第142話 コレットの書~強奪・8~

 それにしても、ドラゴニュートはどこに飛んで行ったのかしら。

 やっぱり自分の住処に戻って……住処? ……あっまさか!


「あの、もしかしてドラゴニュートは白竜の遺跡に戻って来たんでしょうか!?」


 だとしたら、また遺跡内を探索するのが大変になっちゃう。

 せっかく探索がやりやすくなって……ないか、今はレアスケルトンの存在がすごい邪魔だし。


「ん~ドラゴニュートが飛んで行った方角は白竜の遺跡とは逆だった。最近になって遺跡を住処にしていたとしたら、逆方向に飛んでは行かないだろうから遺跡に戻ってきている可能性はない……」


 確かに空を飛べるなら道なんて関係ない分、一直線で帰宅できるものね。

 その辺りはうらやましく思うな。


「と、普通は思うんだが……」


 普通は思うんだがって……。

 え、何それ? 普通じゃないって事なの!?


「そっそれはどういう事なんですか!?」


「ドラゴニュートがマリーちゃんと偽っていた時に会話をしていたんだが、言葉、行動共にヒトと同じ様にしていたんだ……そう考えるとあのドラゴニュートは知力が相当高い。逆方向に飛んで行ったのも何かしらの考えがあったからで、今は遺跡に戻っている可能性も十分あり得るんだ」


「……なるほど」


 私はマリーと違い過ぎてすぐに偽者とわかったけど、もし普通の女の子として紹介されてたら気が付かなかったかもしれないものね。


「演技力もあるドラゴニュート……それはそれで怖いですね」


「そうだな。なにせ漢方薬を持ってコレットを探している女の子がいたからな、俺はマリーちゃんだと思ってすっかり騙されたよ」


「あ~そういう事だったんですか」


 その状況じゃ、マリーの顔を知らないと騙されちゃっても仕方ないわね。


「……ん?」


 今のグレイさんの話を聞くとおかしな点があるような……。


「……ああっ! なんでドラゴニュートは私の名前を知っていて探していたんでしょう!? それにあの漢方薬は神父様じゃなくて、ドラゴニュートが作った物なんじゃ!?」


 もしそうなら、得体の知れない物を思いっきり飲んじゃったじゃているし。

 ただその漢方薬のおかげで、命拾いをした事も事実なのよね……複雑な気分だわ。


「……確かにそうだ。しかも変装までしてコレットを探し、あの漢方薬を渡す意味はなんだ?」


 ドラゴニュートに名前を憶えられて、街で探されて、漢方薬を渡される。

 これは一体どういう状況よ。


「……私、ドラゴニュートに知らず識らず何かしちゃったんでしょうか……?」


 身に憶えない事だから余計に恐怖を感じるんだけど。


「うーん……さっぱりわからん。となるとやっぱりジゴロ爺さんに相談した方がいいか……多分ギルドに呼ばれているだろうし、気になる漢方薬もギルドで保管してあるしな。よし、コレット、今すぐギルドに向かうとしよう」


「え~と……」


「どうした?」


 確かに、その辺りはすごく気になるから行きたいけど……。


「私、皮の鎧の事も気になるんです。あれは通路に落ちていた物なんですよ? それをどうしてドラゴニュートが持って行ったのか……」


 まぁ取り返しに来るって事はドラゴニュートにとって大事にしていた物だから、そう考える事も出来るけど……もし、そうならちゃんと保管しといてほしいものだわ。

 あんな所に転がしておくんじゃないわよ……まったく。


「あーそれもおかしな話だよな。だが、そんな事はドラゴニュートにしかわからんと思うが……」


「確かにそうなんですけど、皮の鎧の方はカルロスさんが何か知っている感じでした。話を聞く前に奪われてたので、もしかしたら何かのヒントになるかもしれません。あと、カルロスさんが負傷をしたので様子も見に行きたいんです」


 まだ床に倒れていなければいいけど。


「カルロスが負傷しただって!? おいおい、マジかよ……」


 あれ? でも、あれって負傷になるのかしら。

 まぁいいか、倒れるほどの痛みみたいだし間違ってはいないでしょ。


「わかった、なら俺はギルドに行くから、コレットはカルロスの所へ行って話を聞いたのちギルドに来てくれ」


「はい、わかりました」


 ……ただ、行けるのはこの抜けた腰が戻り次第になりますけどね。



 さて、カルロスさんのお店まで来たけど……。

 とりあえず床にカルロスさんの姿は無し、良かった~倒れたままじゃなくて。


「カルロスさん、居ますか? 今戻りました」


「――コレットちゃん! 遅かったじゃないぃ、大丈夫ぅ怪我はしていなぁい?」


「あ、はい……」


 それは私が聞きたかったけど……とりあえずカルロスさんは元気そうね。


「そう! それは良かったわぁ」


「でも、ドラゴニュートに皮の鎧を持って行かれて取り返せませんでした……すみません」


「……えっ! ドラゴニュートぉ!? ちょっとまってぇ! 一体何があったのぉ!?」


「ええっと、ですね――」



 さっきのようにお店のカウンターで紅茶とクッキーが出てきて、ドラゴニュートの話とグレイさんの話を簡単に説明したけど……カルロスさんってばいちいちリアクションをするから何だか疲れちゃったよ。

 はぁ……紅茶が冷めちゃってるし。


「なるほどぉ、そんな事が起こっていたのねぇ……ドラゴニュートの事はわからないけどぉ、皮の鎧の事は話せるわぁ」


「お願いします!」


 さて、カルロスさんからどんな話が出るのか。

 少しは謎が解けるといいけど。


「あの皮の鎧は、私が現役だった頃に組んでいたパーティーの一人がつけていた物なのよぉ」


「えっ! そうだったんですか!」


 じゃあもしかして形見!?

 うわ~! 最低じゃない、そんな大事な物を取られるなんて!


「で、その子が遺跡探索で落とし穴に落ちてねぇ。いきなり鎧を脱いだのよぉ。そうしたら、急にその子が「俺はこの鎧に身体を乗っ取られていたんだ!」って言いだしてねぇ」


 鎧に身体を乗っ取られる?

 どういう事?


「最初は頭でも打ったのかと思ったんだけどぉ、助け出して事情を聞いたらあの皮の鎧は人間に寄生するモンスターだったのがわかったのよぉ」


「人間を乗っ取るモンスター!?」


 形見でもなんでもなかったし!

 しかも、何その物騒な話!


「だからぁあの鎧が他人に渡るとまずいと思ったのよぉ」


 それで取り返せって言ってたのね。

 まぁ結局はドラゴニュートには渡っちゃったいましたけど。


「あ、ドラゴニュートが来たのは仲間の寄生モンスターを助ける為ですかね?」


「それは私にもわからないわねぇ……やっぱりそういうのはジゴロお爺ちゃんに話すのがいいかもねぇ」


 結局はジゴロ所長さんって結論になっちゃわね。

 確かにすごい人なんだけど……何だか複雑な気分。


「わかりました、今からギルドに行ってきます。今日はありがとうございました!」


「はいはーい、気を付けてねぇ」


 さて、結構時間が経っちゃったからギルドには走って行かないと。

 はぁ……今日は何かと疲れる日ね。

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