十五話 遺跡探索2


 ぴちょんぴちょん。

 天井から落ちる水滴が床の水たまりに落ちる。

 空気はひんやりとしていて寒い。


 薄暗い石造りの道。頼りの明かりは俺とレイナの持つオイルランプだけだった。

 カイン達は普段とは違ったぴりぴりと空気を纏わせ、抜き身の武器を片手に常に戦闘態勢だ。これが戦いを目前にした冒険者かと少し怖くなる。

 あの寡黙で優しそうなダリオスですら目が怖いのだ。


「な、なぁ、少し離れて歩いた方がいいか?」

「それはダメだ。君を守りきる為には近くにいてもらわないと困る。それとも獣に生きたまま食われたいのかい」

「このままでいいです」


 ランプで照らしつつ俺とダリオスが並んで進む。

 後方ではレイナがランプで照らしている。不意打ちを防ぐ為だ。


「それでそろそろ俺を連れてきた理由を聞いてもいいか?」

「簡単に言えば、これから見つかるであろう物を君に量産してもらいたいんだ。お店で販売できるようになれば、きっと大もうけできるはずだ」


 なんだ、新商品の為の探索だったのか。

 それならそうと早く言ってくれればいいのに。

 にしてもこの通路、異様に長いな。

 迷路のように入り組んでいて、かれこれ二十分以上は歩きっぱなしだぞ。


「もしかしてこんな道がずっと続くのか」

「違う違う。ここはあくまでも途中さ。調べるべき場所はもっと先にある」


 しばらく歩き続けると、開けた場所へとたどり着いた。

 言うなれば巨大な部屋だろうか。

 ただし、暗すぎて全容は不明だ。


 どこもかしこも瓦礫が積み重なり荒れ果てていた。

 ランプを上に向けると、照らし出されたのはスフィンクスのような石像の顔。

 周囲に光を向ければ建物の崩れたような跡が見受けられた。

 かつての古代人はここで生活を営んでいたのか。

 まさに遺跡だな。ちょっぴりワクワクする。


 ぷにょんぷにょん。


 奇妙な音がしたので視線を向ける。

 道の先から丸い物体がこちらに向かって跳ねているのが分かった。

 ランプで照らせば、それはゼリー状の青い物体だった。

 あら、可愛い。撫でてあげるからこっちにおいで。


「バカ、よしなさい! あれに触れると皮膚を溶かされるわよ!」


 俺は慌てて手を引っ込める。

 すかさずレイナが魔法を放った。

 次の瞬間、ゼリー状の物体はぴきりと凍り付く。


「あれはなんだ?」

「スライムよ。別名は掃除屋。遺跡だけでなく地上にも生息していて、普段は虫や死肉などを食べて生きているわ。凶暴な奴は生きている相手でも襲うこともあるの」


 ひぇぇぇ、スライム怖い。

 戦々恐々としている間にも道の先から次々にスライムが現れる。

 レイナが魔法を放てば凍り付いて砕けた。


「こんな雑魚相手にしている暇はないわ。さっさと先へ進みましょ」


 俺達は瓦礫を避けつつ奥へと進んだ。

 しかし、ここはどれほどの大きさだろうか。

 未だにどれだけの大きさなのか見当も付かない。


「なぁなぁ、ここなら良い物あるかもよ!」


 リサが古代の店らしき建物を指さす。

 が、カインはチラリと見て首を横に振った。


「そこはもう人が入ってる。ほら、マークが付いてるよ」

「うわっ、本当だ。見えにくいところに刻むなよ」


 よく見れば確かに建物の壁に三角のマークが刻まれていた。

 俺が首をひねっていると、レイナがこっそりと教えてくれる。


「冒険者は調べ尽くしたと判断したら遺跡に印を刻むの。その方が効率が良いでしょ」

「なるほど。逆に言えばマークがない場所を探せばいいってことか」


 見渡せば至る所にマークが刻まれている。

 どこもかしこも人が入っていて空っぽらしい。

 収穫は新エリアに期待するしかないようだ。


 俺達は三時間かけて先へと進み、ようやく反対側の壁に到着する。

 体感だが数キロはあるように感じた。広すぎるだろ。


「ここら辺にあるって聞いたけど……あ、あれだ」


 カインが壁に視線を彷徨わせて何かを見つける。

 そこへ向かうと、壁に大きな穴が開いていた。


「隠し通路ってことか?」

「ここへ来たパーティーが、偶然崩れそうな壁を発見して壊したんだ。その先に見つけたのが今回行く新しいエリアさ」


 穴へ入れば再びジメジメした通路へと出た。

 だが、今回は直線だ。ひたすらまっすぐに進む。


「ここら辺はちょっと変わってるな。壁に模様が描かれている」

「古代の人々の生活を描いたものだと思うわ。専門家によれば彼らは植物を信仰していたそうよ」

「なるほど。それで樹に祈りを捧げている姿が沢山あるわけだ」


 壁画には一本の樹に人々が祈っているような光景が描かれていた。

 しかもその樹からは後光のようなものが出ており、明らかに普通とは違う印象を受ける。

 古代にそのような樹があったのか。

 それとも人々の信仰心がそのように見せているのか。

 定かではないが歴史的ロマンを感じた。


 ヤバい。俺、インディ○ョーンズみたいだ。

 これが冒険なのか。オラ、ワクワクすッぞ。


 通路の終点が見える。

 その先に広がっていたのは先ほどのエリアと変わらない光景。

 違うのはうろつく冒険者の数だ。

 エリア内では無数の男達の笑い声や怒声が木霊していた。

 しまいには爆発音も聞こえて破砕音が響く。


「冒険者ってみんなこうなのか?」

「まぁね。お宝目の前にして大人しくするわけないでしょ」


 それもそうか。歴史的価値とか気にするわけないよな。

 まずは目の前の宝。それこそが冒険者と言う生き物らしい。


「僕らも行くよ!」

「「「おう!」」」


 走り出したカインに付いて俺達も走る。

 お宝争奪戦ってところか。

 建物にマークが付いていないことを確認しながら道を駆け抜ける。


「たぶん奥ならまだ人の手が入っていない、良さそうな場所を見つけたら教えて欲しい」

「カイン! あそこはどうだ!」

「あれはダメだ、小さすぎる。狙うなら大きい場所だよ」


 リュックから顔を出した猫神様が声を発する。


「おい、向こうから良い匂いがするぞ!」

「なんだよそれ。別に食べ物の匂いなんてしないぞ?」

「違う! 金目の匂いだ! 我が輩の嗅覚を舐めるなよ!」


 全員がマジかよと言った表情で振り返った。

 そりゃそうだ、猫の嗅覚に反応するお宝ってなんなんだよ。

 だが、彼はただの猫ではない。神様だ。

 もしかすると、もしかするかもしれないだろ。


「みんな、猫神様の案内する方へ行こう! すげぇ宝物があるらしい!」


 リュックから飛び出した猫神様は走り出す。

 俺は彼に付いて行くことにした。


「猫ってそんな能力があったのか。アタシ知らなかった」

「バカね。そんなわけないでしょ。まぁ、でもあのしゃべる猫ちゃんなら、不思議なことがあってもおかしくない気もするけど」

「いいじゃないか。まだ時間はあるし従ってみよう」

「カインがそう言うのなら、俺はそれでいい」


 四人も俺に付いてきていた。

 これで何もなかったら飛んだ赤っ恥だぞ。


 猫神様は瓦礫を飛び越えて、とある建物の前で立ち止まった。


「はぁはぁ、ここがそうなのか?」

「むむむ、やはり金目の匂いがする。しかも多数だ。ここは間違いなく宝の山だぞ」

「嘘だったら承知しないからな」

「神を疑うのか。この不届き者め」


 ぺしぺしと尻尾を地面に叩きつけてと猫神様は怒る。

 これだけ自信があるのなら本当なのだろう。

 なんだかんだ言って彼が嘘を言ったことは一度もない。


 カイン達は建物の崩れた部分から中をのぞき込む。


「魔獣の気配がする。全員戦いに備えて」


 建物はかなり大きい。

 五階建てのデパートくらいのサイズで、一部が崩れて全体が斜めに傾いていた。

 材質はコンクリートにも似ているが、触ってみると金属っぽい。

 一万年も形を維持しているのだ、建築素材は地球のそれとは違っているのだろう。

 俺も彼らに付いて中へと足を踏み入れると、妙に獣臭さが鼻についた。


「こっちだ。付いてこい」


 先へと進む猫神様。

 こんなに暗くても見えるのだと妙なところで感心してしまう。


「こ、これは!」

「現実なの!? 嘘でしょ!」



 建物のとある場所に到着した俺達は、思わず声を上げてしまった。





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