第140話 コレットの書~強奪・6~

「はぁ~……はぁ~……」


 全力疾走で泥棒の後を追いかけたけど、結局バザーの場所に着くまで追い付けなかった。

 この人込みに紛れ込まれてしまって、もう見つけるのは無理……。


「……と、そう思った……けれど……はぁ~……はぁ~……」


 全くそんな事はなかった。

 バザーの人込みに紛れ込んでいても、あの独特の鎧の姿はかなり目立つし、何より皮の鎧を脇に抱えているからすぐに発見できちゃった。

 それにしても、あの泥棒はあんな重そうな鎧を着て走ったのに全然疲れた様子がないのはどうしてなのかしら? 私はこんなに疲れているのに……あの鎧にどんな人が入っているのかすごく気になってきた。


「……はぁ~……はぁ~……おっと、いけない……」


 このまま膝に手を当てて突っ立ってちゃ駄目だわ、私が後を追いかけて来たのがバレたらまた逃げられちゃう。

 まぁあのおじさん作のアーメットだとすればかなり視野が悪いから、よほどのことがない限り見つかる事はない気がするけど……念には念を入れないと。

 もしそうなっちゃったら、今の体力的に追いかけるのはかなり厳しいものね。

 さっさと出店の陰に隠れて、息を整えてっと。


「すぅ~はぁ~……ふぅ~……よし、だいぶ落ちついてきた。さて、泥棒の様子はどうかしら……」


 見つからない様にそっと覗いて……。


《――! ――!》


「……」


 あの泥棒、周りを見渡して警戒するでもなく他のお客さんみたいにバザーのお店を見て回って楽しそうにしている……。

 いやいや! 私が言うのもなんだけど、普通そこは追われてるかもって辺りを見渡しながら警戒するものでしょ!? 何で楽しんでいるわけなのよ!


「あの楽しそうな姿を見ていたら、小馬鹿にされてる気分になって来たわ」


 絶対に捕まえてやりたいけど……どうやって捕まえるのかが問題なのよね。

 戻ってマークさんと合流する? いや、それだとって戻っている間にあの泥棒がどこかに行っちゃうかもしれないし……ん? どこかに行く……そうよ、あれだけ油断しているならそのうち泥棒は自分の家に帰るはず。

 このまま尾行をして泥棒の家の場所を突き止めて、その後にグレイさん達と一緒に泥棒の家へ行き皮の鎧を取り戻す!

 うん、これで行こう! いや~我ながらいい作戦を思いついたものね。


「ふふふ……楽しめるのも、今のうちだからね!」



 ◇◆アース歴200年 6月23日・昼◇◆


「……」


 太陽の位置から考えると、もうお昼か……。

 あれから結構たつのに、泥棒はず~っとバザーのお店に熱心で全然家に戻ろうとしない。

 そんなにバザーに並んでいる商品が珍しいのかしら?


 ――グゥ~


 ああ、お腹すいたな……。

 そこで何か食物を買うくらいはいいか――。


「コレットさん?」


「――なっ!?」


 背後から声が!

 もしかして泥棒の仲間!?


「……ってキャシーさんじゃないですか。もう驚かさないで下さいよ……」


 心臓が飛び出るかと思ったわ。


「いや、驚かせたつもりはないのですが……それより、こんな所で何をしているんですか?」


 ん~別にキャシーさんになら事情を話しても問題はないか。

 もしかしたら、いい作戦を思いつくかもしれないし。


「え~と、実はですね……」



「……という訳なんです」


「なるほど、それは許せませんね……わかりました、私にいい考えがあるのでお任せください」


「おお~」


 自信満々に胸を叩いて、店の陰から表に出て行った。

 キャシーさんは泥棒に顔を見られていないから、出て行っても特に問題はないけど。

 一体どうする気なのかしら?


「すぅ~……皆さんすみませ~~ん! そこの皮の鎧を持った、アーメットで顔を隠している鎧の人を捕まえてください!! その人は泥棒なんです!!」


「ちょっ!」


 大声でそんな事を言っちゃったら!


《――!?》


 ほら! 泥棒が反応して逃げようと――。


「何だって!?」

「あいつ、泥棒だとよ!」

「みんな! 捕まえろ!!」

「こいつめ! おとなくしやがれ!」


《――! ――! ――!》


 すごい、周りにいた人達が一斉に泥棒を取り囲んで押さえつけちゃった。


「これで解決ですね」


 ……まさかの一声で一瞬で解決。

 私の見張っていた時間は何だったのかしら。


「おら! それを寄こせ! ――ほらよ、キャシーさん。もう取られるんじゃねぇぞ」


「ありがとうございます」


 いや、それ私のだから! って、ぼったくりのおじさんだし!

 なんでこの人がおいしい所を持って行っているのよ! 納得いかない!


「はい、コレットさん」


「あ、ありがとうございます」


 まぁ皮の鎧が戻って来たからいいか。


「ところでキャシーさん、どうしてここにいるんですか?」


「今日は非番なんです。それでバザーでお買い物をしていたらコソコソしているコレットさんを見つけまして、声をかけたんです」


 なるほど、それで今日の朝はギルドでキャシーさんを見ていなかったのか。


「おいおい、何だこの騒ぎは?」


「あ、グレイさん」


 もう来るならもっと早く来てほしかったな。

 あれ? グレイさんの隣には深々とフードをかぶった女の子がいる。


「あの、その娘は?」


 グレイさんに子供はいないはずだし……。

 もしかして隠し子だったり?

 だとしたら、見てはいけないものを見ちゃった。


「はあ? お前は何を言っているんだ、マリーちゃんじゃないか」


「……へっ? マリー?」


「さっき、街中で再会してな。コレットの宿に連れて行こうしていたんだが、バザーの騒ぎが聞こえたから来たんだ。いやーコレットがいるとはラッキーだったぜ」


 フードのせいで顔がよく見えないけど、この娘がマリーって事はまずあり得ない。

 だってマリーよりかなり背が低いし、マリーの髪は金色。

 でも、フードから出ているこの娘の髪は――。


「……白い……髪……?」


「……」


 小さな女の子で白い髪……。

 そして、フードから見えるあの紅い眼……。


「ん? どうかしたのか?」


「……」


 あの時遺跡で見た、あの眼だ……。

 まさか、そんな……。


「コレットさん? 顔色が悪いですけど、どうかしましたか?」


「……」


 嘘だ……何で、何でここにいるのよ……!?


「……ドラゴ……ニュート!」

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