか? 先程別れてからは会っていません……でごわす」

 眉間に物凄く深いシワを作り出し、困惑の視線を目の前で変な語尾をつけて話す女性に向けているアナスタシア。シュールだ。

「ウタノハ……? お前そんな喋り方だったか? 何かあったのか?」

「そんな事はないでごわす……。おいどんは元々こんな話し方でごわすよ……」


 掃除用具で顔を隠しているが、恥ずかしさで元々赤い肌がどんどんと赤みを増していく。真顔で睨み続けるアナスタシアとその正面で赤面しているウタノハの対比に笑いを堪えるのがしんどくなってきた。

 アリヤ達も多少体を震わせて笑いを堪えているが、俺達四人がいる事を察知したアナスタシアが合点が行ったように目を瞑り息を吐いた。

「そういう事か。ウタノハ、お前も大変だな」

「わかって頂けて嬉しいでごわす」

 小刻みに震えるウタノハの肩に手を置き、頑張りを労うアナスタシアがこちらに歩いてきているので、俺達四人は視線で会話をし、全速力で逃げ出した。


 その後、数十秒で首元を掴まれて捕まった訳だが。

 ケンタウロス速すぎじゃないですかね……?


 こうなった経緯をアナスタシアに説明をして、理解をしてくれたのか深いため息を吐き出す彼女は帰り際に再度ウタノハを激励していた。

「まぁ死ぬような罰でもない、頑張れよ」

「はい、アナスタシアさん。ありがとうございます。……でごわす」


油断していたところに放たれたお礼の言葉に耐えきれず、口から空気を漏らしてしまったアナスタシアが軽快に立ち去るまでウタノハはまたプルプルと震え始めてしまった。

 我ながら幼稚な罰を思いついてしまったが、これくらいの悪戯くらいで許してもらいたい。こちらは乳首を殺されかけたのだ。


 しかし、ウタノハでこれとなるともう一方はもっと大変だな。狩猟班に混じっている筈だが、そちらは今日の夕方の報告を楽しみにしていよう。薬草汁の恐怖で失敗はありえないだろうし。これで蟠りも残らず、よかったよかった。



 ――森、狩猟を行っている一団の中で一名、追い込まれている者がいた。

 彼女は敬愛する姫と共に罰を受けている最中だが、その罰を見られまいと必死に他人の意識の外へとうまく逃げていた。だが、二名のリザードマンによりその努力も今まさに崩されようとしている。

「おお、オラトリ! 昨日はウタノハが随分とやらかしたらしいな! オババが爆笑しながら話してくれたぞ!」

「ちょっとゼルシュ失礼でしょ! ごめんねオラトリさん、気を悪くしないでね」

 ゼルシュとリューシィの二名が話しかけてきたのだ。

「うぐっ」と小さく呻いて震えながら口を開いた彼女。次に彼女が口にした言葉により話しかけた二名は困惑して、呆然と立ち竦んでしまった。

「気にしないでくだしゃい、ありがとうリューシィおねえしゃん。ゼルシュおにーしゃん、姫もはんせーしてるからあまり言わないであげて」

「は?」「えっ?」

 オラトリはホリから『今日一日自分の思い描く子供のキャラを演じる』という罰を行うように命じられた。ホリの考えでは、語尾を弄るくらいではオラトリは大してダメージを受けないからという考えで思いついた物だが、それは的中していた。


 その結果として普段凛然と構えるよう心掛けている彼女にとって、想像以上に辛い罰となってしまったのだ。

「あ、そうそうオラトリ。男性にはおにいしゃん、女性にはおねえしゃんってつけてね」というホリが更なる要求を突き付けた時に薬草汁を飲む覚悟も決めたのだが、『今から条件変えるなら薬草汁三倍にするから』と先手を打つように宣告されてしまい、泣く泣く条件を飲んだのだ。

 その後も説明をすることは許されていない為、どこか体調が悪いのかと心配して声をかけてくる優しい仲間達のおかげで、彼女の心の傷は更に深い物へと変わっていく――


 俺はアナスタシアの話を聞くために、ケンタウロスの住居の彼女の自室へと招かれた。どうやら早速アロマキャンドルを使ったようで、入った時にふわりといい匂いがした。気に入ってくれてるのならいいんだが。


「それで? ターシャ、物資の在庫ってどういう事?」

「うむ、色々と在庫を見てみたのだが、ホリが追加した物資のおかげで取り敢えず食料と武器の問題はない。だが、圧倒的に防具が足りないのでな。どうした物かと」


 あー、防具か……。これが当面の問題なんだよな。

 グスタールで買える物は当たり前だが人間サイズで、ここの者達に装備できる物はあまりない。今皆が使っている防具は元々持っていたり、ここで獲れたモンスター素材を使って作った急場しのぎの物だし。

 アナスタシアも狩猟の際には革の胸当てなどを使用し、ゴブリンキングや人間達と戦った時は銀の胸当てなどの戦闘時の専用装備をしている。

「防具の問題はなぁ。鉱石を伸ばした奴を盾として使っている人がいるくらいだよね?」

「うむ、軽く強いのに手入れもあまりいらないと言って、使っている者達は絶賛してはいるが、盾だけではいざという時に対処が難しいと思う。やはり最低限の防具はいると思うのだが」


 その通りだ。せめて頭や腕、足くらいは守れるようにしておかないと、不意の攻撃に弱いだろうな。鉱石粉の布も衝撃にはあまり効果を成さない、頭に巻き付けても殴られた衝撃で気絶したら意味もないし。

「試しに鉱石使って何かやってみるか……? グスタールじゃ鉱石加工してたし、魔王様も数日で鉱石の形変えてペンにして持ってきたし、成形が出来ればなぁ」

「当面はあの布を増やせば、刃傷には対処は出来るがな。ただしあの布では例えば弓で攻撃されて、肉を削がれずともその衝撃で骨を断たれては意味がない。考えておいて損はないぞ」

「わかった、少し考えて試してみるよ。ありがとうターシャ。それと、香水いい香りだね」

「う、うむ! 試しに使ってみたんだが気づいたか? この匂い、気に入ったぞ。大事に使わせてもらう」

 先程首根っこを押さえられた時や隣を歩いている時にふわりとした甘い香りがしたので、最初はアロマキャンドルの方かと思ったのだが、部屋に入った時の匂いとは違ったので、どうやら香水の匂いだったようだ。両方使ってくれていそうで何より。


 話も終わり、退室しようと彼女に挨拶をしながらドアを開けると、また数人のケンタウロスの女性達が聞き耳を立てていたようだ。君達何時も何してるの?


「お前ら」

 一言、後ろからひやりとさせられる声と気配を感じたので、涙目になっている女性ケンタウロス達に「がんばってね!」とサムズアップして立ち去る。

 後ろから悲鳴が聞こえた気もするが。気に留めてはいけない、女性の花園の秘密なのだ。


 しかし身を護る道具と言っても、ここでは体の大きさから腕や足の長さ、尻尾の有無から羽根とまさに多種多彩な種族がいるんだから、簡単には用意できないよな。

 人間の防具をそのまま使えそうな種族っていうと……。ゴブリン達くらいか? ケンタウロス達も上半身だけなら何とかなるか。

「うーん、防具、防具か……」

「ホリー? どしたー?」

 山の掘削作業をこなしつつ、ぶつぶつと反芻するように呟いていたのが気になったのか、ハーピーのルゥシアが声をかけてきた。彼女の翼の特性で、急に羽ばたこうとしない限り音がしないので、こうして急に後ろに降りてきて現れる事もしばしば。心臓に悪い。


「さっきアナスタシアとさ、みんなの防具をどうしようねって話をしてたんだよ」

「防具ー? 空飛んで避ければいいじゃん! バカだなホリはー!」

 けらけらと明るく笑うルゥシア、さすがバカの総大将のご意見は一味違う。

 隣に座り込みながら、俺から水を貰い喉を潤していく彼女の足を見る。立派な鉤爪と細い足、そして俺が以前につけて気に入ったからか「そのままで!」とつけられている足輪。

「ん……? おお、ルゥシアナイス。ちょっと試しにやってみるか!」

「おー? どしたー?」

「ルゥシア、ちょっと協力してよ。やってみたい事が出来たからさ」

 首を傾げて返事をするルゥシア、考えてみたらハーピー達は切り傷で出血したり、軽い怪我でも結構重篤になったりするから偵察が主な仕事になっているが、それでも備えておいた方がいいのは明白だ。


 俺とルゥシアはそれから暫く二人で悪戦苦闘をしながら実験を続けた。



「出来たぞ!」

「おお!?」

「試しにちょっとつけてみるか、ルゥシア、足出しておいてくれる?」

「? はーい」

 出来た物を履かせるようにして足に装着をしていく、作った物は野球のキャッチャーが着ける足のプロテクターをイメージして、薄く伸ばした鉱石を巻き付けるようにサイズを合わせた部分装甲だ。


 膝などの間接は無理なので、ルゥシアの細い太腿、膝下から足首まで、足の甲と装着してハンマーで外れないように少し叩きサイズを調整してみた。

 爪は剥き出しだが、出しておいた方が攻撃しやすいというルゥシアの意見を踏まえている。爪にも被せるように鉱石を加工出来れば更に安心できそうだが。

 調整しながら、出来上がった全てのパーツを彼女へ装着させる。


「おお、ルゥシアの足が光り輝いて見えるぞ! 重かったりしない?」

「キレー! ちょっと飛んでみる!」


 両足から光を放ち、色々なポーズをして一通り観察を終えると、空へと羽ばたいていく彼女。動きに怪しいところもなく、重さを感じているようにも見えない。成功かな? ぐるりと空を飛び回って降りてくるルゥシアの表情は明るい。

「ホリ! ちょっと動きにくいけど大丈夫だぞ!」

「うん、飛び回っていると鉱石の光が流れ星みたいで綺麗だったよ。ありがとうルゥシア」

 えへへと笑顔を浮かべている彼女、ポンポンと頭を撫でると彼女は何かに気付いたようだ。

「あ! これなら前みたいにホリに足を斬られても大丈夫じゃん! ルゥシア頭良い!」

 ぐりぐりと押し付けるように頭を捏ねくり回すように撫でつけておいた。まるで目的を理解していなかったらしい。彼女は更に自慢げにない胸を張っているが……。君薄着だから気をつけましょうね? OPI鑑定士は時場所を選ばず出没するのだ。


「試しに……、これで軽く切ってみるか?」

「お、おう……、ホリちょっと顔怖いぞ……!?」


 剣を抜きながら聞いてみる。鉱石の強度は信頼しているがそれでも仲間に剣を振るのは怖い物だ、顔が強張るのは仕方ない。

 了承した彼女が足を差し出して、俺が軽く剣を振り下ろすと当然ながら剣は弾かれる。少しずつ勢いを強く速くしていっても結果は変わらなかった。

「ルゥシア、痛みはない? 怪我とか大丈夫?」

「おー! 痛くないぞ! 何か当たったって気がするだけだ!」


 装甲部分に刃をつければ武器のようにも扱えてしまえそうだな、今ですら勢いよく叩きつけたら強度的に相当な威力がありそうだが。

 サイズの調整のために二つに割るように縦に切れ込みを入れてゆとりを作り、つるはしでいくつかの穴を開けてからラヴィーニアに頼み糸で縛れるようにしてみた。


「ホリー? これどうやって縛るのー?」

「あっ……」

 彼女ハーピー達の手では縛って結びつける事が出来ない、改善すべき点が早速出来てしまったが発想自体は悪くないと思うんだが……。これなら上腕と前腕、太腿と膝下から足首までやろうと思えば関節部以外は守れるようになる。鉱石のプレートなら強度の信頼性は折り紙つきだ。

 鉱石粉の布と同時に併用すれば防御力かなり高いんじゃないかな……? 皆の怪我を一つでも減らせられれば充分だし、アナスタシアに報告しておこう。

「ルゥシアありがとう、君と足輪のおかげで助かったよ。お礼に皆に内緒でお菓子食べよっか」

「お菓子! 甘い奴がいい! やったー!」


 鞄から出したお菓子を二人で食べ、彼女は足の装甲を自慢しに仲間の元へと戻った。

 いい発想を貰えたからな、早速誰かで試してみるか。

 ついでに組み合わせも試しておきたいので、鉱石粉の布を貰いにペイトン宅にやってきた。

「パメラー、あの布で余ってる物ってないかな?」

「あら、ホリ様。ええ、ありますよ丁度ここに」

「ホリ様、何かされるのですか?」

 パメラと、二日酔いでダウンしていたので今日はお休みとさせておいたペイトンがいる。流石に時間も経っているから回復して元気そうだが……。

「あ、丁度いいやペイトン。少し協力してよ。今防具作ってるんだ」

「防具……ですか? 私は構いませんよ。パメラ、少し行ってくるよ」

「ええ、気をつけてね」


 とはいっても、ペイトンの家の前で鉱石を伸ばしたプレートを巻き付けてハンマーで調整して、スコップで切れ込みをいれてと先程やった工程をするだけなのだが……。ラヴィーニアに『昼に起こすな』と糸だけ大量に貰ってこれたし。


 流石にペイトンの場合だと腕や足、肩や腰に至るまで体の大きさがルゥシアとは段違いでかなり苦戦したが、完成した。

「おぉ!? なんか特撮物のヒーローっぽいぞペイトン……! かっこよすぎる!」

「そ、そうですか……? トクサツモノとは何かわかりませんが。少し何といいますか、キラキラしていて恥ずかしいのですが……?」

 敵役なのに主人公と同じくらい人気のあった銀と黒を基調とした月の名前を模したヒーローの雰囲気に近く、「個人的に大好きだったヒーローに近い!」と興奮そのままに説明したが、ペイトンはポカンとしたままだった。


「しかしなぁ。こうなると顔だけそのままっていうのが恰好がつかないな! ……そうだ! 鉱石粉の布を被せてフードにしちゃえ! マントもつけてみよう!」

「ほ、ホリ様、そんなに目深に被せられると前が……」

 ペイトンの黒い体毛、白銀の鉱石のプレート装甲、目深に被ったフードにマント。この組み合わせは先程のヒーローとはまた別に、心に突き刺さる物がある。

「おお、おお……、ペイトンかっこいい……。ちょっとこの剣持って構えて!」

「は、はい。こうでしょうか?」

 ペイトンのポーズで俺が騒いでいたら彼の家からパメラが出てきた。

「ホリ様どうかされ……、あなたそれは……?」

「パメラ、ホリ様が何か怖いのだ、止めてくれないか……?」

「あなた、かっこいい」

「えっ」

 この後暫く俺とパメラのポーズ談義が始まり、彼女と固い握手をする頃にはひたすらポーズを要求され続けたペイトンは休む事が一切出来ず悲鳴を上げていた。


「装甲鎧の出来が良すぎたな。ペイトン、動き辛さとかはどうだった?」

「ええ、あれほど色々なポーズをさせられましたが、動きにくいという事はありませんでしたよ。剣は余り使った事はありませんが、振り回す分にも特に邪魔にはなりませんでした」

「あなた、ホリ様オススメのポーズがもう一回見たいわ。あとでサイズ調整して、もっと動けるようにしておきましょうね」

 えっ、とペイトンが声を漏らす。彼は今装甲をパージしてしまい、パメラがお茶を淹れてくれたので一緒に頂いている。


「お父さん、お母さんただいま。あれ? ホリ様もいらしてたんですね」

 ペトラは休みになった父の代わりに、ソマの実園の様子を見回ってきたようだ。手にしている籠の中にはぎっしりと実が入っている。

「うん、お邪魔してるよ。ペイトンに頼んで防具を作ってみたんだけど、滅茶苦茶かっこよくてさ」

 そう言いながらペイトンが外した装甲を指差すと、ペトラも興味を示してきた。

「ええ! 私も見たいです! お父さん、見せて見せて!!」

「うう、休ませてくれ……」


 娘の頼みを断れる筈もなく鎧を装着するペイトン、そして母子で趣味が似ているからか、どっぷりとハマってしまった二名の要求するポーズに、何故か途中から加わったゴブリン三人が敵役をやる事になり、一連の殺陣をやる頃には何故かペイトン宅に俺達以外のギャラリーが。


 激しい剣の応酬の後に、倒されるアリヤ達の見事な立ち回り。どこで覚えたの? 最後にペイトンがポーズを決めて倒れる所までプロの仕事なんですが……。

 全てが終わる頃には流石にペイトンもヘトヘトになり、休ませてあげた。

 この防具、使えるな! その内耐久テストもしておこう。


「これはペイトンにあげよう。前に作った胸当てもつければ、頭以外は急に殴られても大丈夫そうだよね」

 一仕事終えて外された装甲鎧をパメラに渡すと、彼女は頭を下げて受け取った。

「ええ、今日中に違和感なく装着できるようにしておきますね。ありがとうございます。ペトラ、手伝って!」

「うん、お母さん! さっき見てて、少し弄ってみたいところがあるの! 聞いてくれる!?」


 二人が一気に熱を帯びてきたのだが、当のペイトンは家の居間にて大の字で休んでいる。アリヤ達が介抱しているが……。あれ、ペイトン今日休みだったような……?


「ホリ様! おられますか!?」

 そこへ侍女の手を借りてウタノハがやってきた。ウタノハも侍女の女性も血相を変えて飛び込んでくるようにしていたので、只事ではないのは感じたがどうしたのだろうか?

「オーガでごわす! おいどん達の里を襲ってきたオーガの一団がここにやってきてるでごわすよ!!」


 真面目な空気にしたいところなのに、必死な表情で罰をこなしている彼女を見てつい笑ってしまった俺に、ウタノハが号泣した。

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