第84話 ケビンの書~乗っ取り・2~

 こんな馬鹿な奴と一緒にいてたまるか!

 意地でも脱いでやる!


『この、俺から離れろ!! この馬鹿が!』


《おいおい、まだ抵抗するのか? 無駄な事を……って誰が馬鹿だ!》


 指を動かそうしてもまったく駄目だ。

 本当に体を乗っ取られたらしい……どうしたものか。


「ん? おい、ケビン。こんな所に立ち止まってどうしたのじゃ?」


 ナシャータ!

 そうだよ、ナシャータならこんな鎧すぐに脱がせられるはず。


『ナシャータ! 助けてくれ!』


「はあ? 何を助けるのじゃ」


『この鎧に体を乗っ取られたんだよ、だからこれを脱がしてほしいんだ!』


「…………いきなり何を言い出すのじゃ?」


 あっしまった、肝心な部分を言ってなった。


『これは普通の鎧じゃなくてだな、寄生型モンスターだったんだよ! それで俺の体がこいつに乗っ取られたんだ!』


 これなら伝わるはず。


「……寝言じゃったら、わしが言いたいくらいなのじゃがな」


 全然伝わらなかったし!

 駄目だ、今のナシャータは半目になっている……完全に睡魔に負けて思考が低下しているみたいだ。


「ふわぁ~……わしはもう限界じゃから、そんなくだらない遊びに付き合っていられぬのじゃ。わしはもう行くのじゃ……」


 ああ、もう! どうしたら信じてくれるんだ。

 ナシャータが、最初からこいつとのやり取りを見ていたら……待てよ、やり取り……そうだ、この鎧は喋れるからそれをナシャータに聞かせれば!


『待ってくれ! この鎧は喋るから、その声を聞いてくれ!』


《…………》


 あれ? 何も喋らない。


「……ケビン、もう勘弁してほしいのじゃが……」


『やっちょっと待ってくれ! おい、さっきまであんなに喋っていただろうが!』


《…………》


 こいつ、もしかしてだんまりを決め込む気か!?

 都合のいい時だけ鎧のふりかよ!


「おやすみなのじゃ……」


 やばい、ナシャータが行ってしまう!


『まっ――』


「ごしゅじんさま、あのエサのいうことはともかく、あのよろいからへんなにおいはしますよ?」


『《!?》』


 まさかのポチからナイス発言が!!


「……なんじゃと? ん~……む? 確かにケビンでも枝でもない、微力な魔力を感じるのじゃ……。まったく、こんな眠い時にまた厄介事とは……」


 ああ、どうやら信じてくれたみたいだ。

 ポチの言葉なのがちょっとあれだが……。


《ちっ、鼻の利く奴がいたとは!》


 やっと、こいつも喋ったよ。


「お、確かに喋ったのじゃ。はあ~こんなのがいたんじゃな、初めて知ったのじゃ」


 ナシャータもこの鎧に関して知らなかったのか。

 なるほど、睡魔も重なって余計鈍くなっていたわけか……。

 いや、そんな事はどうでもいい。


『わかったのなら、これ取ってくれ!』


「やかましいの~。そんなに大声を出さなくても、すぐに剥がしてやるのじゃ」


 ナシャータの力があれば、こんな皮だけの奴は簡単に剥がせるだろう。


《おっと、待ちな。俺は今こいつの体を乗っ取っているんだ。無理やり俺を剥がすと、こいつの体もバラバラになっちまうぜ? それでもいいのか?》


『何だと!?』


 何て卑怯な奴だ!


「いや、ケビンは毎日の様にバラバラになっておるし、再生もするから特に問題はないのじゃが……」


 あ、そうじゃん。

 こんな時は、この体は役に立つな。


《……へっ? そうなの?》


『そうだな……』


 だからといって、そう喜ぶものでもないが。


《人質にならないなんて、何て役立たずな骨だ……》


 失敬な!


「それじゃ問題はないな、剥がすのじゃ」


《ちょっ待て待て待て待て! えーと……そう! 魂だ! 完全に乗っ取れなかったが、半分の魂は俺と繋がっている状態だ。だからこいつの魂も一緒に剥がれて、ただの骨に戻るぞ?》


「往生際が悪い鎧じゃな……」


『待ってくれ、たぶん言っていることは本当だと思う。こう、俺の中でこいつと交じり合っている感覚はあるんだ……』


「……ちっ」


 本当に人質になってしまった。


《……ハァアアアアアア、何で骨の中に魂があるのかよくわからんが……とりあえず助かった》


 繋がっているから分かる、こいつが心底安心しているのを。


《だが、このままここにいてもまずそうだし……しかたない》


 ん? こいつ回れ右をしたが、何を……。


《――っ!》


急に走り出した!?


 もしかして、2人から逃げる気か?

 無駄無駄……あの二人から逃げられはしない、すぐに追いかけて――。


「ごしゅじんさま、おわなくていいんですか?」


「そうじゃな~特に害はなさそうじゃが……ポチ臭いは覚えたか?」


「はい」


「じゃったら後でも追えるの。わしはもう限界じゃからちょっと仮眠をとるのじゃ……おやすみ……」


「わかりました、おやすみなさいです」


 ――こないし!


『そんなあああああああああああああ!!』




 ◇◆アース歴200年 6月18日・朝◇◆


 あれからこいつ、ずっと遺跡内をあちこち走っているが何がしたいんだ?

 俺は疲れないから問題はないが……。


 《あっ! やっと見つけた!》


 見つけたって、あれは遺跡の入り口? 外が明るい、どうやら一晩中走っていたみたいだな。

 しかし、入り口を探していたのか……入り口……ってまさか。


『おい、もしかして外に出ようとしているのか!?』


《そうだ! やはり骨じゃなくて、ちゃんとした生身がいいしな。ここを出て人間を乗っ取ってやる!》


 やっぱりか!

 ああ、まずい、入り口に向かって走り出した。


『おっおい! 止まれ!!』


《ふん、お前の言う事なんか聞くかよ!》


『待て、ちゃんと俺の話を聞い――』


《『ハブッ!!』》


 勢いよく突っ込んだから結界に弾き飛ばされた……だから、止まれと言ったのに。

 すごい衝撃だったが、幸い鎧と腰ミノのおかげなのかバラバラにならなくてすんだみたいだな。


《え? なっ何が起こった? 今、弾き飛ばされた様な……》


『様なじゃなくて、弾き飛ばされたんだよ。この遺跡には結界が張ってあるんだ』


《結界だと!?》


『そうだ、だから俺の体だと弾かれて外に出られないんだ』


《なんじゃそりゃ! この体、役立たずにもほどがあるぞ!!》


 そんなに役立たずって言わなくてもいいじゃないか……いいところもあるんだから……。

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