第10話 第一生存者発見

 ――オークとは。

 スライムやゴブリンに次いで、ファンタジーで愛されているキャラクター。

 ゴブリンに並び、心は少年体は成人の方々の為に、様々な趣向を凝らし美女のムフフを送り届ける素敵な種族。

 オークが織り成す掛け算は多岐にわたるが鉄板のエルフとのそれはすでにグローバルスタンダード。だが普通のRPGだと普通に戦闘をこなし、魔法もある程度こなすが尖った性能のない凡キャラなのが玉に瑕。※個人的な意見です――




「おい! 聞いているのか!! そこの人族!!」

 彼は槍の切っ先をこちらに向けている。どう考えても招かれざる客だろう俺だが、初めて生で見るオークは多少興奮状態で目を血走らせており、その槍が目の前で鈍い光を放っているので少し言葉に詰まる。足も震えるし、タマヒュンしてしまう。


「あぁ……あ、あのっ!」

「うるさい! しゃべるな! 殺すぞ!」

 

 どないせーと。

 こちらが勇気を出して話しかけようとしたが、彼は聞く耳を持たない。動いたら「殺すぞ!」と言われ、喋ったら「殺すぞ!」と言われた。これで「手を上げろ! 動いたから殺す!」とかわけわからんことを言われたらどうしよう?


 もうどれだけ時間が経ったのか、額の汗が滴り顎から落ち地面を濡らす。心臓もばくばくと高鳴り、何度も槍の切っ先と相手の目を交互に見てはタマヒュンしている。


「魔族の人ですよね? 少し落ち着いて……」

「うるさい! 人族の言葉なぞ聞けるか!! ここで死ね!!」


 オークは言うが早いか、槍を少し手前に引き、次の瞬間には体重をかけるように前に押し出してきた。巨体から流れるように弾き出された穂先が一直線に自分の体を目掛けている。あぁ、短い異世界ライフだったな……、来てしまうであろう衝撃に備えて目を瞑る。


 しかし、その衝撃は来ることなく代わりに一人の声が聞こえる。

「ふむ、中々すじのいい突きをしておりますな。ですがまだまだ。それでは魔王はおろか人間も殺せませんぞ?」


 くそ、認めたくない、認めたくはないんだが。瞑った目を、少しずつ開いていくとそこには……。


「大丈夫ですかな? ホリ殿」

 にこやかな笑顔と全てを畏怖させるような瞳をこちらに向けてくる魔王。たった指二本で穂先を摘まむように、その暴力を止める力。その姿は何よりも頼もしく、何よりも勇ましく、認めざるをえないかっこよさだった。


「ま、魔王……様……? そんな……!」

「フフフ、オーク君。家族を守ろうとする心意気、立ち向かう勇気は立派ですが、耳を傾ける心の余裕を常に持たねば、更なる強さは備わりませんぞ」


 オークは震えながら持っていた槍を落とし跪き、というより崩れ落ちたような感じで、その前に腕を組んで頷いている笑顔の魔王。彼らは感動の再開を果しているのだ、邪魔をしてはいけないのかもしれない。


 だが目前に迫った、確実で明確な死を見たことで膝が笑い、立っていることができずに後ろに倒れこむように尻もちをつく。目を瞑り、心の底からの安堵と胸に手を当てて、まだ生きているという実感が篭った長い息を漏らす。


 はっ!? 若干漏らしたか? 大丈夫か!? この年でそれはやばいぞ! 少し余裕が出た結果思い至るのはまずそこである。厳正なる審議のもと、ギリギリセーフで男の面子は保たれた。


「ふむ、ホリ殿。彼らを落ち着ける為にも一度戻りましょう」

「す、すいませんが……」


 場の空気を和ませるように少しオーク達と和やかに談笑していた彼がこちらに向き直り行動を促してきたのだが、俺はまだそれについていけない。何故なら……。


如何いかがされましたかな?」

「腰が……、抜けてしまいまして……!」


 恥ずかしい……! 俺が自分の情けなさを告げると魔王はふむ、とこちらにやってきて軽々といった具合に俺を横抱きに持ち上げた。所謂いわゆるお姫様抱っこである。

 トクン……。


 いや、この絵面はまずいんじゃないのだろうか。想像するだけで怖気おじけが走る恐怖映像だろう。

「拠点に一旦戻りましょう。オーク君達、ついてきなさい。そちらでなら腰を落ち着けて話せると思いますよ」

 言いながら歩みを始めた魔王。オークの後ろの洞穴の中にはこれまた黒い体毛のオークの家族と思われる奥さんオークと体格が頭二つ分程小さい子供? のオークがいた。槍を手にしていたあのオークはこの人達を守る為に必死だったのだろう。


 いかん、自身のこの映像を小さい子チーム、ひいてはムスメに見られたらなんと言われるか……!


「うわっキモチワルっ!」

 手遅れだったかーと手を顔に当ててその声から現実逃避をしていると、スライム君以外は全員集合したので拠点まで歩き出す。オーク一家はあちこちに傷を負って布を巻いていたり、持っているものや衣服がすすのようなもので黒ずんでいたりとよく見たらボロボロ。


 そんな一家は、ムスメを見るなり「お、王女様ッ!?」と膝をついた。いまだに彼女が王女と呼ばれることに違和感を覚える。自由人すぎる彼女に軽い罵倒を受けつつ、拠点についた。


 拠点に戻ると、スライム君がお茶の用意を始めていた。こうなることを察していたのかわからないが、仕事が出来るスライムである。この紅茶セットと蝶ネクタイどこにあったの。


 そこで魔王が腰を下ろし、オーク一家は跪く。

「さて、話を聞かせてもらえますかな?」

 魔王がお茶が入ったカップを傾けて一息ついた後にそう問うと、オークは頭を下げたまま答えた。


「私は、先の戦争で後方の部隊にいたものです。敗色が濃厚となり、そして魔王様の命により後退しました。その後帰郷し家族と合流したのですが、人間の手が迫り村を追われました。村の者達とは散り散りになってしまい……」


 ――命からがらここにきました。と彼は告げた。

 村を攻められたのか。相手が軍なのか、冒険者なのかは不明だが、戦闘要員も少ないから逃げるしかなかったんだろうなぁ。

「そうして、この嘆きの山ならば人族が来ることも稀だと思い、何度か人族に襲撃をされながらも到着し、洞穴を見つけたので身を隠そうとしたところに、そこの人族を見つけた次第でございます」


 そういうと彼はこちらを睨みつけるようにみると、少し声を荒げながら「魔王様、何故人間がここにいるのですか!」と当然の疑問を口にして指を差してきた。

 まぁそうだよなぁ……。魔王は彼を一瞥すると、視線の強さに彼は「ヒッ」と息を零していた。慣れないと怖いよなぁあの距離でのあの顔……、慣れても怖いし。


「落ち着きなさい。彼は私の、ひいては私達魔族の客人です。客人に失礼を働くのは許しませんよ」

 朗らかに諭すようにオークにそう話す魔王がこちらを向きニコリと微笑む。怖いなぁ。

「ホリ殿、彼らも知らなかったとは言え数々の無礼失礼しました。代表して私から謝罪を申し上げます」

「いえ、あの状況なら当然のことです。むしろ護衛の一人もいない状況なのに油断していましたよ」

 彼が下げた頭にこちらも合わせるようにして頭を下げて苦笑しながら返すと彼は恐怖の笑顔を浮かべてオークに視線を戻した。


「ホリ殿もこう申してくれています。すれ違いのようなものがあったのも事実ですし、水に流してお茶にしましょう」

 スライムギャルソンが淹れてくれたお茶が優しい香りを醸し出している。オーク達にも少し落ち着く時間が必要だろう。


「パパ、お菓子出して」

 ――ムスメはいつも、ブレない。そうして皆でお茶とお菓子を頂いて少し落ち着くことができたのか、オークが頭を下げてきた。

「申し訳ありませんでした! 罪に問われるのでしたら軽いと思われますが私の首一つでどうか……」

「いやいや、そこはもう水に流しましょうよ。今はもう一緒にお茶を飲んだ仲ですし。あまり引きずるとむしろ魔王様も困りますしね?」

「おぉ、感謝します……っ!」


 そこからオーク達と自己紹介を済ませ、こちらの現状などを説明していく。

「つまり、ホリ様と魔王様はここに拠点を作成するのですか?」

「そうですね、魔王様はまだ本調子じゃないみたいですし、主にここにいるのは私とゴブリン君達、スライム君ですが……」

「フフフ、オーク君達も勿論協力してもらいますよ? ホリ殿の計画は私の計画と知りなさい?」


 そう魔王が顎に手を当ててニヤリと不敵な笑みを浮かべる。やはり、こういった笑顔を見せるのは様になるな。何せ怖い。


「ハッ、このペイトン命に代えましても」

 戦国時代めいてきたやりとりを見せるペイトンと魔王。オーク一家はペイトン、奥さんのパメラ、子供のペトラというらしい。別に俺はモフラーというわけではないが、ペトラと呼ばれる子はまだ幼いからか、ペイトンら大人のそれに比べると毛並みがフワフワな感じがしている。それが少し気になるが……。


「まぁ、そうはいっても何もかもが素人なので、作業も何も手探りでやってますから。そう気を張らずにやりましょうよ」と言うと、ペイトンは少し呆気にとられるように「は、はぁ……」と答えた。


 その後、しばらくは談笑を続けた。ペイトン一家は先程の穴倉にしばらく住むようだ。なので少し拡張しておこうかという話をしたが、あの広さの方がいいようだ。うーんとなると、やはり……。


「魔王様、そろそろ大規模な住居も手を付けたいんですが」

「ふむ? 何か問題でもありますかな?」


 問題は数多くある。まず立地条件。できれば空から眺めて適正な場所を見つけ出したい。それに出来る事なら少しでも窪んだ場所があれば、そこを基点に広げていきたいと思っている。


 次に鉱石の処理方法だ。

 ハンマーで砕くにしても、潰してプレートにするにしても、バカにならない量が出る。砕いた際に出る粉塵も困りものだ、粉塵爆破したりする可能性や肺に入ったりするのも当然避けるべきである。


 そのどちらも素人判断同然なので、当たり前だがどの程度がセーフラインなんて分かるわけがない。更に今いる場所からでも森へは距離がある、場所によっては更に遠くなる為、物資が枯渇しやすくなる不安もある。


 これらの問題を魔王とペイトンに説明しながら話をすると…

るとはプクク……!」

 まるで関係ないところでツボに入ってるこの怖い顔はどうしてくれよう。ムスメ! 何か言ってやれ!と思ったが、彼女はゴブリン達と新たに加わったオークの子供と何処かへいってしまったのだった。ちくしょう!



 魔王が何かツボにハマり、暫く使い物にならなくなってしまっているのをオークと俺が唖然としている。そして話を戻そうと咳払いを一つして、魔王が話を切り出してきた。いや、手遅れだぞ。


「そうですなぁ。収納魔法も個人の力量で使える許容量が変わりますから、それほど多いとなると、私かムスメが定期的にきて回収していくしかありませんな」

「うーん、私も少しは魔法を使えるようになっておきたいんですが、どうしても時間がなくて二の次ってなっているんですよね」

「あの、少しよろしいですか……?」

 うーん、と唸っている俺と魔王。そこに恐る恐るという具合にペイトンが手を上げて話を始める。


「鉱石をある程度大きく削り出し、ハンマーで潰す際にブロックの石材のようにして保管しておけば、住居などの建築に使えるのでは……?」

「「それだ!」」

 それはいいな、むしろなぜ思いつかないのか自分のアホさ加減に笑ってしまう。


「ただそれだと、ホリ殿の負担が更に増えてしまいますな。仕方ない面もあるのかもしれないですが……」

「いや、それでも今のようにただ瓦礫がれきが積みあがっているよりはマシでしょう。あの強度の鉱石を使った建築部材で建てた住居や建物なら大地震でもこない限り安全でしょうし」


 あとは山の中に広げる場所だな、クレーターのように窪んでいる場所が森に割と近い位置にあれば立地としてはいう事ないんだけどなぁ。


「ふむ、ここは私が『奥義・魔王波動砲』で山に挑んで……」

「魔王様、まさかあの108の奥義の一つを……!?」


 よくわからない話をしている向こうは放っておこう。可能ならば、現在の拠点から徒歩でいける範囲が望ましいし、高所の作業も兼ねるのだから周囲の注意も必要だろう。何より、現状の俺には空のモンスターに対抗する手段が何一つない。スライム君くらいしか魔法を自在に使える人材がいないのがネックだ。

 ゴブリン達はシーが簡単な火や水や風の基礎魔法を使うが、アリヤとベルは全く魔法は使えない、まさに完全脳筋な近接スタイルだからなぁ……。


 うーん……、遠距離攻撃手段かぁ……。弓、ボウガン、スリングショット、色々思いつくが、あんなもの道具があって知識がなければ簡単に作れるようなものじゃない。仮にできたとしても碌な出来じゃない。精度も何もあったもんじゃないだろう。

 人のいる大きな街へ行き、その類の武器を手に入れたりした方がよほど確実だ。しくはそれらを作成できる人材がいれば……。無いものねだりしても仕方ない。もし工事を始めても、しばらくスライム君とシーのダブル護衛をしてもらおうか……。


「魔王様、上空の敵に対しての攻撃手段って何かありませんかね?」

「上空からですと!? それなら魔王ジェノサイドカッターを……!」

「いえ、それは結構です。ゴブリン達にもできる対空手段がないと、もしモンスターに襲われたりしたらピンチかな? と」


 魔王はこちらがスルーして話を続けたことにちょっとショックを受けながらも答えてくれた。

「ふーむ、そうですなぁ。有翼人などがいれば助かりますがそれもなし……うーむ」

 魔王は頭に手をやり少し考えているが、そう簡単には出てこないようだ。


「そうですな、今すぐに解決というのは少し難しいかもしれません。いくつか方法を考えておきましょう」


 あとはもう魔王に丸投げしておこう。できないものはできない、ならばできることをやっていけばいいのだ。


「ペイトンさんは如何されます? 今日はこのままなら一度軽く食事をしておいて、午後から行動しますか?」

「そうですね、ホリ様の仕事のお手伝いもしたいですが、近くの森に私もいってみようと思っています。何か見つけられればいいのですが」


 それはありがたい、ゴブリン達にはない食文化から見た素材があるかもしれない。ゴブリン達はどうしても肉優先になってしまうからなぁ。スライム君が同伴している時にたまに木の実を取ってきたりしてるが、それでも肉料理の絶対数が多い。


 贅沢は敵だが、可能ならば少し別のものも食べていきたい。


「そうですか、ゴブリン君達も助かると思いますよ。武器とかは大丈夫ですか?」

「ええ、元々農業を生業なりわいにしていましたが、たまに槍や弓を使った狩猟もしながら生活の糧にしていましたし、武器も手入れはしてあります。殺した数なら人間より動物の方が多いくらいの小心者ですがね」


 あぁ、戦争の時も後方部隊だったって言ってたもんな。先程槍の腕は見せて貰ったし、判断もちゃんとできるだろう。ゴブリン達の足を引っ張るようなことにはならないはずだ。


「魔法などは使えるんですか?」

「いえ、私は魔法のたぐいはまるで使えません。妻のパメラと娘のペトラは水と無属性の魔法なら使えますね」


 娘だったのか! 危ない、女の子に「ちょっと体の毛触らせて」と言って、おまわりさんこいつです案件になるところだった。っていうか、この場にいる奴で独身俺だけかよ! なんだこの敗北感は!


「ぐぬぬ……!」

「どうされました?」

「いえ、何でもないです……」


 打ちのめされている場合ではない。パメラと呼ばれる彼の奥さんは今、スライム君と食事を作っている。スライム君は常に食料をどこかに備蓄しているので、それを使って料理を準備しようとしていたのをパメラさんが手伝うと流れになったのだ。


 オーク一家の合流で、少し人数的な余裕もできたが、その分必要になる食料や燃料は増えていく。しかし、それでも人の手が増えるのは大きい。彼らにしかできない事もあるだろうし、戦闘面で言えば俺なぞ足元にも及ばない。


「農業か……」

「む? ホリ殿、どうされましたかな?」

「いえ、ペイトンさんが農業をやっていたのなら、農業関連をなんとかしたいなと思ってます。今はいいかもしれないですが、人数を支える為に安定した食料自給は必須ですしね」


 今はまだなんとかなるだろう。人数も少ないし、毎日何かしら森で獲れているから。だがこのまま人数が増えたとして、食料も住居も足りなくなるのは当然避けるべきである。そのためにも農業は必須なのだ。


「ですが、まだ土をどうこうできるほど余裕がないんですよね。実験的なことはしている最中ですし……」


 実験的なものとはトイレのことだ。ポイントを決め、穴を掘り、そこに木で作られた簡易おまるのようなもので用を足す。そしてしばらく貯め込み、放置した後に埋めるという工程を試行している。


 発酵がどれだけできているのかもわからない完全に手探りの環境なのだし、そもそも成功するともあまり思っていないが……。試しにやってきた色々な旨を説明し、ペイトンに一つ要求をする。


「なので、ペイトンさんには余裕がある時に土を掘り返したりしてほしいんです。表面的な土を深い位置の土と変えることで少しでも何か変われば……」

 その時である。

 魔王が「ふむ!」といいながら自身の膝を叩いた、何かあっただろうか?

「その掘り返す作業、私が一区画やってみましょう。何、少し休みすぎて体が鈍らぬようにしたいところでしたしな!」

 高笑いをしながら言い放った魔王、それなら彼に任せよう。やる時は決めてくれる人だ、怖い顔だけど。


「ならそちらはお任せしますね。ペイトンさん、森で自生している植物で食料になるものをこちらで栽培することなどは可能ですか?」

「そうですね……、私は主に小麦を栽培しておりましたし、専門の知識などがあるわけではないですので自信はありませんが……」


 彼が申し訳なさそうに頭に手を当てて言ってくるが、俺達の話を聞いていたのか、そこに走り込んできたオークが一人。


「私にお任せください!」と声高に彼の娘のペトラが帰ってくるなり叫んだ。

「私は薬草の知識を少し学んでおります。食べられる草もある程度わかりますので、一緒に連れて行ってください!」


 うーん、どうしよう? ペイトンさんもそうだけど、少し休んでもらいたいんだけどなぁ。少し難色を示していると、ペイトンさんが娘に釘を刺す。


「いや、お前はまだ子供。森への探索にはまず足手まといだろう。特徴を教えてくれれば私がなんとか……」

「ここに植え直す事を目的に採取するなら、私がやった方がいいと思うの。お願いお父さん、私も連れて行って!」


 彼女は彼女なりに、役に立ちたいんだろうなー。体を強張らせ、必死に訴えてくるペトラ。なんとかやめさせようと頑なに拒むペイトン。


「まぁ、専門知識が少しでもあるならそれを頼りましょう。ペイトンさんもできる限り彼女をフォローしてあげてください。あとは……」

 そう助け舟を出すように話を切り出し、彼女の後ろで話を聞いていたゴブリン達と目が合った。彼らに頼るように一つ頷き告げる。


「ゴブリン君達、少し頑張ってくれるかな?」と聞くと「マカセテ!」と言いながら胸をトンと叩く。頼もしい。


「今はとにかく手が欲しいです。子供だからとか小さいからとかあまり関係なく、出来ることを出来る限りしてほしいんです」

 親としては複雑でしょうが。と付け加え彼に話をつけてみる。


「彼らと私のいう事にちゃんと従うんだぞ!」

 ペイトンさんも渋々といった表情だったが、それでも一応納得をしてくれた。あとは彼の奥さんのパメラさんへの説明だろうけど……。まあこの分なら心配いらないだろ。


 食事を用意してくれているスライムたちのところへ向かっている際にペイトンがぽつりと呟いた。


「魔王様、ホリ様、どうかパメラの説得をお手伝いください……。私だけではほぼ無理です……!」


 異世界の夫婦は尻に敷かれるのがデフォなんだろうか。

 怖い。

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