第76話  ケビンの書~逃亡者・6~

 しかし、ナシャータがここまで落ち込むとは思いもしなかった。

 まぁ自分自身でミスリルゴーレムを解き放って起こった事だからな、こればかりはどうしようもない事実……だが、そんなナシャータの事何てどうでもいい! 俺にとって一番まずい事はコレットが来ない可能性がまたでた事だ!

 せっかく、コレットが遺跡に来られるようにナシャータとついでに【母】マザーの存在をうやむやにしたのに意味がないぞ。


『くそ……あの時、ミスリルゴーレムを停止させたのに……』


「エサまで、ごしゅじんさまとおなじかっこうになっちゃった」


 それをまた動かすなんて――いや、待てよ……そうだ、コレット達はミスリルゴーレムが停止しているのを見ているんだ……それが動いたとなれば、あの四つ星の親父が調査に来ないといけない。

 そこで、完全に停止したミスリルゴーレムをあの親父に見せれば、この遺跡は安全と判断してくれるはずだ。

 そうなれば、またコレットも遺跡に来られるようになるぞ。


『よっしゃ! これでいこう!!』


「わっ!? きゅうにおおごえをだして、おきあがるな! びっくりしたじゃないか!」


 さて、ミスリルゴーレムを完全停止させる方法は、やっぱりコアを抜く事だよな。

 その為にはミスリルゴーレムが停止している場所を把握しないといけないんだが……この遺跡を探しまくるのは無理がある。

 だから、ポチの鼻で探索させれば早いんだが……ポチは俺の言う事をまったく聞いてくれないからな、ナシャータの一声で簡単に動くだろうが……あの落ち込んだ状態のナシャータをどう動かしたものか。

 あれこれ、言ってもボロが出そう出し素直に話すか。


『なぁ、ナシャータ。話があるんだが』


「……なんじゃ」


 すっごい声のトーンが低いな。


『ミスリルゴーレムのコアを取ってほしいんだ』


「……何故わしがそんな事をしないといけないんじゃ、嫌じゃ」


『最後まで聞けって、思いついたのが――』



『――というわけだ』


「ふむ……なるほど」


『だから協力してくれないだろうか? 頼む!』


 とは言っても、ナシャータに利点はないから断れそうだが……。


「……わかったのじゃ、協力してやるのじゃ」


『……だよな、やっぱり――って協力してくれるのか!?』


 これは予想外な答え。


『いっいいのか!? 本当の本当に!?』


「あ~も~しつっこい奴じゃな。やっぱり止めてもいいんじゃよ?」


『いやいや! お願いします!!』


「ただし、条件があるのじゃ」


『条件だって?』


 なんだろう。

 むちゃくちゃな事を言わなきゃいいが。


「そうじゃ、その取り出したコアは【母】マザーの所へ持って行って魔力を充填させ、また元に戻してミスリルゴーレムを動かすのじゃ」


『……ふむ……え? はっ!? いやいや!! それじゃ結局、ミスリルゴーレムが動いているせいでコレットが来られないじゃないか!!』


 そんな条件を飲むわけにはいかないぞ!


「わしの話を最後まで聞くのじゃ、コアを戻すと言ってもお前が言う事が全て済んでからじゃ。それならいいじゃろ?」


『……まぁ事が済んだら問題は……ない……』


 ……よな?


「こいつをこのままにしておけん、破壊するのも手間じゃ、かと言っていつ動けるのかわからん。じゃから確実にコアに魔力を充填させて自分で退いてもらうのじゃ。それにミスリルゴーレムが一体何処まで移動してしまったのか気にはなっていたのじゃ」


『……なるほど』


 素直に話して正解だったみたいだな。


「まずはここの一体を! ――よし、取れたのじゃ。ほれ、ケビン」


『おっとと、何で俺に投げるんだよ』


「お前は特にする事がないじゃろ、じゃから荷物持ち位するのじゃ」


 する事がないんじゃなくて出来ないんだよ!

 ……そうだ、このコアをコレットにあげてしま――。


「そうそう、そのコアを小娘にやろうなどと思っては駄目じゃぞ」


『そっそそそんな事はおお思ってねぇよ!』


 完全に読まれていた。


「それじゃポチ、残りのミスリルゴーレムの案内を頼んだのじゃ」


「は~い! ポチにおまかせください! ――クンクン、こっちです!」


 本当に、こいつはナシャータの言う事は素直に聞くよな……。




 ◇◆アース歴200年 6月18日・朝◇◆


 まさか、朝までかかるとは思いもしなかった。

 あちこちに散らばってはいたせいで、時間が掛かったってしまったな。

 にしても、ミスリルゴーレムが遺跡の外まで出て来ていたはびっくりしたが、ポチも普通に外に出られる事にもびっくりしたわ……俺だけ出られないのは何か悲しい。


「こいつでさいごです」


「ふんっ! ――ほれ、ケビン」


『おう、やっと終わった……』


 コアの数は11個か、結構な数が居たんだな……。

 しかし、外のこの状況は何だ? どうも露店が並んでいたみたいだが、ミスリルゴーレムが暴れたのかめちゃくちゃになっている……大勢の冒険者達が集まったから、こんな所にまで露店が並んでいたのだろうか? うーむ……今回の出来事は本当にわからない事だらけだ。


「ふわぁ~さすがに疲れたのじゃ……わしは寝るのじゃ」 


「くわ~おなじくポチも……」


『あ、ああ、おやすみ……』


 2人がさっさと奥に行ってしまった、一晩中動いていたからしょうがないか。

 こういう時、疲れも睡魔もないこの体は便利だな。


『ふぅ……とりあえず、後はあの四つ星の親父が来るのを待つだけか』


 今日来てくれたらいいんだが……コレットも来てほしいな。

 後、この作戦もうまくいけばいいがな。


『…………ん?』


 あれ? 何か忘れている様な気がするんだが……。


『うーん……ま、いっか』


 ミスリルゴーレムを停止させる目的は達成したんだし。

 後は、コレットと四つ星親父が来るのを待つだけだな。

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