第131話 ケビンの書~消滅・5~

 今の飛び蹴りで男が盛大に倒れたが、どうだ?


「――っが、なっ何が……起こった?」


 うーん、俺の渾身の飛び蹴りは鼻血が出る程度の威力だったらしい。

 そういえば、前にゾンビを蹴りを食わせたがほとんどダメージが無かったっけ。

 こういう時は肉体が欲しいなー……まあいい、だったら追撃するのみだ。

 倒れている今が絶好のチャンスだしな。


『とりゃ!』


「ゴフッ!?」


 馬乗りになってこいつの上に乗れば、やりたい放題ってわけだ。

 さあて……覚悟しろよ。


「は? スケルト――」


 俺の目の前で、コレットにいたずらをしようとした報いを受けよ!!


『食らえ! オラオラオラオラオラ!』


 筋肉がない分、一撃の重さが出ないのならラッシュで攻める!

 これなら骨の拳でもダメージが入るはず、雨垂れ石をも穿つって奴だ。


『オラオラオラオラ!』


「――ンッ!? なっなん! グハッ! ちょっ! グヘッ!」


 よしよし、効いている効いている。

 にしても、これだけ殴っていると俺の手やら腕がバラバラになってしまっても不思議じゃないんだが……全然そんな気配がない。

 今までと違う事をしたとなれば【母】マザーの葉を体に塗った事だが、それのおかげなのかな?

 だとすれば、これはかなりいい発見をしたぞ。


「カルロフさん、今助け――」


 ――っ!

 コレットが止めようと、こっちに来た。


『来るなっ!』


「ひっ!」


 おっと、怒鳴ったからコレットが怯えてしまった、すまない。

 こんな男でも助けようとするなんて、本当に君は優しい娘だな……ますます惚れたぜ。

 ――仕方ない。


『オラッ!!』


「グフッ!」


「きゃっ!」


 これ以上コレットに悲しい想いをさせたくないから、この右ストレートの一発で終わりにしてやる。

 コレットの慈悲に感謝するんだな。


「……う……コレ……ど……の……ガクッ」


 ん、気絶したか。

 どの道これ以上手が出せなかったな、気絶した相手をいたぶったらコレットに軽蔑されかねないし。


『ふん、命拾いをしたな』


 だが、これでもう安心だな。

 コレットも笑顔を取り戻して――。


「……」


 ――ない! 顔が引きつったままで固まっているし!

 あーさすがに怒鳴り声を出したのはまずかったかな?

 これはどうしたものか……そうだ、笑顔だ! 笑顔でこの場を和やかにするんだ。


『……ニコ』


「っ!」


 何かますますコレットの顔がこわばちゃったし! なんでだよ!?

 ……あっそうか、こんな骸骨の顔で笑顔なんて作れるわけがないじゃないか! アホか俺は。

 だとしたら、他にこの場を和やかにする方法はないか考えるんだ。

 えーと、えーと、何かないか何か……ん? コレットが辺りをきょろきょろと見渡しているがどうしたんだろう。


 ――ズズ


「ん?」


『?』


 かと思えば、俺を凝視しだした。

 いやーそんなに見つめられると照れちゃうな。


 ――ズズズズ


《見つけたぞ! スケルトン!》


『っ!?』


 背後から聞き覚えのある声がしたが……まさか……。


『げっ! やっぱり!』


 ジャイアントスネークと寄生の鎧!!

 何だよ、凝視していたのは俺じゃなくて後ろから近寄って来るこいつを見てたか……ちょっとガッカリ。いやいや、ガッカリしている場合じゃない。

 くそっ今の騒ぎでこいつにここだと気付かれてしまったのか、コレットもいるのに何たる失態だ。

 こうなったら俺が囮になって――。


「すぅ~はぁ~……こっちよ!! こっちに来なさい!」


『へっ、コレット?』


 コレットが大声を出して走り出した……まさか、コレットが囮になるつもりか!?

 待て待て、そんな危険な役目は俺がするから!


《なんだ? あっ、あの時の人間の女もいるじゃねぇか! なら骨なんかより女の方が優先だ!》


 まずいぞ、案の定コレットを追いかけ始めた。

 俺も早くコレットを追いかけて、俺が囮になる事を伝えなければ!


《くそ! 通路が狭くて追いかけにくい!》


 でかい図体が仇となっているな。

 これなら、こいつより前に出られるな。


『お先!』


《あっ! 待て!》


 だから、誰が待つかっての。

 さあ、早くコレットに追いついて……。


「はっ! はっ!」


 ……と思ったけど、全然追いつけないぞ! これじゃ二人して逃げている状態だから意味がない。

 どうしたものか……待てよ、この道の先は確かT字路だったよな。

 なら俺に注意を向くように仕向けて、この先にあるT字路でコレットとは逆方向に俺が走りこむ!

 それならジャイアントスネークとコレットを引きはがせるぞ、さっそくこいつを挑発してっと。


『おーい、ノロマ蛇! そんなんじゃ一生捕まえられるもんか!』


《なっ!? 馬鹿にしやがって! やはりスケルトン、お前から食ってやる!》


 よしよし、しっかり挑発に乗ってくれたな。

 後は……。


「はっ! はっ! はっ! 見えた! T字路!」


 この先のT字路をコレットはどっちに行くかを見極める!

 さあどっちだ!?


「っ!」


 右だ! なら俺は左へっ!


『――へっ!?』


「っとっと! あぶなっ!」


 って! フェイント!?

 コレットも左に曲がっちゃったし!


『コレット! なんで、そこでフェイントをするんだよ!』


 これじゃ、意味がないじゃないぞ。


《待てコラアアアアアア!》


 だよな、あいつも追って来るわな。

 くそっ完全に計画が崩れ――。


 ――ガシャアアアアアン!


『っ!?』


 ちょっ! 床が崩れた落ちた!?

 どれだけボロボロになっているんだ、この遺跡は!


「きゃああああああああ!」


 ああ! まずい、コレットが前のめりで落ちている!

 あれじゃあ頭から落ちて危険だ!


『うおおおおおおおお! 間に合ええええええ!』


 ――ぎゅう


 よし、コレットをキャッチ出来た。

 後はこのまま着地だ、頼むからバラバラになるなよ俺の体!


 ――ドン!


「っ!」


『――っ! ……ふぅ』


 良かった、なんとかバラバラにならず着地に成功したぞ。

 いや、俺なんかよりコレットに怪我……は……って、この体勢はお姫様抱っこじゃないか!

 とっさとはいえ、コレットをお姫様抱っこ出来る日が来るなんて。


『……ああ、至福の時だ……』


「――がっ!?」


 おっと、コレットと目が合った。

 この体勢、この状況、ここは男としてかっこいい台詞を決めないとな。


『んんっ! ……怪我は無いかい、俺のお姫様?』


 決まった!!

 俺の人生で一番かっこよく決まった瞬間だ!!

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