9章 二人の秘薬と薬

第88話 ケビンの書~秘薬・1~

 ◇◆アース歴200年 6月18日・夜◇◆


『ふぅ……やっとまともに体を動かせるようになったな』


 【母】マザーの魔力のおかげで、おかしかった体は元に戻った。


「あのすがたはおもしろかったのに、なおっちゃったか」


『治らんと困るわ! まったく……』


 だが、俺の体はこうやって魔力で治るがコレットはそうはいかない。


『はあ……コレット……』


 大丈夫なんだろうか?

 ちゃんと病院には行っただろうか?

 うーん、すごく心配だ。


「何じゃ、まだ小娘の事を気にしておるのか。病気ぐらい人間じゃと誰でもするじゃろ」


 ナシャータの言いたい事もわかるんだが。


『それはそうなんだが、心配なものは心配なんだよ』


 もしかしたら重い病かもしれないし……。

 ああ! 気になって仕方ない!!


『なあ、結界を破壊しないで外に出る方法はないのか? もしくは裏口とか』


 きっとコレットは1人で心細い思いをしているに違いない。

 だから、今すぐにでもコレットの傍に駆けつけてあげたい。


「そんな方法なぞないし、裏口もないのじゃ」


 どっちも即答かよ。

 結界はともかく遺跡内はこんなにも広いし、建てたのがジゴロの爺さんの先祖なんだ裏口の1つや2つはあると思うんだが……。


『結界に関したらまぁわかるが……でも裏口に関したら遺跡の中はこんなに広いし、隠し部屋もかなり多い、お前隠しているんじゃないか?』


 こっちは真剣なんだ、そんな意地悪はしないでほしい。

 まぁその裏口にまで結界が広がっていたら、結局出られないが……行ってみないとわからんからな。


「いや、わしは隠してなんかいないのじゃ。ないものはないのじゃから」


 うーん……あの感じは嘘を言っている感じじゃないが……。


『…………』


「ん? ポチをみてもむだだ、ポチもしらない」


 こっちも嘘をついている様な感じはしない。

 どうやら、ナシャータもポチも言っている事は本当みたいだ。


「そもそも、出入りは表の1つだけで十分じゃとわしが言ったんじゃし」


 はっ……?


『マジか』


「マジなのじゃ」


 だから、ないと即答していたのか! まったく余計な事を!

 先祖達はナシャータの言う事は絶対に聞くだろうから、これは諦めるしかないな。


『……そうか、裏口はないのか……』


 となるとやっぱり結界を破壊するしかないか?

 いやいや、いくらコレットの為とはいえそれをしてしまっては……。


『うーん……八方塞か』


「ケビン。何故、そんなにあの小娘のところに行きたがるのじゃ? お前は行ってどうするつもりなのじゃ」


『あん? どうするって、そりゃお見舞いだよ。コレットの容態も気になるし、出来ればそばに寄り添って看病をしてあげたり……俺も病気や怪我で寝込んだ時は傍に誰かいてくれるだけで安心したからな』


 その時に顔を出したのはグレイのみで、しかも「男の看病なんて勘弁してくれ!」と即帰ってしまったが……それでも見舞いに来てくれたのは嬉しかった。


「スケルトンが人間を看病するとか異様な光景じゃな……それに骨がウロウロしていたら気が休まらんと思うのじゃが」


『…………』


 言われてみれば確かにそうかもしれない。まぁどの道、外に出られないんだがな。

 でも、このままってのもなー何か俺に出来る事はないものか……あっそうだ。


『なあドラゴニュート族に伝わる秘薬とか、そういうのはないのか?』


 物語とかによく登場する何でも治す秘薬、大抵は空想の物語なんだろうが……現実にあるかもしれない。


「秘薬じゃと? そんな物もあるわけがないのじゃ。第一じゃ、わし等が病気や怪我をしても治癒能が高いから直ぐ治ってしまうじゃ」


『あーそうか』


 そりゃそうだ、俺の体も魔力ですぐ治っているんだし、モンスターの中でも上位であるドラゴニュートの治癒力もすごいわな。


「そんなことをしなくても、けがなんてなめればなおるじゃいか」


『犬と人間と一緒にするな!!』


「っ!? ポチはいぬじゃない! れっきとしたおおかみだ!」


 俺からしたら、どっちもどっちだなんだがな。


『あーあ……いい案だと思ったんだけどな』


「おい! むしするな! エサ!」


「何を思っていたのかは知らんが、仮にそんな物が在ったとしても人間に合うとは思え……あ、もしかしたら人間に効く薬が作れるかもしれんのじゃ」


『そうだよなーそんなうまい話なんて……あるの!?』


 そんな物があるんだったら早く言ってほしかった。


「絶対に作れるとは限らんぞ?」


 それでもいい、可能性が少しでもあるんだからな。


『で、それはどうやって作るんだ?』


「いや、わしは作り方なんて知らんのじゃ」


 ん? それはどう言う事だ?


『いや、今作れるかもって言っていたじゃないか』


「それは、ここを建てた人間の物じゃからじゃ。ここにいる間に【母】マザーについていろいろ研究をしていたのじゃ。じゃから、もしかしたらその中に薬があるかもしれん」


 ここを建てた人間で【母】マザーを研究していた……ってそれって絶対にジゴロ爺さんの先祖の事だ! だったら薬が出来たって可能性も十分にある!


「ただ、研究室がまだ残っておるのか、薬なんぞ出来たのか、それを記したものがあるのか、と見に行ってみないとわからんのじゃ」


 それでもこんな所で何もしないよりましだ。

 どんな事でもいい、それに賭けるしかない。


『だったら行ってみるしかない、そこへ案内してくれないか?』


「それはかまわんが、あまり期待しない方がいいと思うのじゃ……とにかくあやつはわけがわからん奴じゃった。記憶が残らないのをわかっていたのに、それでも研究したいと言っておったほどの変わり者じゃからな」


 そうだろうな、研究熱心の血筋はずっと受け継がれているみたいだし。

 だが、だからこそなんだ……ジゴロの爺さんも色々作り出しているからな。


『それでもいい、頼む!』


 こうなりゃ土下座だ、土下座!


「そこまでするか!? ああもう、わかったのじゃ! そこに連れて行くから頭を上げるのじゃ。ほれ、掴まるのじゃ」


 やったゼ。


『あざーす!!』


 よし、待っていろよコレット。

 病気は俺が絶対に治してやるからな!!

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