第162話 コレットの書~真実・2~

「はっ! つい茫然しちまったてた! ――待て待て、勝手に行くな!」


 グレイさんがジゴロ所長さんのアフロを掴んで持ち上げちゃった。

 グレイさんの力が強いのか、ジゴロ所長さんが軽いのか……両方かな。


「どうしてですな、遺跡に行くんじゃないのですな?」


 こんな事をされても、文句を言わずに質問って。

 普段から、こんなやり取りでもしているのかしら。


「行くさ。だが、その前に……」


「あっグレイさん。こちらの準備は出来ましたからいつでも行けますよ」


 ……? グレイさんに話しかけてきた男の人は誰だろう?

 三つ星のプレートを付けているから冒険者みたいだけど……初めて見る人ね。

 というか、さっき部屋で見た三つ星の人達とは真逆でほっそりしいてる。


「お、いいタイミングだな。じゃあ行くとしようか」


「ユーリスだ、よろしくな」


「あ、コレットです。よろしくお願いします」


「俺はマークっス! よろしくお願いまっス!」


「ジゴロですな」


 ユーリスさんも一緒に遺跡に行くのかしら? そうだとしたら少しは気が楽になるわ。

 もし、ドラゴニュートがいたら1人でも戦力がいた方がいいもの。


「先輩、ユーリスさんも一緒に遺跡に入るっスか?」


「いや、入らんぞ」


 入らないんだ……。

 貴重な戦力が。


「ユーリスは、たまたまリリクスに寄っていた冒険者でな」


 あ~だから冒険者なのに見た事が無かったのね。

 それにしても、たまたまでこんな事に巻き込まれるなんて不運な人なんだろう……。


「リリクスを中心にしている冒険者はこの辺りを把握しているから探索メインになる。だが、そうなるとリリクスの守りが薄くなってしまうだろ? で、ユーリスみたいにリリクスに慣れていない冒険者は防衛、いざとなれば援軍に来てもらう事になっているんだ」


「あれ? それじゃ何で一緒に遺跡に行くんですか?」


 リリクスの防衛なら、私達に付いてくるくる意味が……。


「遺跡の場所を把握したいから、そこまで同行したいんだとよ」


「それなら周辺の地図を見ればよくないっスか?」


「地図は精巧じゃないから、きちんと場所を知っておきたいんだ。それにここからの距離、着く時間も把握をしたい。もし援軍が必要になった場合、すぐ向かえるだろ?」


「はあーなるほどっス……」


 ちゃんと考えたうえでの行動か。

 グレイさんより、よっぽど四つ星っぽい。


「ん? 何だよコレット、俺の顔に何かついているのか?」


「……いいえ、別に……」


 本当、ギルドの基準がわからないわ……。



「遺跡に到着ですな!」


 道中は幼い子供みたいにウロチョロとしていたのに、なんでまだこんなに元気なんだろう……。

 本当、この一族の血筋って恐ろしい。


「一応ユーリスに状況の確認と打ち合わせをしてくる。入り口辺りの様子を見ていてくれ」


「はい、わかりました」


 入り口付近を見るのなら任せてくださいってね。


「……ふむ、異常なしっと」


 とは言っても、入り口前に異変があった事なんて……そうだ、あれがあった。

 壁の古代文字、あれってどうなったんだろう?

 ちょうどジゴロ所長さんもいるし、聞いてみようっと。


「そういえば、ジゴロ所長さん。この壁に書いてある古代文字は解読出来たんですか?」


「お恥ずかしながらまだですな……この古代文字は謎だらけですな」


 そうか~相当苦戦してみたいね。


「もしかしたら、これは文字ではなくただの線かもしれないですな」


「線……ですか?」


 なるほど、そう言われると線が並んでる様に見えて来た。


「確かに、文字というより線を並べているって感じもしますね。何せ、ドラゴニュートが書いたものですし……」


「おしゃべりはそこまでだ」


 うおっ! グレイさんいつの間に後ろに!?

 ユーリスさんがいないし、話はもう終わったみたいね。


「……どうやら、ドラゴニュートが近くにいるみたいだぞ」


「えっ!?」

「なんと!」

「マジっスか!」


 何で、そんな事がわかって……あっグレイさんの手にもっているのは、魔力の羅針盤だ。

 って! その針が左を差しているじゃない! じゃあこの先にドラゴニュートが?


「今からこの針の方向へ行くぞ……いいか、俺が先に行くからお前達は周辺を警戒しつつゆっくり付いてくるんだ。後、転送石の準備もしておくように」


「はい」

「うっス!」

「了解ですな」


 うわ~心臓がドキドキしている。

 今にも破裂しそうだわ。


「――わけがないのじゃ!」


「――ッ! ストップ、静かに……」


 っ!


「じゃから放せええええええ!!」


「……声が聞こえるっスね」


 女の子の声のようね。

 なんか怒鳴っているけど……喧嘩でもしているのかしら?


「このおおおお! ええい、ポチ! こいつを引っぺがすのじゃ!」

「あ、はい!」


 たまたま、先に入っていた冒険者だったらよかったんだけど……羅針盤の針はあの角に差しているし、叫んでいる声は昨日聞いたところだし、ポチという女性もいるみたいだし、これはほぼ間違いなく……。


「ドラゴニュートだろうな……」


 デスヨネー。


「どうするっスか? 撤収するっスか?」


「いや、ちゃんとドラゴニュートの姿を確認しておきたい。なら……」


 どうやって確認をするつもりなんだろ?

 もしかして、奇襲でも仕掛け――。


「すぅー……おい! そこの角に誰かいるのは分かっている! 出てこい!」


「ちょっ!?」


 まさかの呼び出し!?


「何で呼び出しているんですか!?」


「ん? その方が手っ取り早いだろ」


 そうだけど! そんな事をしたら、私達がいる事を教えている様なものじゃない!

 ああ、もう~グレイさんの考えている事って理解できないよ……どうして、時々四つ星と思えない行動をとったりして……って、そんな事じゃない! こうなっちゃうと、いつドラゴニュートがあの角から飛び出すかわからない。

 いつでも飛び出してきてもいい様に、転送石の準備をしないと!


「……っ!」


 さあ、来い!


「……?」


 あれ? おかしいな、何の反応がない。

 もしかして、逃げだし……。


「なっちょっ! おっとと……と……ふぅ~……危ないとこじゃった。おい! 急に蹴飛ばすな! 転んでしまうところ……じゃった……ろ? ……あっ」


「「「「あっ」」」」


 通路の角から飛び出て来たのは少女。

 その子は白髪の長い髪に紅い眼、ビキニ様な緑色の鱗があり、背中に翼、お尻から尻尾が生えていて、昨日リリクスでマリーと偽っていた小さな女の子……。


「………………」


 出たああああああああああああああ!!

 ドラゴニュートだああああああああ!!

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