第138話 コレットの書~強奪・4~

 たった2日でカルロスさんのお店に何があったのだろう。

 入り口前に並んでいた、変な形のお面や変なポーズの銅像が明らかに増えているし。


「えーと……ここっスか……?」


「そうですよ」


「まじっスか……」


 まぁ信じられないのもよくわかる、私も最初に来たときは疑ったしね。

 でも、正真正銘ここは買取屋……しかも元四つ星冒険者という肩書を持った人の。


「それじゃあ中に入りましょう。――こんにちは~」


 それにしても、これらの物は誰が売って誰が買うかしら?

 その辺り聞いてみたいけど……やっぱり秘密なのかな。


「コレットさん、躊躇なしで入ったっス。――お邪魔しますっス……」


「――はーい! あらぁん、コレットちゃんじゃなーい。いらっしゃーい!」


 カルロスさんがピンクのエプロンを着けて奥から出て来た。

 なんでそんな格好をして……ん? この甘い匂いは……お菓子?


「こんにちは、カルロスさん。この匂いはお菓子ですか?」


「そうなのぉー、後で病院に持って行こうと思ってねぇ」


 病院? ……ああ! そうか、カルロフさん!! 悪臭騒動ですっかり忘れてたわ!!

 私も、後でお見舞いに行かないといけないわね……。

 それにしても、お見舞いで兄の手作りのお菓子を持って行くのもどうなのよ。


「あれ? コレットさん、この方って昨日の討伐隊の指揮をとってい方なんじゃないっスか?」


 そうだ、マークさんに双子って事を言ってなかったっけ。


「えと、この方はカルロスさんと言って、カルロフさんの……」


「ん? ――スンスン……むっ! おい、そこのお前!」


「「え?」」


 え? え? 何々?

 急にカルロスさんが怖い顔をして、マークさんを睨みつけているけど。


「よっ!」


「へっ!? ちょっと、いきなり何をするんっスか!」


 カルロスさんが、マークさんを軽々と持ち上げちゃった。

 やっぱり見た目通り筋肉が……って、違う違う!


「カルロスさん、急にどうしちゃったんですか!?」


「ちょっと! 降ろして下さいっス!」


 すごい、マークさんがジタバタと動いているのにカルロスさんってば微動だにしないわ。


「ふんぬっ!!」


「――うぎゃっ!」


 ああ! カルロスさんがマークさんを、お店の外へ放り投げちゃった!

 これはもしかして、追い出し?


「あだだ……どうして外に投げ飛ばすっスか!?」


「当たり前だ! そんなに強い香水をつけているんだからな。うちの商品に香水の臭いがうつったらどうする! お前はは俺のお店に入って来るな! 出禁だ! 出禁!」


「はあ!? どういう理由っスか、それ!」


 やっぱり追い出しだった。

 てか、マークさんが香水をつけているってだけで出禁を食らうとは……。

 ――クンクン……私、ちゃんと臭い落ちてるわよね?


「そのまんまだ! ……さぁコレットちゃん、奥へどうぞぉ」


「……あ、はい」


 奥にあるカウンターにうながされたって事は、私は大丈夫と思っていいのよね。

 後で、マークさんを連れて来たって事で怒られたりしないかな。


「待ってほしいっス、コレットさん! 俺はどうすればいいっスか?」


 どうすればって。

 マークさんは救いを求めている目、カルロスさんの絶対に入れるなという目。

 どっちの目を取るかと言えば……。


「……マークさん、外で待っていてもらえますか?」


 ごめんなさい、カルロスさんの目を取ります。

 恨むなら、その香水をつけている自分を恨んで下さい。


「えっ! それはないっスよ、コレッ――」


 ――パタン


〈ちょっとコレットさん! 扉を閉める時は少しくらい躊躇してほしかったっス! なんか悲しいっス!〉


 そういわれましても……。

 仮にマークさんの味方をして、私まで追い出されたらたまったものじゃないですから。



「はい、クッキーをどうぞぉ」


「あ、どうも」


 カルロスさんが作ったのはクッキーだったのか。

 見た所は普通……いや、普通じゃない!

 お見舞いにハート型クッキーって!


「さっ食べてちょぉだい」


 と言われましても……正直、食べるのが怖いのよね。

 でも、この状況で食べないのも何だか失礼だし。

 仕方ない1個だけでも食べよう。


「そっそれじゃいただきます。――パクッ……モグモグ」


 !? 市販の物よりもおいしい!!

 なんで? カルロスさんのあんなゴツイ腕から、どうしてこんな味が出せるの!?


「カルロスさん! このクッキーおいしいです!」


 これは教会のみんなにも食べさせてあげたいな~。

 どうにか送る方法はないかな。


「あらぁよかったわぁ。でぇ? 今日は何を持って来てくれたのかしらぁ?」


 おっと、本題をすっかり忘れる所だった。

 皮の鎧を鑑定してもらわないと。


「え~と、これなんですけど」


「えっそれぇ? ぱっと見は普通の皮の鎧に見えるんだけどぉ」


 うっやっぱりそうなのかな。

 ん~どうしてこれが気になったんだろう?


「そうですか……何か気になったんですよね、これ」


「ふぅん……気になる、ねぇ……。ならちゃんと鑑定してみるから見せてねぇ」


「あ、ありがとうございます」


 気になるだけなのにわざわざ見てくれるカルロスさん、なんて優しいのかしら。

 ただ、そこまでしてもらってただの皮の鎧……。


「ふーむ……ん? ……これって……」


 お、カルロスさんの顔つきが変わった。

 もしかして価値がある物なん――。


 ――バアアアアアアン!


「きゃっ! なに!?」

「あらん?」


 いきなりお店の扉が開いて、誰かが中に突っ込んで来た!

 入って来た人は全身を鉄のアーマーを着こんで、アーメットを被ったすごく怪しい人なんだけど、あの姿はどっかで見たような気がするのよね……ああっ! そうだ、私がおじさんに騙されて買ったゴミ装備じゃないの!

 ……私ってばあんな格好で、意気揚々と遺跡や街中をウロウロしていたの?

 いやああああああ! 恥ずかしすぎるにもほどがある!

 ああ、穴があったら入りたい!

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