第160話 ケビンの書~真実・7~

 これはまずい!

 かなりまずい!

 非常にまずい!


「まぁそりゃそうだよな、お前はコレットの事を知らな――」


『あああああああっ!』


 そんな風に思われている状態で告白しても、絶対にフラれるだけだじゃないか!


「――うおっ! いきなりになんだ? 頭を両手で押さえて、うずくまったりなんかして」


「どこか具合でも悪いっスかね?」


「……骨の体で具合もなと思うが……とにかく、どうしたんだ?」


「ああ……いつものが出たのじゃ」


「いつものだと? 俺はこんなケビン、初めて見るんだが」


「そりゃそうじゃ、スケルトンになってからじゃからな。普段は面倒くさいが、今は小娘がおるから大丈夫じゃ」


「……へっ? 私?」


「ちょっと耳を貸すのじゃ」


「……はあ……ふむふむ……え~と、それを言えば良いですか?」


「そうじゃ、笑顔を付けるとなおいいのじゃ」


「笑顔? ……あの、どうしましょう……」


「何を言われたかわからんが、悪いがやるだけやってみてくれ。この状態だと話が進まん……」


「……わかりました」


『ああ……』


 どうする? マジでどうするよ、俺! さすがにこれは予想していなかった!

 ああ、頭の中がぐちゃぐちゃになって何も考えられん!


「……あの、ケビンさん」


『……ほへっ!?』


 ココココッコレットが、俺の肩に手を当てている!


「え~と……げっ元気を出して下さい……ね?」


『……おお……おおお……』


 コレットにとって俺は恐怖の対象でしかない。

 それでも俺に触れ、ぎこちないが笑顔を作り、そして励ましの言葉をかけてくれるとは……君はなんて、なんて強くて心優しい娘なんだろうか。


 それに比べ俺は……何をやっているんだ。


『――っコレット!!』


 告白とかフラれるとかを考える前に、一番に言う事があるじゃないか。


「――はっはい! ……本当に元気になったっぽい?」


『すまなかった!』


 コレットに謝る事、まずはそれから。


「……へっ? あ、あの、突然どうしたんですか?」


『気が付かなかったとはいえ、今までコレットに怖い思いをさせてしまった! 本当にすまない! けど、信じてくれ! 本当に君に対して悪意なんてないんだ!』


 そして、俺を許してもらえないかもしれない、本気で嫌われているかもしれない。

 それでも……。


「えっ? あ、いや、そんな、あの、その、えと……」


 それでも、俺の気持ちを知ってほしい。

 今の俺は声で気持ちを伝えられるのだから!


『コレットがゾンビと戦っている所を見た時から、俺はきっ君の……事が……』


 ううっさっきと全然状況が違うから、言うのがすごい怖い!

 やはり意気込んでも、怖いものは怖い!


「……ん? ゾンビ……?」


『……事が……って、どうかしたか?』


 なんか、コレットの様子がおかしいぞ。


「……あの、そのゾンビと戦っている所って私が重装備をしていた時でしょうか?」


『――? ああ、そうだけど』


「っ! あの時のスケルトンって、ケビンさんだったんですか!?」


 そうなんだが。

 あれ? あの時の俺って、何かしちゃったかな……?


『えと……そうだが……』


 だとしたら、また引かれちゃうよ。

 そうだ、ここは冗談の1つでも交えて少しでも場を和ませよう。


『あ、あの時のフルスイングは見事だったぜ!』


「……」


 コレットの顔がドンドンと青ざめていっている。

 和ませ作戦は完全に失敗したらしい。


『コレ――』


「――いやあああああ! 予想が的中しちゃうなんてぇえええええ!」


 ええっ!? いきなりコレットが頭を両手で押さえて悶絶しだしたぞ!

 てか、予想ってなんの事だ?


「あああ、あの時は思いっきり殴っちゃって、すみませんでした!」


『……へ?』


 なんでコレットが謝るんだ?


「すみません! すみません!」


 コレットがすごい勢いで頭を上げ下げしている。


『えっ? えっ?』


 意味が分からん。

 どうして、コレットが謝る方になっているんだよ?


『とっとにかく、ストップ! それ以上、頭を振ると……』


「すみ――あうっ!」


 ああ、言わんこっちゃない。

 ふらついているじゃないか。


「……うう……まさか、冒険初日に約束を果たせていたなんて……私の馬鹿……」


『約束を果たす?』


 さっきからコレットの言っている意味がよく分からん。


『ちゃんと説明してくれるとありがたいんだが……』


「あっそうですよね! ……え~と、私が赤ちゃんの時教会の前に置き去りになっていたらしいんです」


 なんか急に重たい話が出て来たんですけど。

 俺が思っていた事と違う。


「その時、神父様とシスターが……いえ、ホセさんとマルシアさんが私を引き取って育ててくれたんです」


 ホセさんとマルシアさんって……。


『……えっ? それって親父達の事か!?』


「そうです」


 親父達がそんな事を。

 親父! お袋! コレットを育ててくれてありがとう!


「私はお世話になっているお二人に恩返しがしたくて、行方不明になっているケビンさんを見つけ出して連れて帰ると約束しました。それが冒険者になった理由で、ここにいる理由でもあります」


 重い話が出て来たからどうしようかと思ったが、ちゃんと話がつながった。

 しかし、そうなると……。


『……なるほど、確かにその時に約束は果たせてたかもな』


「……はい」


 俺探しを俺自身が邪魔していた事になる。

 知らなかった事とはいえ、何ともまぬけな話だ。


「いやー良い話っスね!」


『……』


 一つ星……なんで、出て来るかな。

 良い話でもお前が出てくると何か軽く聞こえてしまう。


「それにしても、コレットさんが探していた人がずっと目の前にいたとは! 灯台何とかっスねぇ……けど、お互いの誤解が解けて万々歳っスね!」


 そうなんだけれども!

 お前に言われると、なんか腹が立つ!


「――っ! おい、ナシャータさんよ」


「じゃから、わしは……なんじゃ?」


「いつ、あいつに魔力を送ったんだ?」


「はあ? あいつにやる魔力なんてない……のじゃ……――っ!」


「……はぁーどうやら、これは万々歳じゃないようだ――なっ!」


「――ちょっ!? なななんスか!」


『「えっ?」』


 いきなりどうしたんだ?

 グレイの奴が、剣を抜いて一つ星の首元に当てたぞ。


「ナシャータの話じゃ、てめぇに魔力は送っていないそうだ。つまり今ケビンの声が聞こえるのは俺、コレット、ナシャータのみだ」


 は? 何の話だ?


「へっ? それが……」


「おかしいんだよ。ケビンの声が聞こえない以上、俺とコレットの話だけで「お互いの誤解が解けて」なんて言えるわけがない」


 あー確かに、俺の声も聞こえてないとそんな事は言えないよな。

 あれ? じゃあ何で、こいつは……。


「……チッ、しゃべりすぎたっスね」


「てめぇは一体……」


 おいおい、何だこの展開は?

 あの一つ星は、何なんだよ!?

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