そして、2017年11月15日

 緊急入院の前日。この日は息子がほぼ寝たきりになって、既に2日が経過していたはずです。妻は会社を休み、付きっきりで看病していました。わたしも仕事に出てはいましたが、当然手に付かず、勤務中に自身のSNSに、息子の症状を伝え、どんな些細な情報でもいいので、と情報を募った事を覚えています。いまも文章作品を通じて交流のある方々から、様々な情報を頂きましたが、結局、有力な情報は得られませんでした。


 仕事から帰ると、息子は居間の座椅子に座って、ぼーっとテレビを見ていました。顔色は悪く、髪には艶がなく、目も虚ろで、いまにも意識を失って、二度と起き上がる事がなくなってしまうのではないか、と強い不安に駆られ、極力明るい声で話し掛けた事を覚えています。食事も殆ど取ることが出来ず、トイレにも行けないが、そもそも出ないらしい、と妻に聞かされた時は、まあ、食べてないんじゃあな、と言うくらいにしか考えませんでした。


 この頃になると、抱っこも痛がって拒絶するので、お風呂にも入れられませんでした。いま考えてみれば、この症状も、息子の病状の大きなヒントであったのですが、わたし達が気づくことはありませんでした。お風呂に入れないのならば、せめて熱いタオルで身体を拭こう、足湯だけでもしようと、妻と準備をしました。お風呂より高温のお湯を洗面器に用意し、片足ずつ、足を入れました。


 息子は、何も言いませんでした。何も言わなかったのです。熱くないのか、とわたしが聞くと、分からない、と答えました。


 熱いのでも、冷たいのでもなく、息子は、分からない、と言ったのです。


 さーっと、血の気が引く音を聞いた様な気がしました。おかしい。こんなはずはない。精神的な物やメンタル的な物が原因で、熱い冷たいが分からなくなるなど、聞いたことがない。これは何か、ただならぬ何かが起きている。そう感じました。


 実はこの日、他にも異常な症状があったと言うことを、後になって妻から聞きました。ベッドに寝たきりになっていた息子が妻を呼び、おれさ、強くなったかも知れない、と突然言ったそうです。立ち上がれない現状を心配させない為に言ったのだ、この子はそういう子だ、妻はそう思ったそうです。ですから、無理をしなくて良いんだよ、と優しく諭したと言います。すると息子は自分の足を殴り付けて、全然痛くないんだよ、と言ったそうです。


 この時、温感も、接触を感じる事も、既に出来なくなっていたのだと思います。これがわたし達夫婦が気づいた、異常な症状でした。ここに至って、いよいよおかしい、こんなはずはない、と言う危機感に駆られ、何が何でも大病院に受診するべきだ、と決意をしました。そして翌16日に繋がるのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る