檻の中の孤狼

しな

第1話一匹狼

 人間というのはやたらと群れたがる。それはもう鬱陶しいくらいに。昔の俺もそうだった。大勢で集まってわいわい騒いだりしていた。あの時までは。


 ――仲の良かった友達が死んだ。自殺だった。原因はいじめがあったらしく、真っ先に彼と仲の良かった俺達のグループが疑われた。一人づつ事情聴取を受けた。すると、グループの中の俺以外全員が彼のいじめに加担していた。自分の耳を疑った。彼といる時、みんなはいつも笑っていた。いじめなんてなかったかのように。その時、何かが折れたような気がした。

――それに拍車をかけるように父さんが死んだ。会社の部下が金を横領した事が判明し、それを全て父さんになすり付けたという。信頼していたものに裏切られる。自分の為なら他人など、どうなろうとどうでもいい。この社会にはそんな奴らばかりだと思うと、人と関わらない方が幸せなのではないか、と心のどこかで思い始めた。次第に俺は人と話さなくなった。


 ――休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴るのが聞こえ、イヤフォンを外す。今まで切り離されていた世界と一瞬にして接続されるようなこの感覚が憂鬱で嫌いだった。授業が終わると、またイヤフォンを装着し自分の意識を世界と切り離す。この時間だけは何よりも安心する時間だった。しかし、その日は違った。いつも通り音楽を聴いていた。すると、

「ねぇ、いつも独りで音楽聴いてるけどさ、何聴いてるの?」

 と、聞き覚えのない声が聞こえてきて、意識は完全に現実へと戻ってきた。声の方を見ると、一人の女生徒が立っていた。自分の心安らぐ時を邪魔され苛立ちを覚える。苛立ちのあまり、

「教えたらどっか行ってくれんの?」

 と、言ってしまった。一斉に教室内の視線が俺と彼女に集まる。この春高校に入学してから、完全無害なただの静かな陰キャという絶好のポジションが崩れかねないと思っていると、

「ごめんね。邪魔しちゃったね」

 と、申し訳なさそうに彼女は言うと、去っていった。周りからは、「あれはないよね」や「何アイツ」といった声が聞こえてくるが、そんな事は知らんと言わんばかりにイヤフォンを装着する。

 ――これが、彼女、戸成綾乃となり あやのと俺、市埜悠いちの ゆうとの初めての会話だった。

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