【第二巻:事前公開中】魔法で人は殺せない4

蒲生 竜哉

目玉狩り事件

その日の夕刻、ダベンポートはグラムの訪問を受けていた。グラムが言うにはセントラルで猟奇事件が起きていると言う。被害者は街の娼婦、どの被害者も眼球を失っていた。だが誰が、一体何のために?

第一話

 その日の夕刻、ダベンポートは王立騎士団の中隊長グラムの訪問を受けていた。

 とりあえず書斎に通し、話を聞く。

「で、どうしたんだい?」

 ダベンポートは向かいに座ったグラムに訊ねた。

 ダベンポートの書斎の椅子は身体が分厚いグラムには少々小さそうだ。いつものように何やらもそもそと窮屈そうにしている。

「……もっとデカい椅子はないのか、ダベンポート」

 まだもそもそしながらグラムが文句を言う。どうやら居心地の良い角度を探しているようだ。

「背のない丸椅子ならあるにはあるが……」

 ダベンポートの書斎は、狭いながらも居心地の良い部屋だった。大きなデスクに小さなティーテーブル、ダベンポートの椅子ともう一つティーテーブルを挟んで小ぶりの椅子。

 部屋には小さな暖炉が一つあり、壁は全てダベンポートの蔵書で覆い尽くされている。

 ティーテーブルを挟んで向かいに置かれた小ぶりの椅子はリリィが座って雑談できるようにとダベンポートが用意した椅子だった。今はグラムが座っているが、そのような大柄な男性が座ることはそもそも想定されていない。

 そんなことを知ってから知らずか、

「俺が来ることは判っているんだから、椅子ぐらいもっといいのを買ってくれよ。理不尽だ」

 とグラムはいつものように文句を言った。

 どっちが理不尽だよ、とダベンボートは肚の中で毒づく。

 だが、ダベンポートはこのグラムという友人が好きだった。なので、

「考えておくよ。リリィに通信販売のカタログを取り寄せてもらおう」

 と気休めを言う。

 トントントントン。

 と、礼儀正しい四回ノック。

「リリィ、お入り」

 ダベンポートは立ち上がると、ドアを開けた。

「旦那様、グラム様、お茶とお茶菓子をお持ちしました」

 リリィがトレイにお茶とお茶菓子を乗せて静々と入ってくる。

 お茶にはちゃんとティーコジーが被せられていた。お茶菓子はいつものようにショートブレッド。

「お茶をどうぞ、グラム様」

 優雅な仕草でお茶菓子とお茶を二人の前の小さなテーブルに並べ、丁寧にお茶を注ぐ。

 その一挙一投足をグラムは陶然と見つめていた。

「…………」

 無言のまま、グラムの目がリリィの手の動きを追う。

 ダベンポートはグラムがリリィのことを気に入っていることを知っていた。知っていたから、早くリリィを行かせなければと思う。

 早くリリィを行かせないと、グラムがドロドロに溶けてしまう。

「リリィ、僕たちはちょっと怖い話をしなければならないんだ。申し訳ないがリリィにはしばらく遠慮してもらわなければならないかも知れない」

 ダベンポートはリリィに言った。

「存じております、旦那様」

 その言葉に、リリィがニッコリと笑う。

「では失礼致します、グラム様、旦那様。もしご用がおありでしたらいつでもお呼びください」

 お茶を注ぎ終わるとペコリと頭を下げ、リリィは空になったトレイを抱えてダイニングの方に戻っていった。

 同時にグラムが我に返る。

「……そう、ダベンポート。事件なんだ。セントラルで娼婦が殺されている」

…………


「娼婦が?」

 ダベンポートはグラムに聞き返した。

「ああ、もう十人死んだ。生存しているのは二人、だがどちらも瀕死だ。この件が俺の中隊に回ってきたんだ。ダベンポート、手伝ってくれ。どうにも魔法絡みの匂いがする」

「手伝ってくれったって、君」

 流石にダベンポートが鼻白む。

「君は僕のことを私立探偵か何かと勘違いしているようだ。僕だって一応王立魔法院の一員なんだぜ? 僕の一存ではどうにもならない。上を通してくれ」

 と、グラムはニヤッと笑った。

「そういうと思ったよ」

 懐から騎士団の封蝋が押された羊皮紙の書状を取り出す。

「そういうと思ったから、もう手を打った。これは騎士団からの正式な書状だ。もう魔法院の印をもらっている。お前はもう巻き込まれたよ、残念ながら」

「……グラム、汚いぞ」

 流石にムッとした。

 先の先まで読まれるとは。しかもこんな訳の判らなそうな事件に。

「だいたいだな、警察は何をしている? そんな娼婦が十人かそこら殺されたからって、騎士団の出番じゃないだろう?」

 思わず文句を言う。

「それは俺も思ったさ」

 とグラム。

「だが、警察も手が回らないみたいなんだ。セントラルでは常日頃色々起きているんでね。どうやら被害者が十人超えたら騎士団行きってルールが先方にはあるみたいだよ」

「……無茶苦茶だな」

 思わず宙を仰ぐ。

 ダベンポートは額に手をやってしばらくグラムを見つめていたが、ようやく観念すると、

「で? 詳しい話を聞こうか。騎士団はこれがなぜ魔法絡みだって思っているんだね?」

 とグラムに訊ねた。

 まあ聞くまでもないけどな、とダベンポートは同時に思う。

 魔法院が騎士団の依頼を受諾したのだ。魔法院もこれが魔法関係の可能性大と判断した証拠だ。

「ああ」

 グラムは懐から薄い報告書を取り出した。ダベンポートにも見えるようにテーブルの上に開いて見せる。

「この事件、被害者は全員眼球を失っているんだ。犯人は目玉を集めているんだよ。ダベンポート、目玉を媒介にして行使できる魔法ってあるんじゃないか?」

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