2‐2
それはある日突然訪れた。私の平和で平凡な学生生活はある出来事をきっかけに終わりを迎えることになる。
5月末日、今月に行われた中間テストの順位表が職員室前の掲示板に貼り出された。科目別順位と総合順位上位30名の名前が学年別に載っている。
私は自分の学年の二年生の順位表ではなく三年生の総合順位を見ていた。
1位 3‐1 木村隼人
1位 3‐3 高園悠真
これはもうテスト後の風物詩と言っても過言じゃない。この二人の名前が同率1位の光景は見慣れてきたと言ってもやっぱり凄い。
「奈緒! 奈緒ってば!」
亜矢が慌てふためいて私を呼んでいる。
「どーしたの?」
「あんた順位表見たの?」
「二年のは見てないけど……」
見たってどうせ私の名前はないんだろうなぁ。今までも最高で30番台だったし、文系なら20番台を狙えても、まぐれでもない限り総合順位上位30人の中には入れない。
「……はぁ。ちょっとこっち来て」
呆れた溜息を漏らす亜矢に引っ張られて私は人で混雑する二年生の順位表の前に連れて行かれた。
「ほら総合順位の上から二番目、よく見て!」
「二番目?」
前にいる人の身長で遮られてよく見えない。背伸びをしてようやく見えたそこには…
2位 2‐2 増田奈緒
……ん? は? え? ……ますだなお……あ、ますだなおって私の名前か。2の数字がよく並んでるなぁ。……え?
2位、増田奈緒? 同姓同名そっくりさんじゃなくてっ!?
「2位って……嘘でしょ……」
確かに今回のテストは点数もよかった。苦手な理系科目も満点に近かった。でもまさか…
総合順位で良くて30番台だった私が……学年二番目?
「嘘じゃないよ! 奈緒2位とったんだよ! お祝いしなきゃ!」
私はまだこれが現実だと信じられないのに亜矢は自分のことのように喜んでくれている。
総合2位はびっくりしたけど素直に嬉しい。
勉強は嫌いじゃない。でも好きでもない。
運動音痴な私が学校で頑張れることは勉強しかないから頑張ってきた。頑張った成果が認められるのは嬉しいな。
杉澤学院高校のテストで学年2位をとることがどういうことなのかを、この時の私と亜矢はまだわかっていなかった。
翌日から私の生活に変化が訪れる。
「……あれ? ……ない」
体育の授業を終えて次の古文の授業の準備をしようと机の中を覗いた私は古文の教科書がなくなっていることに気付いた。朝は確かにあった。
カバンの中にもロッカーにもない。仕方なく別のクラスの友達に教科書を借りて事なきを得たけど……どうして?
「増田奈緒さんいますか?」
帰りのHRの直前に見知らぬ女子生徒が私のクラスを訪問した。上履きの色を見ると三年生の先輩だ。
「これ、増田さんのだよね?」
先輩は私の名前が書かれた古文の教科書を持っていた。
「はい。私のです。ありがとうございます。あの、教科書どこにありました?」
「裏庭のゴミ箱に入れてあったの。掃除の時に見つけて……」
先輩が言いにくそうに耳打ちしてきた。裏庭のゴミ箱……? 教室に置いてあった教科書がそんな場所で見つかる理由はひとつしかない。
誰かが私の机から教科書を持ち去って裏庭のゴミ箱に捨てたのだ。
「増田さんって、この前のテストで学年2位になった子だよね?」
「はい」
「……気を付けてね」
最後に先輩はそう言った。どういう意味か聞き返そうとしたがすぐに先輩は廊下を歩いていってしまって、気を付けての意味がわからないまま不安だけが膨らんだ。
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