2‐8

 翌日。亜矢達に昨日の出来事を話した。女の子達からお金を盗られそうになり、木村先輩達に助けてもらったこと、生徒会室で話を聞いてもらったこと。


「きゃー! 奈緒ちゃんには災難だったけど助けてくれた先輩達やっぱりかっこいい!」


仲良しグループのひとり、美織ちゃんは先輩達の登場に嬉々としている。だけど私の話を聞いてる亜矢の顔は険しい。


「でも奈緒、昨日は先輩達が助けてくれたけどこれからどうするの?」

「うん。そうなんだよね。今日も辞書盗まれてたし……このままじゃいけないよね」


 学校に来てみるとロッカーに入れてあった辞書がなくなっていた。辞書はまだ見つかっていない。


「慰謝料よこせ! って言ってきた子達の名前わかる?」

「わかんない。見たことない子達だった。三人共、一年生で同じクラスになったこともないし特進文系じゃないのは確か」


特進文系の二クラスは体育の授業が合同だ。体育の授業中にあの三人組を見かけたことはない。美織ちゃんと亜矢が唸った。


「誰かわかればこっそり先生に言えるのにね。でも先生が知っても何もしてくれないかも……」

「もういっそのこと放課後や朝早く学校来て見張りしない?」

「それは止めた方がいいよ」


 亜矢の提案をそれまで黙っていた桃子ちゃんが遮った。


「桃ちゃんなんで? 早く嫌がらせ止めさせて奈緒を楽にさせてあげたいじゃない」

「お金盗ろうとする子達だよ? 仕返しで何されるかわからないよ。もしかしたら教科書盗られるだけじゃなくてもっと酷い仕返ししてくるかもしれない。危ないよ」


桃子ちゃんの意見にも一理ある。仕返しされそうだよね。


「じゃあどうすればいいの? このままじゃ奈緒がいつまでも嫌がらせされ続けちゃう」

「順位の賭けのことはけっこう大きな組織ぐるみでやってるって噂で聞いてる。だから高園先輩達がこのまま放っておくとは思えないよ。先輩達が何か手を考えるんじゃないかな?」


 休み時間終了のチャイムが鳴って私達の会議は終わった。帰りのHRの前に桃子ちゃんが私の辞書を見つけてくれた。廊下のゴミ箱に落ちていたらしい。


 桃子ちゃんは先輩達に任せるべきだと言っている。あの三人組のクラスや名前を突き止めたとしてもノートや教科書を盗んだのがあの子達だと確証はない。

仕返しも怖い。自分のことは自分で解決する……そう意気込んでも何をすればいいかわからない。

結局私ってなんにも出来ないんだよね。


 だけど翌日から私を悩ませていた嫌がらせはぱったりとなくなった。次の日も、その次の週も私の持ち物が盗まれることはなかった。

拍子抜けするほど呆気なく、何事もない平穏な日常が戻ってきた。

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