6章 二人のびっくり箱と宝箱

第48話 ケビンの書~びっくり箱・1~

 何だ! 圧倒的に存在感があるのはあの馬鹿でっかい大樹は!?

 ……幹がほとんどこの空間を埋め尽くしているし、林冠の部分は天井いっぱいに大きく広がっている……。


「ふぅ、そろそろ疲れてきたから、今からお前を地面に降ろすのじゃ」


 え? 今から降ろすって……まだ地面まで高いのだが……。

 まさか、こいつ俺の手を離すつもりか!?


『ちょっまっ――』


「ちゃんと着地するのじゃよ。ほいっ」


 やっぱりこいつ手を離しやがった!


『あーーーー!!』


 これは地面に叩きつけられて、またバラバラになるオチか。

 この脆い体どうにかならんものか……ああ、そうこう考えてる間に地面が目の前だ。


『――ハグッ!! ……ってあれ?』


 俺の体がバラバラになっていないぞ。

 それにこの地面から魔力を感じるし、虹色に輝いているし……これは間違いない。


『……魔晶石。じゃあこの大樹はもしかして……魔樹なのか!?』


 俺が見た事がある奴とは大きさの規模が違いすぎる!

 幹の太さは一体どれだけあるんだよ……10mくらいはあるんじゃないだろうか……


「そう、魔樹じゃ。しかし、元々大きかったがわしが寝ておる間にまた一段と大きくなったのじゃ。まあ約200年も経っておるし、当たり前か」


 200年以上前から大きかったって、こいつの樹齢は一体。


『……ん? 魔樹に実ってる、あの木の実は……』


 赤くて握りこぶしくらいの大きさの実。

 はて、どこかで見た事があるような。


「わしの主食の木の実じゃ」


 そうか、あちこちに生えていた植物はこの魔樹から伸びた枝だったのか。

 言わばこの遺跡が魔樹の枝の上に建っているような物だから魔力が流れ込んでいたのか。

 ふーむ、なるほ――ん……? 木の実だって?


『ちょっと待て、魔樹が実をつけるなんて聞いた事がないぞ』


「そりゃそうじゃ、この魔樹は普通じゃないからの。つまり木の実、いや魔樹の種を生み出せる魔樹じゃな。わしはこの魔樹を【母】マザーと呼んでおるのじゃ」


 【母】マザー……そんな魔樹があったなんて知らなかった。

 魔樹の種を生み出すか、ハッそうだ! 


『この魔樹の種をとって、あちこちに植えれば魔晶石が取り放題じゃないか!』


「……やはりスケルトンと言っても中身は人間じゃの」


 何だよ、いいアイディアなのに。

 魔晶石が取り放題なんだぞ、どれだけ稼げると思うんだ。


「良いか? そんな事をすればじゃ、あっという間に大地の魔力が吸われ、地が枯れてしまうのじゃ。そうなるとどうなるのか、目がないお前でも目に見えるのじゃろ?」


 地が枯れる……という事はつまり食物が育たなくなるって事か。

 いやそれだけじゃすまない、草も生えなくなると草食動物の死に絶え、肉食動物も死に絶え……無論人間なんてとっくに……。


『こえぇ! 魔樹を増やすだけでそんな事になるのか!?』


 まさに世界の崩壊へと進む行為じゃないか。


「ふむ、どうやらその目に見えたようじゃな。しかし、先を見通さず自分の利益しか考えない愚か者も居るのは事実じゃ。そうならぬ為に、わしはこの【母】マザーの魔力から生み出された守護者なのじゃ。他の場所に生えている【母】マザーもわしと同じように守護者が生まれ、【母】マザーを見た人間の記憶を消しておるのじゃ」


 ええ!? ナシャータって木から生まれた存在だったのかよ!

 でも何故ドラゴニュート? 普通とかアルラウネといった植物系モンスターにならないか?

 ……まぁそんな事はどうでもいいか、それにしても予想以上にデカイ秘密だったな。


『しかしナシャータが守護者ねぇ、意外にも重要な役目をしていたんだな』


「そう、わしも意外と……意外とは何じゃ意外とは!?」


『となると、この遺跡ってこの【母】マザーを隠す為に建てられたわけか?』


「わしの話を無視してからに……そうじゃ、最初はここを見つけた人間の記憶を消し追い返しておったんじゃがそんなある日、わしに無防備で話しかけてくる偏屈な人間の男が来たのじゃ」


 ドラゴニュートに話しかけるなんて確かに偏屈な奴だ。


「警戒はしていたのじゃが……そいつは言葉巧みな奴でな、つい気を緩めてしまって今の事を話したのじゃ。そしたらどうじゃ、次の日には村人全員がここに来てわしを崇え、更にはここを守る為に神殿まで建てると言い出したのじゃ。わしは断って記憶を消そうとしたんじゃが熱心に押し切られての、『もう好きにするのじゃ!!』と言ったらこの神殿が建ったという訳じゃ」


 なるほど、ナシャータの意志とは関係ないって言っていたのはこう言う事だったのか。


「神殿が建ち、それで十分だと思ったんじゃが。最初に話しかけてきた奴がな『まだ不十分ですな! 隠し部屋や罠とかを仕掛けてもっと安全性を高めるですな!』とか言い出しての。今の様に数多くの隠し部屋や罠がいっぱいというわけじゃ。いやはや、あやつは変な口調で喋る奴じゃったから印象に強くて今だ覚えてるもんじゃ」


 ドラゴニュートに話しかける偏屈な人間、そしてその変な口調に隠し部屋や罠……俺の知っているある人物に似ているんだが、もしかして……。


『なあ、おれ自身の興味本位の事なんだがその人間の名前とか他に特徴は覚えているか?』


「ん? 名前か? 確か~そう、エゴロという名前じゃったな。後わしの事をナシャータ氏と呼んでおったのじゃ。そうそう! そやつの髪が面白くての、ボワッと膨らんでおって顔よりでかかったのじゃ、見た瞬間笑ってしまったのじゃ」


 間違いない……その偏屈な人間はジゴロの爺さんの先祖だ。

 この遺跡は何かおかしいとは思ったんだよ、尋常じゃないほどの数の隠し部屋に罠……すべて納得いったわ。

 しかし、この話が子孫であるジゴロの爺さんが知っているように思えないし、その村で伝承とか残っていてもおかしくないよな。


「じゃが、最後にわしはそんな村人達の記憶も消したのじゃ。こればかりは仕方のない事……村人達も理解してくれたが、あの時は心苦しかったのじゃ……」


 なるほど、だから子孫のジロゴの爺さんや【母】マザーについての伝承が一切残っていない訳か。

 ナシャータのあの悲しそうな顔、見ているこっちも切なくなってきたな。

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