戦いはいつも突然に

第32話 嵐の前

 早朝の拠点にて朝食の準備をしている時の事。

 家が出来てからという物、ペイトン一家がこちらに来ることは少なくなった。

 代わりに、という事ではないのだが、アラクネのトレニィアが来ることが増えた。

 他の二名はどちらかというと夜型タイプなので、この時間は寝ている事が殆どなのだとか。


 トレニィアはスライム君の料理に感動した事から、自分も料理を学びたいとスライム君に指導を受けている。

 俺も料理はできるが、スライム君程味に拘りを持っている訳でもないので、出来た物はみんなで頂いている。



 毎日朝と夜に、剣と魔法の稽古を続け、ほぼ肉体労働しかしていない生活でここ最近は結構筋肉もついてきたと思ったのだが、やはり比べて見てみるとアリヤや剣を使う事も多いリザードマンのロ・リューシィなどと剣の速度が違う。

 まだまだという事だろう。継続していかねば。


 魔法の方はというと……。

「ホリ様、イメージデス、魔力ノ集マリヲ、イメージデ、変エルノデス」

 シーの通訳であるベルは、そう口にしている。

 二人の先生は身振り手振りもつけて色々分かりやすく説明してくれる。

 この魔力を集中して集めた物を別の物に変えるというのに少し苦戦していたのだが、シーがポンと思いついた事をベル経由で教えてくれる。

「魔王様ガ最初ニ、説明デ見セテクレタノヲ、思イ出シテミテ下サイ」


 んー? ああ属性の説明の時に指に一つ一つ魔法を出してたアレか。

 指先から百円ライターとか着火マンみたいな感じで火が出てたっけ……。

 ライター……、着火マン……!

 指先に神経を集中させ、イメージを灯す。


 ふわりとした光源が一つ生まれた時、初めて自転車に乗った時のような高揚感が生まれ、叫び声を上げた。

 夜だった事から、何かあったのではないかとリザードマン達からアラクネからペイトン一家まで、全員が集まる珍事になってしまった。


 全力で謝りながら、事情を説明すると。

「プフッ、そんな基礎的な事で、あんな大声上げたのか?」

「プププ、レリーア。笑っちゃ失礼よ」

「貴方達ィ、二人共ォ、笑ってるじゃなァい?」


 レリーアとロ・リューシィはいつか全力のセクハラをかましてやろう。

 ラヴィーニアが元気づけるように頭を撫で抱きしめてくるが、傍から見たら多分捕食されてるようにしか見えない。


 解散した後に、ゴブリン達とスライム君と少しだけ残っていたワインで祝杯を挙げた。剣も魔法も少しずつ前進できている。その事実が嬉しい。



 種族同士もそれ程仲が悪いという事はない。

 ただどうしても譲れない事があるという他種族が集まる事で生まれる問題は、第三者としての種族が間を取り持つという流れが主になっている。


 そして数日が過ぎた時の事。

 地面を規則正しく叩く蹄の音、風のように早く駆ける一人の女性が、こちらに走ってきている。凛々しく美しいその姿に、耳に飾られている花が今日も揺れている。


「ウォックさん、おはようございます。一人ですか?」

「おはようホリ、これから本隊が来るので先に挨拶を済ませておこうと思ってな。迷惑ではなかったか?」


 ええ、もちろんと頷いて見せると、彼女は少し安心したように息を吐いた。

 だが、それに続いて大きく深呼吸をして何かを言おうとしている。何だろうか?

「そ、それとな! ポッド様の実を頂いたよ。ありがとう! そ、それでな」

「ああ、よかった食べてもらえて。美味しかったですか?」


 う、うむ!と元気に答える彼女。


 少し顔が赤いが、どうしたんだ? かなりの距離を走ってきたのか?

「そ、それでな? その返事なのだが……、私もまだ若輩者だ。これから仲を深めていければと思っているのだが、どうだろうか?」


 うん? どうって……? 返事っていうのもよくわからないが、同じ拠点で暮らすのだし、仲良くするのは良い事だよな。


「ええ、そうですね。これから長い付き合いになるのですから。それこそ一生モノです。仲を深めていきましょう」

 と握手をするために右手を出す。彼女の表情はあまり変わらないが、眉間と顔色が結構わかりやすい。赤面をしているのは運動した後だからわかるが、眉間にシワが凄い寄っている。


 様子がおかしいな、どうしたのだろうか? 

 うわ言のように「長い……!」とか「一生……!」とか言ってるけど、気に障ったのか? どうしよう。

「あ、あの何か嫌な事を言ってしまいましたか? それでしたら謝罪させて下さい」

 そういうと、俺の手を力の限り掴むように強く握りしめ、彼女は首を振っている。

「嫌なものか! 少し心の準備が必要なだけだ! これからよろしくな!!」


 激しく揺れる俺の腕。凄いパワーだ、捥げる。

 うーん……? まぁいいか。楽しそうだし。


 程なくして本隊と呼ばれていたケンタウロスの団体が到着した。

 人数は男性が13名、女性が26名の合わせて39名とのこと。やはり移動を繰り返していると、どうしても野営を兼ねるから汚れが目立つ。その中には怪我をしている者もいる為、ペトラとト・ルースの二名が面倒を見ていた。ただ面倒を見ているところから「ギャアッ!」とか「熱いッ!!」とか悲鳴が聞こえるような気もするが、元気が出て何よりだ。

 料理班もフル稼働で対応している。食料の補給をしておいて正解だったな、以前だったら食料もなく、泣く泣く追い返してしまっていたかもしれない。


「ん?」

 ペトラのいる場所近くで何やら怒号が……。健康飲料被害者か!? ちょっと行ってみよう。


「やはり俺は納得できない! どうして人間のいるところに住まねばならぬのだ! どうせ詰まらぬ策で罠にハメようとしているだけだ! 今すぐ離れるべきだろう!」


 大きく叫んでいるケンタウロスの男性。その男性は俺の方に指を差し、そう叫んでいた。


 ペトラが隣にやってきて、事情を説明してくれたが、どうやら男性は人間である俺が居る為、最初から移住に関しては反対派だったとの事。


 だったらここに来るまでに折り合いつけろと思わなくもないが、感情が発端の問題だから納得いかないという発言にも理解はできる。


 ここは俺から何か言っておくべきか……? 悩ましいな、相手からしたら苛立ちの原因に何を言われても聞く耳持たないだろうし。


「チッ」という舌打ちが聞こえた。その音の出所であるウォックが俺の隣にやってきて、睨み殺すと言わんばかりに騒ぎを起こす男性を見ている。


 苛立ちを隠す素振りを見せないその女性は、「オレグ」と何時ぞやの男性を呼びつけ、彼に少し指示を出している。


 オレグと呼ばれる男性はそのまま俺の元へとやってきて、「ホリ様、少し話がありますので、ちょっとよろしいでしょうか?」と有無を言わさず背中に手を当て、そのまま俺と歩き始めて移動を開始した。


 ペトラもどうしたらいいのかわからず、俺と共に歩き出す。

 一体どうしたと言うのだろう?




 ――ホリ達が立ち去った後の事――

 ケンタウロス達を纏めてきた女性が、静かに憤怒している。

 彼女を幼少から見守ってきたオレグと呼ばれる男性は、それを一番に察し、「ホリをここから遠ざけろ」という至ってシンプルな指令を即座に了承した。


 彼女はかなりの殺意とそれに伴う殺気を纏い、今も尚、騒ぎ立てる男性に一歩、また一歩と近づいている。

 彼女を見た仲間が、軽く悲鳴を漏らす程の恐怖の権化と化している彼女は、裂けるようにして開いた道を静かに歩いている。

 一歩、また一歩。静かに、死刑を執行する為にその執行人が歩みを進める。


 彼女はまだ若い、だが類まれな戦闘能力と戦場における強靭な胆力により、並外れた戦果を出し続けた猛者である。

 そうやって培われた信頼が、図らずもやりたくもない部族を纏める立場に押し上げる事になり、言う事を碌に聞かない他部族の連中にも目をかけてきた。

 ホリの元に来るまでに、何度となく議論をさせられ、時間を取られ、言葉を弄するのを苦手としながらも説得は成功したと思っていた。


 それをこういった形で裏切られ、心に渦巻く感情を抑える事を、彼女はしなかった。

 そして、そのまま今もホリを糾弾し続けるケンタウロスの背後に立った。



「おい」

「ああ!? ……何だウォック、なんゴボォ!!!」


 首を右手で締め付けられ、座っていた彼の体が浮かぶ。

 数百キロはあろうかという巨体を細腕一本で持ち上げている女性は冷ややかに告げた。

「お前達にも何度も説明したな? それを今になって騒ぎを起こすのはどういった了見だ? それとも、私の説明では不足だったか? ならば謝ろう。だがそれで責められるべきは私だ。ホリではない。人間が嫌なのは理解できるが、状況を鑑みる事もできないのかお前は?」


 彼女はその冷たい眼を周りの者にも向けた。一人一人に視線を向け、彼女は言葉を口にしていく。

「お前達もだ。もし私に反対する者がいるなら言うがいい。その場で群れから離れてもらって構わん。他部族の者達も、白の馬蹄の者でも、私に従わないのなら今すぐこの場より離れろ。狩りで得たものは好きにしていい」


 彼女は、歯を食いしばり今にも破裂するのではという程顔を赤くしている男性を地面に転がすように放り投げた。


「貴様は……、青のたてがみの者だったな。これで文句もあるまい? これまでご苦労。何処へ行くかは知らんが、息災でな」


 突きつける言葉の棘を隠すような事はせず、彼女は彼に冷たく離別を告げた。

 地面に蹲り、新鮮な空気を取り込もうと、咳き込む男性に寄りそうように別の者が数名彼の近くに駆け寄った。

『青の鬣』と呼ばれる一族が中心の駆け寄ってきた者達は、魔族にとってはある種当然の疑問を彼女に投げかける。


「ま、待ってくれウォック! いきなり群れを離れろだなんて……! お前は同族よりも敵である人間を取るのか!! どう考えてもおかしいだろ!」


 彼女は表情一つ変える事なく、目の前の者達を見据えている。

「ああ。人だの、魔族だのとつまらない事で騒ぎ立てるお前らよりも、私はホリを取る。様々な種族に手を差し伸べ助けようとする人間と、つまらない事で喚く者達と。どちらが未来を見据えているかなぞ明白だろう?」


「つ、つまらない……!? お前、俺達が何と戦争をしてきたか忘れたのか! 白の馬蹄はそこまで知能が低いとはな!!」

 彼女の言を聞き、駆け寄った者や周囲の他部族のケンタウロスも多少の動揺を見せる者もいた。

 今ここにいるのは四部族、白の馬蹄、青のたてがみ、栗の鼻梁びりょう、黒鹿毛の尾。

 元々、ケンタウロスの部族の中でも青の鬣は武力で一目を置かれてきた。

 だがこの悠然と構える女性の前では、その鍛え上げた武力も霞む程に彼女は別格の強さを誇っている。彼女に守ってもらっているという事実が更に青の鬣の者達の心を腐らせていた。


 表情一つ、声色一つ変えることなく彼女は淡々と告げていく。

「口で論ずるのはもう何度もしてきた、無駄な時間だとわかっているだろう? 文句があるのなら、剣を抜いてもらっても一向に構わん。殺しはしないから安心しろ。ただ従うでもなく、去るでもない、喚くだけの者は喉を潰されても文句を言うなよ?」


 彼女はそう告げると、腰に携えた剣に左手を添えた。

「クソが、なめんなよ!!」

 一人のケンタウロスが剣を抜き、飛ぶようにして前に出ると、彼女に向かって猛然と突き進む。周囲から悲鳴のような物が出る中、その結果は淡泊な物だった。


 アナスタシアは剣を抜くような事はせず、剣の柄頭でその男の喉仏に近い部分を抉るように刺し通した。その衝撃の強さからか、男性の大きな体が軽く宙に浮きあがる。


「ガッ……、ハッ……」と口から空気を漏らし、白目を向いてそのまま倒れ込んだ男性は、ヒューヒューと口から音を出している。


「他に何か言いたい事はあるか? そいつが目を覚ましたら再度どうするかを告げ、納得がいかないのならその者と一緒にここより去るがいい。追う事もしない。好きにすればいい。わかったな!」


 そう周囲の者達に宣告したところで、オレグと呼ばれる男性とホリ、ペトラの三人が帰ってくる。


 ホリがぽかんとした顔で何があったかを聞いてきた為、端折りながら説明していくアナスタシア。それらを見守る周囲のケンタウロス。


 そうして見守っていた周囲の者達がが始まる。

ホリはアナスタシアにより喉が潰されて、意識のないケンタウロスの近くに膝をつき、身を案じている。

「あれ? この男性かなり怪我が酷いですね。ペトラ、健康飲料ある?」

「ええ、最後の一本ですけど……、使われますか?」


 うん、頂戴。と手を差し出し、水筒を受け取るホリ。

 ホリとしては、怪我をした男性を助けようという善意の心と、ここで消費して自分に向けられる健康飲料被害を減らすという悪意の心の籠る行動である。


 そして、その水筒を男性に少しずつ流し込むホリ。

 固唾を飲み、見守る周囲。

 ――その時、倒れた男性が、まるで跳ねるように体を痙攣させ始めた。


「ああ! やっぱりこうなったか! オレグさん抑えて!」

「承知!」

 ホリに頼まれ、生物の本能として拒否反応を示す男性を抑え込むオレグ。

 そしてさらに流し込まれ続ける健康飲料。

 流し込まれる量に比例して激しく揺れ、痙攣をこれでもかとする倒れている男性。


 周囲の者はその映像に顔を青ざめさせ、顔や口に手を当て恐怖し、涙を浮かべ神に祈っている。その中でアナスタシアは若干、手で口を隠し笑っている。

 薬草汁の事を知っているアナスタシアと他の者では、同じ光景でも、意味がまるで正反対である。

 知らぬ者から見たら、やっている事はまさに死体蹴りにも似た悪魔の所業。


「ふう、これで良し。オレグさんありがとうございます」

「いや、別にこれくらい」抑え込むという助力をしていたオレグも若干引いていた。


 アナスタシアが武力を以て制した空間を、ホリが恐怖を以て上塗りした。



 ――だがこの所業が功を奏したのか、アナスタシアとホリによって心を支配された者達は、逃げたら何をされるかという恐怖を感じ、その後も離別を決意した者は現れずに、更には喉を潰された男性も回復した事により、健康飲料の誤解も解けた為、ホリの信頼は取り戻されるが、それは大分後の事になる――






 ケンタウロスの一団が到着してからまた幾日が過ぎた。

 掘削工事も順調に進み、ケンタウロス達が住む厩舎のような物を優先して作った。

 鉱石材を外面に使い、内装は木造りなのでそれ程抵抗もないようだが、何せ体が大きい。いくつかのルートを作り直すのが思いのほか手間がかかった。


 あれから問題らしい問題も起きていない、うまい事やってくれているのだろう。


 鉱石を削り出す際に、サイズの基準を決めて建築部材にしようという試みを始めた。

 今までは完全オーダーメイドで、一つ一つ俺がハンマーを使ってサイズを合わせたりとしていたが、これで簡易的な箱型拠点を作成できるようになったり、うまくいけば枠組壁構法ツーバイフォー的な建築も可能になるかもしれない。


 剣と魔法の訓練も少し様変わりしてきた。

 以前に魔法が出来た事で夜中に一つの騒動を生み出してしまったが、それを聞いてアラクネの長女、ラヴィーニアが夜の時だけ面倒を見てくれるようになったのだ。

 これでベルも自分の訓練ができるようになり、槍を振り回している。


 剣の方はというと、引き続きアリヤ、そして新たにウォックが教えてくれている。ただこの二人には少し問題があり、言っている事がわからない時が多いのだ。

「ココハ、コウ……、スッスッテヤッテ……」

「違うホリ、スッスッとやるんだ」

 この二名の使う代表的な擬音が「スッスッ」と「サッ」、「ピュッ」と「ヒュン」である。わかるかーい!


 剣の稽古はタンコブができる度に、寝る前に健康飲料。

 魔法の稽古は魔力を使いすぎて疲弊してしまい、寝る前に健康飲料。


 毎度飲む度に気絶をしている。

 ペトラは「おいしく出来ている筈」とファンタジスタな発言をして泣かせてくれた。作った物が劇物になる呪いでも掛けられてるのでは?



 今日も鉱石を削り、建築部材を造り上げている。

 並べられた角材を見ていると、少し子供心に火がついてくる。


 通りがかったペイトンに声をかけられた。

「ホリ様? 何をされているんです?」

「ん? ちょっと大きい玩具を作ってみようかと……」

 話を聞いたペイトンも、少し瞳をキラキラさせ協力してくれた。


 そこにゼルシュが、どうした? と顔を出してくる。

「ホリ? ペイトンも何をしているんだ?」

「いや、実はね……」

「ゼルシュ殿、これはですね……」


 悪ガキが三人に増え、少し規模が大きくなる。

 そして、ああでもないこうでもないと意見をぶつけ合った結果。

「できたぁー!!」

「やりましたな!!」

「これは中々いい出来ではないか!」

 三人で喜びを分かち合っている。

 そのすぐ近くにはトレビュシェットと呼ばれる大型投石器。

 肉抜きをして軽量化をしているにもかかわらず、鉱石の強度により耐久性も大丈夫!



 小学生が紙ヒコーキを作り、「試しに飛ばしてみようぜ!!」というノリで、一度バラして、山の上までルンルンと運んできてしまった。

 そして再度組み直し、山を削りだし大きな球を作り出した。


「ペイトン、下確認ね。ゼルシュ、周りの確認済ませて!」

「はい! こちらは大丈夫です!」

「周りに人影もなしだ! 弾道上にも人はいない! いけるぞホリ!」


 発射!! と俺が叫び、木の蔦を束ねて作ったロープを手放す。


 青い空に白く輝く太陽が、天翔ける放物線を描いて飛んでいる!

 俺達三人は肩を組みその太陽が地面に落ちるのを眺めている。


 大地を大きく揺らしているかのような轟音が轟き、俺達の歓喜は最高潮に達した。

 三人で称え合い、ハイタッチをしようとした時――

「敵襲だァー!!!!!」


 誰とはわからない野太い声で、武装したケンタウロスが数人。

 少し遅れて、リザードマン達。

 遠巻きに、息を吞み彼らを見ている俺達三人。


 後から合流したウォックが飛んできた石を見て、くるりと振り返り、こちらを睨みつけているように見える。


 その武装集団が俺達の軌跡を見つけるまで、それ程の時間もいらず。

 我先にと逃げ出した俺達はアラクネのレリーアにより御用となったのだった。


 ジャパニーズ謝罪スタイルが異世界でも通用する事はこれで確認ができた。



 それから余興として、トレビュシェット投石大会が実施されることになり。


 俺、ゴブリン達、スライム君、オーク一家チーム。リザードマンチーム。ケンタウロスチームの三チームで争う事になったりもした。

 採点基準として距離は勿論の事、放物線の美しさ、石が着地した際の威力や音などを審査員のアラクネ三姉妹が取り仕切っていた。


 優勝チームはリザードマンチームだった。ト・ルースの知っている強力な投石機を再現されたのが敗因だった。優勝者チームには「汚いぞ!」という主に俺の発言があったが、ト・ルースの「戦争に綺麗も汚いもあるもんかねぇヒッヒ」という発言でぐうの音も出なかった。


 作られたトレビュシェットは城壁の上で今日も輝いている。

 倒れないように横に寝かされているけど……。


 そんな事があってからまた幾日か過ぎた時。

 ポッドに呼ばれて、各種族代表者が集まっている。

 俺とゴブリン達、ペイトン、ゼルシュにト・ルース、ケンタウロスからウォックとオレグ、アラクネはお休み中である。


 「ポッド、どうしたのいきなり? 何か話があるって聞いたけど」

 集まったことを確認して、俺から切り出してみた。ポッドはいつもより騒がしく木の葉をざわつかせ、少し焦っているようにも見える。

 「ホリ、少し大変な事になりそうじゃ。森の方で大発生スタンピードが起きとる」



 ――戦いが始まる。誰しもがポッドの言葉を聞き、それを覚悟した――

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