第117話 ケビンの書~輝く者・4~

 ◇◆アース歴200年 6月21日・昼◇◆


 合図も決まったし、後は天井に魔晶石を取り付けるだけだが……それはコレットの行動次第だな。

 付けたところに来なかったら意味が無いし、文字とかで誘導しようにも四つ星親父が一緒だろうから警戒するだろう。

 なら動きを見極めて、先回りをしてから取り付けた方が確実だ。


『あー早く来ないかなー』


「そんな都合よく……3人が家に入って来たのじゃ……」


 俺の想いが届いた!


『コレット達が来たんだ! ほら、行くぞ!』


「まだ小娘達かどうかわらかんぞ、と言いたいとこじゃが……今までの流れ的に小娘達じゃろうな」



『いたいた、コレット達だ』


 くそっ四つ星の親父が前を歩いているせいで、コレットがちゃんと見えんぞ。


「……不思議じゃ。なぜ小娘達は毎日のように家に来るのじゃろうか」


 別に不思議に思う事はないだろう、理由は簡単だ。


『それはな、俺が毎日会いたいと願っているからだ!』


 願えば叶うものなんだよ。


「そんな訳の分からない願いを、誰が叶えているのじゃ」


『そりゃ神様に決まっ……ん? ちょっと待て、いつもとメンバーが違うぞ』


 もう一人はえらく小さい、子供か? いや、あのアフロヘアーにまん丸メガネはどこかで見たことがあるような気がするんだが――。


『……ああ! あれはジゴロ爺さんじゃねぇか! 何でコレットと一緒にいるんだ!?』


 それに爺さんが手に持っている、魔晶石みたいなのがくっ付いている箱は一体。

 もしかして、何かの実験をする為に護衛として来たのか?


「ジゴロ爺さん? ――って! あの時の人間!? あやつまだ生きておったのか!?」


『えっ』


 ナシャータと会ったジゴロ爺さんの先祖はある程度、爺さんと似ているんだろうとは思ってはいたが。

 この反応からして、どうやらジゴロ爺さんと先祖は瓜二つっぽい……姿が全く一緒ってどんな一族だよ。


「はっ! もしや、あやつはモンスターじゃったのか!? 変な奴じゃとは思っておったがそれじゃと納得じゃ!」


 さすがにそれなないと思うが。


『落ち着け。あそこにいるのはジゴロ爺さんといって、ナシャータと出会った人間の子孫だ』


 多分な、正直俺も自信が無くなって来ている。


「……はあ? 子孫じゃと? いやしかし、いくら子孫とはいえ姿形がまったく同じになるか? そんなことがあり得るのか?」


 ナシャータがますます混乱している。

 まぁそれも仕方がない気もする。


「この辺りがゾンビに襲われた場所です」


 あ、そうか。

 ここはコレットと初めて出会った運命の場所か。

 コレットが覚えてくれているとはすごく嬉しいぞ。


「ゾンビを襲うスケルトンの話は聞いているですな! なるほど、ここで起こったと……実に興味深いですな」


 ゾンビを襲うだって? 何を言っているんだ、俺はコレットを助けるためにゾンビと戦ったんだぞ。

 ジゴロ爺さんは相変わらず人の話を聞かずに、自分の思うように解釈しているな。


『まあいい、ジゴロ爺さんがいるのなら話が早い』


 ジゴロ爺さんの事だ、俺の事情を話せば飛びついて協力してくれることは間違いないだろう。

 そうすれば、四つ星の親父に邪魔されずに済むはずだ。


「おお! 壁の向こうに部屋があるですな! 行ってみるですな!」


 って、ジゴロ爺さんがあちこち調べながら進み始めてしまった。


「馬鹿! それはまだ調査していない場所だから突っ込むな! コレット何している、追いかけるぞ!」


「え? あ、はい!」


 しまったな……あの状態になってしまうと、爺さんは誰の話も聞かないぞ。

 仕方ない、説明は後にするとして先に魔晶石を設置しに行こう。

 幸い爺さんが行く方向はほぼ一本道だしな。


『よし、この先の天井に魔晶石を取り付けてコレット達が来るのを待つぞ』


「あの感じ……やっぱりあやつじゃぞ? 本当の本当に子孫なのか!? なあ!?」


 ナシャータが人間相手にビビるって、ある意味すごい物を俺は見ている気がする……。



 この辺りの天井に取り付けようと思ったが、俺の身長じゃ届かない。

 梯子何てあるわけがないし……。


『ナシャータ、すまんがこの魔晶石をネバリ草で天井に取り付けてほしい』


「宙を舞えないとは本当に不便じゃの。ほれ、貸すのじゃ」


 俺だって、羽根が欲しいよ。

 あればどれだけ楽になるか。


「――ちょいちょいっと……これでどうじゃ?」


『ああ、それでいい』


 後はコレット達が来るのを待つだけだな。

 おっと、その前にナシャータに念押しをしておこう。


『いいか、ナシャータ。俺の合図をしっかり見ていろよ』


 昨日みたいな失敗はもうこりごりだからな。


「はいはい、わかっておるのじゃ」


『絶対に見逃すなよ!?』


「しつっこい骨じゃな! なら、今でも十分見えているがわし自身に暗視魔法を使うのじゃ。それなら文句はないじゃろ?」


 暗視魔法か、そこまですれば大丈夫かな。


『……ならオーケーだ』


「まったく、やはり手伝うんじゃなかったのじゃ」


 今さらボヤいても遅いっての。


「ぜぇーぜぇー。まったく、勝手に走り回るんじゃねぇよ」


「はぁ~はぁ~」


 お、コレット達が来たみたいだな。


「いやはや、申し訳ないですな。ついつい」


 爺さん以外が息を上げている、よし出るなら今がチャンス!


『コレット! ジゴロの爺さん! 待ってたぜ!』


「っ! スケルトンだ!」


「うおー! とうとう出たですな!」


「……」


 あれ? コレットとジゴロ爺さんの反応がおかしい。

 ジゴロ爺さんは俺を見てめちゃ興奮しているし、コレットにいたっては死んだ魚のような目をして俺を見ているんだが……。


「……ん? おい、あのスケルトンの体って金色じゃないか?」


「まさにゴールデン・スケルトン! これは初めての事例ですな! 興奮するですな!」


 ゴールデン・スケルトン? あっそうか! 金色に塗った事によってジゴロ爺さんの変なスイッチが入っちまったんだ! そのせいで、俺の言葉を聞いてない状態になっているんだ。

 そう考えると、コレットが俺を見た瞬間にあの目になったから……この金色のせい?

 もしかして、「うわっこの人、自分の体を金色にしちゃってるわ。悪趣味な人、引くわ……」って内心思っているんじゃ……。


『やらかしてしまった……』


 これは完全にやらかしてしまった!

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