第155話 ケビンの書~真実・2~

 ああ、こんな事になるなら受付嬢さんに言われた通り字の練習をしとくべきだった。


「もしかしたら、これは文字ではなくただの線かもしれないですな」


「線……ですか?」


『はい!?』


「ブフッ!」


 線だって!? もはや字じゃないってか!

 古代文字よりひどいぞ、それ!


「確かに、文字というより線を並べているって感じもしますね」


『ちょっ!? ……そんな、コレットまでそれを言うなんて』


 これはさすがにへこむ。

 この手紙を渡すのが怖くなってきた。


「ククッ……あ~まぁ~なんじゃ……元気を出すのじゃ、な? ……プフッ!」


 慰めるならせめてまじめな顔をしてくれ。

 笑いを堪えているせいで、やけている顔になっているの腹が立つ。


「何せドラゴニュートが書いたものですし……」


『……え?』

「……へ?」


 ドラゴニュートが書いたものって……もしかして、ナシャータが書いた思われていたのか?

 それはそれでショックではあるが、内容が伝わってない以上あれ書いたのはナシャータという事にしてしまおう。

 じゃないと、俺は古代文字以下の字を書いたとグレイに馬鹿にされ続けてしまうからな。


「……はああああ!? あれをわしがじゃと? 失礼な! わしはもっと綺麗に書けるのじゃ! 断じて線なのではないのじゃ!」


『まぁーまぁー落ち着けって……』


「これが落ち着いて――」


「おしゃべりはそこまでだ……どうやら、ドラゴニュートが近くにいるみたいだぞ」


「っ!」


『なっ!?』


 明らかにグレイの奴が、俺たちのいる方向を見たぞ。

 一体何でわかって――ん? グレイの右手に持っているのは……。


『そうか、魔力の羅針盤!』


 今日に限って持って来ていたとは、あれを持っていられるとこっちの場所がばればれ。

 それで離れたとしたら、今度は【母】マザーの魔力に反応してしまう。

 グレイ達とはいえ【母】マザーを見られるのはさすがにまずいよな……となると、ここは出ていくしかないか。

 まぁどの道、この手紙を渡す為に出て行くつもりだったし問題は……。


「今からこの針の方向へ行くが……いいか、俺が先に行くからお前達は周辺を警戒しつつゆっくり付いてくるんだ。後、転送石の準備も」


「はい」


「うっス!」


「了解ですな」


 ……あったな。

 何だ? あのグレイの殺気は……今俺が目の前に姿を現したら躊躇なしでぶった斬られそうだ。

 体の強化をしていないから斬られたら意識が飛んでアウト、これはナシャータに出て行ってもらって橋渡し役をしてもらった方がよさそうだな。


『なぁナシャ―……』


「うげっ! ジリジリと臭男がこっちに来るのじゃ! ――っ!」


 あ、まずい! こいつ逃げる気だ!

 今日ばかりは逃がしていかん!


『待て!』


 飛ばれる前に翼にしがみついて、飛びにくくしてやる!


「んな!? こっこら! わしの羽にしがみ付くな! これじゃ上手く飛べないのじゃ!」


『お前が逃げたら、誰が橋渡し役をするんだよ!?』


「橋渡し役じゃと? そんなもんは、わしは知らんのじゃ! ポチにやらせればいいのじゃ!」


「えっ? ポチがですか!?」


 ポチって。


『よく考えろ、ポチがそんな事を出来ると思うか!?』


 俺には、失敗するビジョンしか見えん。


「なっ! しっけいな! ポチだってやるときは……」


「……あ~確かに、それもそうじゃ……」


「ちょっ、ごしゅじんさま!?」


 自分で言っといて何だが、ナシャータって相変わらずポチに対する扱いが雑というか酷いよな。

 やはりペットという思いしかないせいだろうか。


「じゃったら、さっさとその手紙を渡しに出ればいいのじゃ! もしくは投げるなり、地面に置いとくなりしてな!」


『今俺が手紙を持って出て行ったところでグレイの奴に斬られるのがオチだ! それに投げたり、地面に置いといても怪しまれて絶対に読まれない!』


 特に、今のグレイは過敏になっているから余計だ。


「それを言ったらわしが出て行っても斬られたり、怪しまれたりと変わらん気がするのじゃが……とにかく、あんな臭い奴がいるのに行けるわけがないのじゃ! じゃから放せええええええ!!」


『ぬおおおおお!』


 あああ、これ以上暴れられると俺の体が持たんぞ!

 どうする? ナシャータが怒りそうだから使いたくはなかったが、あれをやるしかないのか?


「このおおおお! ええい、ポチ! こいつを引っぺがすのじゃ!」


「あ、はい!」


 うげっ、ポチまで来たらもう無理だ!

 くそっ! こうなったら、もうなる様になれだ!


『――おりゃ!!』


「――もが!! なっなんじゃこれは!?」


 リリクスを出る前にその辺の庭から拝借した物、それは……。


『洗濯ばさみだ!』


 俺の考えた、一つ星の臭い問題を解決方法。

 その一つ、洗濯ばさみでナシャータの鼻を挟む。


「……おい、こんなものをわしの鼻によくも挟んでくれたな」


 さすがドラゴニュート。

 洗濯ばさみを鼻に挟んでも痛がるそぶりもないな。


『それなら、臭いなんてしないだろ?』


「……」


 真顔で鼻に洗濯ばさみを挟んだままで無言のナシャータ。


『……』


「……」


 うん……これは……。


「ん? あっ……あのごしゅじんさま、すぐそこ――」


「――キッ!」


「――にひっ! く~ん……」


 考えなくても、怒ってるいらっしゃるのは間違いない。

 ポチが声をかけただけで、すんごく睨みつけてるよ……。


「……」


 そして、目線を俺に戻して指をポキポキ鳴らしている。

 仕方ない……今日の所は大人しくバラバラにされて、次のチャンスを――。


「おい! そこの角に誰かいるのは分かっている! 出てこい!」


「『っ!?』」


 この声はグレイ? いつの間にか、近くまで来ていたのか。

 ナシャータとドタバタ劇をしていたからまったく気が付かなかった。


「うう……だから、いおうとしたのに……」


 あーポチが声をかけたのは、その為だったのか。


「やっやつがそこに! どどどっどうするのじゃ!!」


 さすがに突然すぎたのか、ナシャータが珍しく慌ててる。

 待てよ……パニくっている今がチャンスじゃないか。


『ナシャータ、これを持て』


 重要な手紙を持たせて。


「え? へ?」


 そして、蹴り飛ばす!


『行けっ! ナシャータ!』


「なっちょっ! おっとと……と……ふぅ~……危ないとこじゃった。おい! 急に蹴飛ばすな! 転んでしまうところ……じゃった……ろ? ……あっ」


「「「「あっ」」」」


 さぁコレット達の前に出たからには、もう逃げられないぞ。

 というかまじで逃げないでくれよ、本当に頼んだ! ナシャータ!

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