第37話 植トレント

 植トレントを行う日の朝、本日も快晴です!

 最終確認をしに、ペイトンやゴブリン達と共にポッドの元へとやってきた。


「じゃあペイトン、ここにいくつか穴掘っといてね。もう少ししたら、こっちに数人来るから、指示出しといて貰えるかな? ポッドはペイトンに改良点を教えてあげてね。それと、トレントは全部で何本くらい来てくれる事になった? 何か他に問題があるなら、それも教えて欲しいんだけど」

 朝の陽ざしを浴び、夜露によってキラキラと星を散りばめたような葉の瑞々しさが光るポッド。彼が少し体を揺らすと水滴が弾ける。

 やめて頂きたい。


「そうじゃな、数としては十五本と言ったところか。魔力の感知能力が高いもんなら、声の出せないトレントの声も聞いてやれると思うしの。都度聞きに来てくれればわからない事は教えてやれるぞ」


 あ、それとな? と彼は続ける。

「ペトラの薬草汁、あれを水で薄めたもんを一回根にかけてやってくれ。ホリの水筒一本分の水に薬草汁を二、三滴くらいの薄さでええぞ。それで少しは足しになると思うしの。いいか? 絶対に原液のままかけるなよ! 絶対じゃぞ!」


 フリか、フリなんだね!?

 流石にふざけるとまずいだろうからやらないけど、どれだけ刺激物なの薬草汁……、植物由来の物じゃないの?


「わかった、森とここを行き来するから何かあったら声かけてくれ。こっちもそうするから。あとはないかな?」

「うむ、どう輸送するかは知らんが任せたぞ。あの子らも体力はある筈じゃ。枯れるような事はそうそうないと思うがの」


 そこでペイトンに頼み事をしておこう。

「ペイトン、一応ここの土に穴を掘ったら、その中にも水を少し撒いといてね。渇いてるって事はないと思うけど、しないよりマシでしょ」

「わかりました。ホリ様、森での行動には十二分に警戒してください。他の者が多くいるとは言え、油断は禁物ですよ」


 それはもう痛い程わかっている。強く頷いて、彼らと別れた。


 暫く行ったところで、リザードマンが数名とケンタウロス達が数十名並んでいる。その前に立っているアナスタシア、オレグ、ゼルシュといった面々がこちらに気付き声をかけてきた。

「来たか、ホリ。いよいよだな。ポッド様の御役に立てるなら、ケンタウロスはどんな無茶でも聞くぞ」

「ホリ殿、我らケンタウロスもリザードマン達も準備は済んでおります。何時でも出発は可能です」

「ホリ、今回参加しないリザードマンは狩猟で食料を確保してくれる予定だ。そちらの方から昼頃にもしかしたら食料を運んでこれるかもと言っていたぞ」


 三者三様に意見を言われましても……。それぞれに言葉を返しながら、集まった人達にいくつか言っておこう。

「ええと、協力ありがとうございます。これだけ人数がいれば作業も捗るとは思うけど、トレントの命がかかっているので大事にやりましょう。あと、使う荷車は現地で俺が出すので道具を運ぶ荷車だけで大丈夫だよ」


 土を掘り返す道具は、急ごしらえにいくつか作った物と彼らが持っていた物があるので数は賄える。

 荷車を少し特殊な物にし、それはまだ収納鞄の中に入っている。それが三台ある。鞄の収納に余裕はあるので、何かあっても対応はできると思う。


「ホリ様、よろしいですか?」

 一人のケンタウロスが手を上げてきた。

「ん、なんだい?」

「『トレントを移す』というのがよくわからないのですが、移せるものなのでしょうか? 経験したことがないので、具体的に何をすればいいのかわからないのですが……」

「うん、一度やり方をトレントの意見を踏まえて実践するよ。それを見て、わからない事があったらまた聞いてくれればいいから。それで大丈夫かな?」

 はい! と答えた彼は前に薬草汁で強制的に回復したあの人だった。元気になったんだな。


「じゃあ、あとは現地で! 出発!」


 大人数で移動しているが、その中を人間が歩いていると連行されているような気分になる。俺以外人間がいないのは当然なのだが、みんな体デカいからなぁ。

 一匹のケンタウロスの女性が声をかけてきた。


「ホリ様、ウォック様にポッド様の実を渡したって本当なのですか!? それも二つも! 以前に偵察から帰ってきたウォック様が二つの実を睨みつけていたのを覚えているのですが!」


 ん? ああ、お土産にあげた奴の事かな?

「うん、あげたよ。貴重な物なんでしょ? 美味しいしねアレ」

 その俺の発言に、少し色めき立つ女性とその周囲の女性。え、なんなの?


「頑張ったら、ポッドも実の一つや二つくれるんじゃないの? 頑張ったっていうご褒美にさ」その言葉に、今度は男性のケンタウロス達がどよめく。なんなの?

 その中で、いきなり声をかけてきたのはまた別のかなり若い金髪の女性ケンタウロス。

「ほ、ホリ様! 頑張ったら私にもホリ様から実を頂けますか!?」

「え、あげるのはポッドだと思うんだけど……。それに頑張ったら貰えるっていうのがやる気に繋がるなら俺から渡すよ、助かるしね」


 ポッドの実はちょくちょく貰う……、薬草汁で交渉してるから二、三個なら鞄の中にある。美味しくて、栄養価も高いらしいのでよく食べていたりするし。

「頂けるんですね!」

 そう彼女が言った途端に少し周りのケンタウロス達のボルテージが上がった気がした。それは、小さな声で「やったるで……」とか「俺が一番に……」という具合に、やる気に満ちた溢れている。


 人気なんだな、ポッドの実は。


 白銀のケンタウロスが、部下達から伝わってきた情報を聞き、俺の所へやってきた。

「おいホリ! 一番功労した者にはお前からポッド様の実が貰えると聞いたのだが!? どういう事だ!」

「え、さっきの話か。いやそれでやる気が出るならあげるよとは言ったけど……?」


 チッ! と盛大な舌打ちをして唸る彼女。最近は槍の事もあってか常にゴキゲンだったのにどうしたのだろう。

「これではライバルが増える可能性もあるな……! よし、私が一番役に立ち、ホリから実を貰うぞ! わかったな!」


 お、おう……。やる気が出るのならと思ったけど、ケンタウロス達は少し怖い。トレントの移動には優しく扱って頂きたいのだが、大丈夫だろうか? 


 それから移動を続け、森に入り、シーの先導によりトレント一本目と出会った。

 ポッドと違い、木の肌に水気を感じる若々しく瑞々しいといった木は俺達が来たのを歓迎するように少し葉をざわつかせる。

 かなり立派な体をしているので、今日は大変な一日になるな、と再認識。


 そこからトレントとシーが会話をし、シーと他のゴブリンを経由して俺に伝わる伝言ゲームにより、トレントが歓迎してくれている事がわかった。


「よし、それじゃあ始めるか。トレントの方も、何かあればすぐに教えてね」というと、応えるように揺れた気がする。

 まずは荷台を少し特別にしてある荷車を鞄から出す。荷台の正面と側面のプレートは1メートルから2メートル程の高さがあり、後方のトレントを乗せる側は壁の高さはないが板をはめ込めるようにしてある。

 トレントを乗せたら鉱石板をはめ込み、落ちないようにと思ったのだがうまくいくだろうか。


 ゴブリン達がすぐ横に、そして俺達を囲うようにして他の面々が見ている。

「まず、大事なのは根だ。木々の命とも言える根をあまり傷つけないように……、って言ってもかなり長いし、何より深そうだな。これは骨が折れそう」


 ベルが口を開いてきた。伝言ゲームをしているようだ。


「ホリ様、トレントガ『根ナラ、少シ小サクデキル』ッテ言ッテルミタイデス」

 お、それは助かるな。実際どれくらいまで小さくできるんだろう。シーが地面にサークルを書いていく。これは……?

「コノ円ノトコロマデ! 根ハ短クナッテルッテ言ッテマス!」

 アリヤが教えてくれる。大分小さくできるんだな、木の本体から数十センチくらい。これなら割と簡単にできそうかな?

「深さがどれくらいあるかわかる?」と聞くと、ゴブリン達の身長くらいの高さまで引っ込めてくれているとの事。伸縮がある程度できるので、太い根を思い切り折られたりしなければ大丈夫とも教えてくれた。


 普通の木とはやっぱり大分違うんだな、実際の植樹となると数か月準備が必要だったり、時期とかも関係していたような。

 まぁポッドに至っては自分で歩き出すレベルだし、別に構わないのか。


「じゃあまずはシーが書いた円に沿って掘ろうか。根のような物を傷つけないようにね。それと、掘った土を荷台に少し入れておこう」と作業を開始した。


 そこから、やはりというかなんというか。各種族の人間とはまるで違うパワーを感じた、何せ作業が早い。

 みるみるうちに土が掘られ、根の全容が現れる。大きさも立派な体に比べかなり小さく、これなら問題は起きそうにないな。

「後はこの根に根回し、動物の皮とロープで根を包み込むように巻き込んでおこう」

 数人がかりで支えてもらいながら、根を包み込んで、根回しの完成! 完成したところに、根へ薄めた薬草汁をかける。樹が震えているように見えるが大丈夫なのだろうか? これ。


 荷台にトレントを乗せ、土をかけておく。

「これで大体いいか。トレントの方は大丈夫かな? これで少しの間頑張ってもらうことになるんだけど……」

「大丈夫ダッテ言ッテルミタイデスヨ!」

 伝言されてきた言葉を聞き安心する。これ以外のやり方を思いつけないから、ダメだったら諦める所だった。



「よし、それじゃあ運搬していこう。運搬は何人くらい必要かな?」

「この程度の重さなら、ケンタウロス一人でもいけると思いますが、モンスターが出た時に備えて護衛にもう一人入れておいた方がよさそうですね」

 オレグが重さを確かめた後に、そう教えてくれた。


 それにゼルシュが続ける。

「それなら護衛はリザードマンがやろう。我らの手では爪で木を痛める事があるかもしれないしな。補助に回った方が事故も少ないだろう」


 そこから十人程で分かれた三チームが移動の準備、余った者が輸送、リザードマンが周囲の警戒と輸送の護衛という流れで、大掛かりな引っ越し作業が始まった。


 恐ろしいのはケンタウロスの走る速度、木を運んでいる時は非常にゆったりと運び、振動を気にかけているのに、帰ってくる時はめちゃくちゃ早いのだ。

 ペイトン側の様子も見たかったので、一度輸送に同行したのだが、帰り道はジェットコースターか! という程の速度だった。振動でケツがやばい。


 ペイトン達は人数があまりいない為、大きな穴を作るのも、木を荷車から降ろすのも大変だったと思うが、途中から追加されたリザードマン達が頑張っているようなので大丈夫だろう。


 少し遅めの昼食にはなったが、リザードマンの数名が大きな豚を仕留めて持ってきたのでそれを食べ、これまでの各班の経過を報告してもらう。


 A班のリーダーはアナスタシアの部下の戦士さん。最初に出会った数名のケンタウロスの一人で、酒を飲むと脱ぎだし筋肉アピールをする彼。

「ホリ様、私達の班は今の所二本やりました。森の奥からやっているので、少し時間がかかっていますが、奥の方にいるトレントはあと一本と言ったところです」

「モンスターとかは大丈夫? まだゴブリンもいるかもしれないし、奥の方になると別のモンスターが出て来そうだけど……」

「ええ、大丈夫です。一度イータルヴォルフの群れが来ましたが、全滅させておきましたので、影響もないと思います」


 非常に真面目な男性だが、酔っぱらうと脱いじゃうんだよなぁ……。

「わかった、ありがとう。怪我はしないように注意を怠らないようにしようね」

「はい、ありがとうございます」

 深々と頭を下げる彼はそのまま下がっていく。今日は流石に慰労を込めてお酒オッケーというのをスライム君が許可してくれているので、彼の一芸にも期待しておこう。


 B班の代表はオレグ。

 最初は寡黙だと思っていたが、彼は人見知りをするらしい。

 なら何故最初に俺を連れ出せたの? と聞いたところ、ああしないと自分にも命の危機が迫るからと言っていた。どういう事だろうか?

「ホリ様、我々の班は四本のトレントを移送しました。問題も特には起きていません」

「そっか、オレグさん達がその数、俺達が三本移送したからここに残っているトレントはあと二本、一本はA班が見つけてるし、二本目の方はオレグさんに任せて俺達はもう一つの森に行って先に作業を始めてるよ」

「わかりました。そちらも気を付けてくだされ」

「うん、ありがとう。オレグさんも気をつけてね」


 はい、と頭を下げてそのまま歩いていったオレグ。

 残すは六本。この森に二本と、もう一つの森に四本だが、ゴブリンキングが生まれた森は往復の距離が少しあるから、輸送が大変だな。

 道も荒れているところがあったし、トレントの様子に気を配りながらやらないといけない。


 昼飯を食べて、少し休憩を挟んだ後作業を再開する。

「じゃあそっちも気を付けてね。A班の人たちはそのまま奥の奴を、オレグ達は探索して見つけてからだから、ゆっくりね。じゃあ作業再開!」



 俺達C班はそのまま移動をして別の森へ。

 トレントの探索ができるシー隊長が一番奥の奴からやっていこうと、森の奥までズンズン進んでいく。

 動物の奇声のような物や、虫の音、薄暗いというのもあるので、とにかく不気味で怖い。

「シー隊長、こっちなの? 怖いんだけど……」


 ピッタリと背後霊のようにシーにくっつき、両サイドをアリヤとベルが固めるという弱小動物のようなムーブをしている。

 後方も固めてインペリアルク〇スと行きたいところだが、気合を入れて荷馬車を引いてるケンタウロスがいる為それは叶わない。

 うう、飛び交う虫がデカすぎて怖い……。

「アッ! ホリ様目ツブッテ!」

「ギャアア!」

 いきなりアリヤが叫びだし、両手で目を覆われた! 勢い余って目に指が刺さっているんだが!!


「なに! 何があったの!?」

 目を押さえうずくまっている俺に、アナスタシアが声を掛けてきた。

「ゴキローチが飛んできたが、アリヤが倒してくれたぞ」

 ゴキ……!? アイツか!! アリヤにお礼を言っておこう。


「アリヤ、助けてくれたんだねありがとう。でももう少し優しく……!」

「ア! マタ出タ! ホリ様見ナイデ!!」

「ギャアアア!!」


 俺の目が視力を失わない内に急いでここから逃げねば!

 ボロボロと涙を零し、アリヤにお礼を言いながら目的地に到着した。


「ここのトレントは少し弱ってるような気がするな。なんか元気がないような」

 伝言ゲームが始まった。

「ナンカ、ゴブリン達ノ集団ニ、色々サレタミタイデス。カナリ疲レテルッテイッテマス」とベルが伝えてきた。


 ううん、どうしよう。

「トレントに少しきついかもしれないけど、少し濃くしたペトラの薬草汁ぶっかけてみるか。刺激強いから危ないかな……?」

「大丈夫ッテイッテルミタイデス」とアリヤが言うのでやってしまうが、何かあったらすぐに教えるように言い、少し薬草汁成分を強めた物を根にかけた。


 薬草汁をかけた数秒後、痙攣をするようにトレントが揺れている! 怖い! 

 暫く見守っていると、葉とトレントの皮の色艶が輝きを放っているように見える……? 何が起きているんだ?


「だ、大丈夫? 少し濃かったかな?」

「力ガ溢レテクルッテ! 大丈夫ミタイデス!」


 お、おう……。それじゃあ作業をやるとしよう。

 流石に回数をこなしてくると、みんなが次の作業、次の次の作業という感じで準備をしてくれるので手間取る事も少なくなってきた。

「みんなこなれてきたから早く済むね。でもトレントの事を考えて大事にやる事も忘れないようにね」


 アナスタシアが大きな声で返事をしてきた。

「おお大丈夫だぞ! あまりこういう事はしたことがなかったが、楽しい物だな。この私が剣や槍を握らずクワやスコップを握るとは……。クフフ」

 気分転換になっているのかな? それならいいんだけど。

 みんな仕方がないけど泥だらけだ。もし時間ができるなら今日の酒宴の前にデカい浴槽を準備してケンタウロスにもお湯に浸かれるようにしてあげたい。


 ケンタウロスは浴槽に浸かれず、手桶でお湯をかけ体を洗うのと髪を桶のお湯で洗うくらいしかできていないので、なんとかしてあげたいのはあったけど体の大きさの問題でどうしようと手がつけれなかったんだよなぁ。戻ったら少しやってみるか。


 元気良く体が揺れて、運ばれる事を楽しんでいるように見えるトレントの若木を運び、そのまま俺はやりたい事があると別行動を申し出た。

 思い立ったがナントヤラ、早速試しにケンタウロス用風呂を作ってみよう。

 みんなに謝っておいたが、俺のような足手纏いがいない方が危険は少ないかもしれないし、大丈夫だろう。


 拠点に戻ってくると、ペイトンが声をかけてきた。ずっとこの作業をしていたからか、彼は割と土に塗れている。

「おや? ホリ様、如何されました?」

「うん、みんなのお風呂用意しとこうと思ってさ。汚れたし。それならついでにケンタウロス用の浴槽を作ってみようと思ってね」

「おお、それはいいですな! 私も今日はさっぱりしてから酒が飲みたいです!」


 一緒に来てトレントの乗っている荷車を運んでくれたケンタウロスが少し期待に満ちた目をしている。彼女は目を輝かせるようにして俺に質問をしてきた。


「ホリ様! お、お風呂って私達も入っていいんですか!? じゃあこれから足だけいれて我慢したりしなくて済むんですか!」

「そんな事してたの……? ごめんね、言ってくれればそれ優先したのに。ちょっと実験も兼ねるから、微妙になるかもしれないけど」


 がしりと手を掴まれた。すごい、顔近い。さっきポッドの実を欲しがった金髪の女性ケンタウロスは多少鼻息が荒く、興奮そのままに叫んだ。


「いいんです! アリヤさん達が天国のようだと言ってました! 体験してみたいんです! 私! 皆に伝えて決ます!!」

「え!? そんな、期待されても困っちゃうんだけ……ど……」

 こちらの発言を聞くことなく電光石火に頭を下げ行ってしまった彼女。

 後ろでペイトンが笑っている。


「ハッハッハ! これはホリ様、頑張らねばいけないかもしれませんね!」

「他人事だと思って……、気合をいれないといけないかなこれは」


 すぐにペイトン達の元から離れ、風呂場を建てれそうな場所を選ぶ。

 女性用のを先に作ろう、人数が多いし一度に複数人収容できるよう、大き目に場所を取って……。


 イメージとして最初に思い浮かんだのは、プールにある消毒用の半身を浸けるアレ。アレの巨大な物ならケンタウロス達も無理なく入浴でき、寛ぐ事ができると思う。建築用の部材を使い、少し高い位置に鉱石を薄く伸ばした浴槽を用意し、足場を組んでいく。

 下に大き目の穴を掘り、薪を入れる場所も確保したので大丈夫かな……? 後で実験かな。

 浴槽の中に木材を敷き詰めておいた。使う木は以前に棟梁パメラが手をいれ、肌に優しい加工のされた木材である。


 完成はしたが……。

「でかいなこれ! 浴槽の時点でわかっちゃいたが、ケンタウロスが三匹くらい余裕をもって入れるようにしたけどお湯沸くのかこれ……」


 大きさもあり、お湯になるまで時間がかかりそうだ。魔石と薪を使って水を多少いれて火をつけておこう。

 試行錯誤を繰り返した一回目を踏まえて、少し離れた場所に作成した二個目の風呂場は簡単にできた。といってもサイズが先程より小さいから、純粋に作業量が少なかったのがあるのだが。


 こちらの方も、終わり次第水を張り、火をつける。


 大分時間はかかったが、酒宴までまだ時間はあるだろう。こちらの様子を見ながら皆を信じて待っているか。

 お湯の温度を見ながら、水を継ぎ足していくが溜まるまで長い! まだ半分くらいしか溜まっていない。水の魔石がなかったらどれだけ大変な量なんだろうこれ。

「でかいビニールプールみたいなもんだもんな……」


 ただ薪の火が消える事もなく、荒ぶるように燃え続けているおかげで少しずつ適温のお湯になってきた。量も時間はかかっているが少しずつ溜まってきている。


 時間はかかっているが、日が沈んだ頃には入浴も可能だろう。後は一応壁とかを建てておくか。そろそろ植トレント作業も終わる班も出てくるかもしれないから、急がないと……。


「おわっ!!」

 ふと視線を送った先に多少恐怖を感じる映像が広がっていた。


 俺の一挙一動を見逃すまいと物陰からこちらを見ている数多くの目。作業の終わった女性のケンタウロスが集まったのだろう、集まってこちらを見ながらヒソヒソと話をしている。


 あ! 大事な事を忘れていた!


「この浴槽のお湯……、どうやって捨てよう……」



 こうなればもう明日の自分に丸投げをしよう。

 まずは肩まで浸かれる事が大事なのだ!



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