HCU
「high care unit」の略称だそうです。日本語では高度治療室。ICU(集中治療室)よりもやや重篤度の低い患者を受け入れる治療施設。手術直後の患者などを一時的に収容する病棟らしいです。ICUと一般病棟の中間くらいの意味合いでしょうか。
生検手術後、HCUに入った息子は、約3日をここで過ごしました。ステロイドの投与に加え、抗がん剤の投薬も始まった息子は、ベッドの上で殆どの動かず、様々な機械の線が身体に繋がっている姿は、余りにも痛々しい物でした。それでも、変化もありました。自宅に居た時より、我々素人が見ても、明らかに顔色が良くなったのです。毎日、ベッドサイドまで会いに行くと、嬉しそうな表情を作ってくれるようにもなりました。初期の副作用だったのか、記録はありませんが、発熱が多く、体温の確認は頻繁にしていたように記憶していますが、少し身体に余裕があると、算数が好きな息子は、わたしと簡単な暗算の問題を出しあって過ごしました。食欲は相変わらずありませんでしたが、それでも治療の効果という物を感じた記憶はあります。
この頃から、幾つかの重篤な症状が分かってきます。まず、下肢が動かない為、寝返りが打てない事。これは、我々は全く気が付かなかった事でした。寝返りが打てないという事は、同じ姿勢で寝続けているという事。つまり、身体の同じ場所に、同じ圧迫が、何時間も掛かり続ける事になるのです。そうなると、何が起こるか。圧迫され続ける部位の血流が滞り、爛れや傷になる、褥瘡という症状になってしまうのだそうです。寝たきりになったお年寄りも、同じリスクを抱えているそうですが、息子の場合はこれに加え、褥瘡が出来たとしても、自分では気が付かないリスクも抱えていました。痛みを感じないので、気が付くと傷が深くなっている、最悪の場合にはそこから感染症を引き起こし、死に至るという事も考えられました。これについては、HCUでは二時間に一度、身体の向きを変えて上げることで対応しました。もちろん、わたし達も家族が居る時はわたし達が行い、居なければ看護師の方々が体位交換して下さいました。
HCUという病棟は、他の病院施設は分かりませんが、とても特殊な形をしているな、と思いました。通常の病棟とは大きく異なり、ナースステーションから、全てのベッドが見渡せる位置に、ずらーっとベッドが並び、ひとつひとつのベッドとその周囲には、あらゆる状況に対応できるのであろう医療機器が備えられていました。看護師の方々は常駐で、全てのベッドの僅かな症状にも反応できるように備えながら、治療行為として決められた行程も行っているようでした。何とも効率のいい配置だ、と妙に感心したのを覚えています。
病理診断の確定を待ちながら、投薬を受け、息子が一般病棟に移ったのは三日後の2017年11月20日でした。一般病棟と言っても、もちろん個室での、隔離に近い状態でした。
そして、この日、診断が確定しました。
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