復学支援会議Ⅱ

 退院が近づき、リハビリテーションの見地からも、復学支援会議の場が持たれました。以前、悪性リンパ腫の見地から行った会議よりも大規模のもので、小児科の主治医が会議を仕切り、リハビリテーションの主治医、担当して下さった理学療法士の方、同じく作業療法士の方、ソーシャルワーカーの方、支援学級の担任先生、体育の先生、更には僅かな期間ながら行った心理発育を担当して下さった方まで、息子のリハビリテーション入院に関わった全ての方々が、一堂に会しました。これだけでも畏れ多い事でしたが、この会議に、なんと、息子が通うことになる一般学級の小学校から、学校長先生と学年主任、担任になる予定の先生と、息子の学校での生活を、実際に傍について行動していただく事になる介助員の方まで、片道車で3時間は掛かる道のりを、時間を割いて出席して下さいました。当初、復学支援会議で決まった内容を元に、書面が学校に送られる段取りだったそうで、わたしもそうした対応で十分として、お願いした所でしたが、学校側から希望があった、という事で実現したそうです。なんと表現しても足りないような感謝の念を抱いた事を覚えています。


 そして、この会議の冒頭、息子の担当を総括する小児科主治医が、会議の目的と、目指すべき場所として話した言葉を、いまでもよく覚えています。


「○○君は現状、下肢に麻痺が残存し、車椅子で生活をしていますが、どんなことでも出来る子です。是非、今後、垣根なく、様々な体験を通して、彼の可能性を広げてあげて欲しいと思います」


 本来、わたしや妻がお願いするような言葉でした。驚いて会議出席者の皆さんの顔を見ると、全ての医療人の方々が、まるで頷くような表情をされていて、誰もが同じ事を思ってこの場にいるのだ、と分かりました。これ程の人々に支えられている事の尊さ、人は決してひとりではないのだ、という尊さ。これ程嬉しいと思った事は、わたしの生涯でもそうそうなかったでしょう。この会議の事を息子に話してやろう、と思いました。いや、伝えるべきだと思いました。お前の事は、お前が思っている以上に、沢山の人たちが見ていてくれる。その事実を知り、どう思うかは息子に預けるとしても、その事実だけは知っておくべきだと思いました。実際、わたしはこの日の事を息子に全て伝えています。そしてどう思うかは、息子に問いませんでした。息子がもう少し大きくなった頃に、訊いてみたいと思っています。


 会議の内容は、リハビリテーションの見地からという事で、より実生活に突っ込んだ内容になりました。何が出来て、何が出来ないのか。一口に、足が動かない、車椅子で生活をしている、と言っても、その個人個人の症状で、出来る事と出来ない事は大きく分かれます。例えば、息子で言えば、一見、車椅子上にいる限りは元気で、何の問題もなく見えましたが、両手を同時に離してバランスを保つ事は出来ません。体幹の筋肉に意識が伝わりにくくなっている為ですが、これによって考えられるのは、学校での授業中、例えば工作等を行う場合は、バランスを崩して車椅子ごと転倒するリスクがある為、両手を離して作業を行う場合には、車椅子と上半身をしっかり固定する、胸の高い位置でのベルト止めが必須である事が、受け入れ学校側に伝えられました。このような要領で、実際に学校生活で考えられる日常動作、授業への参加のしかた等、多岐にわたる内容が共有されました。当初予定された会議時間は大幅に過ぎ、それでも質問と確認は細部まで行われました。


 実りある内容でした、と受け入れ学校の担任の先生は、会議後に話されていました。帰りがけには息子の病棟に寄っていただき、息子としばらく話し込んでいました。相変わらず、不思議な魅力を持った息子は、堂々とした受け答えをしていたそうです。学校に来てくれるのが楽しみです、と先生は仰って帰りました。


 無論、確認された内容には、我々親がするべき事も含まれており、今後は学校との連携もしっかりと視野に入れて行っていく必要性を強く感じた会議でした。我々で出来る事は、我々でやる。そう決めて、この日から更に学校側とは復学までの期間、綿密な打ち合わせを、幾度にも渡り、行っていったのでした。

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