退院。そして、次なるステージへ

 以前にもありましたが、退院前にも再度、病状の説明と今後の生活について、主治医から話がありました。今度も息子は同席。子どもが同席するのは、やはり珍しいようでしたが、話は終始、息子本人に向けて行われました。


 この退院前の説明が行われる前日、わたしは主治医と二人で少し話をしました。内容は、息子に病名を伝えるかどうか。


 前回の説明では、病名を伏せていました。しかし、インターネットが発達した現代では、息子本人も調べる事が容易であり、いつかは分かる事でもありました。その中で、あの時、先生も親も、説明してくれなかった、という不信感を抱く事になるよりは、ここでちゃんと伝えた方が良いのではないか、という提案でした。以前にも書きましたが、がんは治療が済んで退院したらそれで終わりの病気ではありません。今後、長く、医療環境と付き合うことになる状況下で、一番恐れているのは、医療機関に対して不信感を募らせる事でした。息子が一個人として、自分の病気と向き合い、医療機関との良好な関係を築き、我々よりも長く生きて貰う、その一歩として、わたしは伝えて頂くことを選びました。息子には、


「親より先には死んではいけない。こういうのは順だからな」


と入院中ずっと話をしてきました。自分の身に起きていた出来事をきちんと知り、自分で注意し、わたしたち夫婦よりも長く生きるためにも知るべきことだと判断しました。


 残念ながらわたしはこの退院前の説明には同席出来ませんでした。後日、息子に内容を確認してみた所、以前の説明よりもさらに理解を深めていて、とても驚きました。


「病名が分かり、治療の復習も出来て、説明が聞けて本当に良かったわ~」


と息子。全く、底知れぬ所のある子どもです。


 5年後、10年後、息子がこの日の事をどう思うか、それは分かりませんが、いまは多分、いい判断だったのだろう、と思っています。


 そして翌日、息子はがん治療拠点病気を、無事退院しました。病棟看護師さん、保育士さんから素敵なメッセージカードをいただいたり、個人的にお手紙を書いてくれた看護師さんもいて、沢山の愛情の中で、息子の命は救われたのだな、と理解しました。


 こうして、約4か月に及ぶ入院、化学療法による治療は終了しました。再発なく、5年が経過して、初めて完治、とされる期間に、いまは入っています。これまでの所、再発の所見はなく、無事に過ごすことが出来ています。月に3つの受診と、半期に一度のMRI検査こそありますが、それ以外で大きく病院にお世話になることはなく、持ち前の性格を前面に押し出して、息子は邁進しております。


 しかし、身体の自由は、完璧には戻りませんでした。下肢機能全廃。身体障害者1級。この事実から目を背ける事は、当然出来ません。


 この為、息子はリハビリテーション専門病院へ、入院して行くのでした。

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